2030年までのUniversal Health Coverage 達成に向けたアジア各国の進捗状況と課題に関する研究

文献情報

文献番号
202205003A
報告書区分
総括
研究課題名
2030年までのUniversal Health Coverage 達成に向けたアジア各国の進捗状況と課題に関する研究
課題番号
21BA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 絵里(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 種田 憲一郎(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
  • 児玉 知子(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
  • 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 藤田 雅美(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
  • 岡本 悦司(公立大学法人 福知山公立大学 地域経営学部医療福祉経営学科)
  • 野村 真利香(国立開発研究法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2030年までにアジア地域のUHC達成に向けて、基礎的医療保健サービスの提供体制や、国民皆保険に関連した保健財政の課題や改善策を検討し、今後、アジアの国々でUHC達成ために、日本からの提案の可能性を検討、また日本が主催する保健関連の国際会議の議題案や活用可能な情報を提示することを目的とする。
研究方法
6つの分担研究により、二次資料,フィールドワークから得た情報を分析した。1.医療提供サービスの質や安全に関する課題-1次医療を中心に、2.サービス提供における官民連携、3.高齢化するアジア諸国の医療保障制度、4.アジア地域における脆弱層に対する社会保障とUHCの関連、5.UHC達成のための患者負担のあり方と影響、6.UHCとSDGsの文脈におけるPHCの必要性。また、4回の課題別別勉強会を開催し、研究班からの提言をまとめた。
結果と考察
1. 医療の質・安全の研究の調査対象国4か国のうち、3か国で医療の質や安全に関して、法規制や国家政策があった。1次医療での具体的な医療事故の事例共有は、2か国であった。医療の質・患者安全の課題が少なくとも認識されていることが示唆されたが、ほとんどの国々で医療事故の具体的な事例が公開が少なく、患者安全の課題を把握することの難しさを示している。
2. 官民連携の分析では、近年、プライマリ・ヘルス・ケアでの予防・治療サービスを含めた官民連携の報告が増加している。インセンティブが生じることで事業間の競争が刺激され、サービス提供の改善がめざされているが、公平性、質、効率やシステム全体に及ぼす効果について不確実であった。官民連携は各国で取組み状況は異なるものの、その適切な運営を確立することにより、保健医療分野においても有効である。
3. アジア地域の国々のUHCのための法的枠組みの現状分析では、公的医療保障制度は、すでにある程度構築され、後発である新興国においても、2015年前後に制度構築が大きく進んでいた。一方、いずれの国も医療支出は大きく増加しており、今後の増大する高齢者数に応じて、制度がどのように構成され何が足りないか、といった分析のために、各国の制度を的確に把握する必要がある。
4. アジア地域の脆弱層における社会保障とUHCの関連性の分析では、社会保険の効果は、脆弱層への効果は限定的であるが、社会扶助は、脆弱層を含んだ人々の医療サービスの改善に有効であることが報告されていた。東南アジア諸国では、社会保障制度が拡大・拡充してきているが、その制度が縦割りでバラバラな現状が課題として認識され、社会保障の包括的な拡充を目指すとともに、社会扶助を含む社会保障と保健医療との連携・協力のあり方を検討する必要がある。
5. 患者負担が医療需要や医療費を確実に減少させるが、医療の質の低下や貧困者の受療阻害といった副作用も大きいことが示唆された。UHC(国民皆保険)は、潜在的な医療需要を掘り起こし,医療費と財政負担の膨張をもたらす。患者負担の増は医療費抑制手段として安易に利用されるが,副作用も大きく貧困者への影響や医療の質等への様々な影響を加味しつつ慎重に判断すべきである。
6. 2018年のPHC国際会議で採択されたアスタナ宣言では、「PHCアプローチ」によって保健医療サービスの背景にある要素に働きかけることでUHCを可能にするという考え方が示されていた。タイの事例も、「PHCアプローチ」の3要素に合致すると考えることができた。様々な健康危機の対応に加えて、先進技術(デジタル技術等)の活用がこれまで以上に求められる世界では、保健医療施設内だけでなく、コミュニティをはじめとしたあらゆるセッティング、より脆弱な人々・集団・地域・国、あるいは主要なアプローチの対象になりにくい集団に対する具体的な対応が必要であり、PHCの包括的な概念に基づく行動が不可欠である。
結論
分析結果に基づき、UHC実現のため、下記の5つを提言した。
1. 高齢化や非感染性疾患など現代社会の特徴的な人口構造や疾病にも適応するような、人々やコミュニティを中心とした柔軟かつ持続的なプライマリ・ヘルス・ケアのアプローチを求め続け、推進すること
2. 社会・経済的、身体・精神的に脆弱な人々を取り残さないためにも、保健医療サービスの提供だけではなく、社会扶助を含めた社会保障との連携を推進すること
3. 保健医療サービス提供の公平性、質、効率性、効果を最大限にするような民間医療サービスと公的なしくみの望ましい連携の在り方について、模索し、議論を続けること
4. 保健医療サービス提供の拡大のみならず、提供されるサービスによって人々を傷つけることがないよう、サービスの安全を保障するしくみづくりを推進すること
5. 自国の法律や政令、国家計画、プログラムに基づき保健システムを構築・進化させ、UHCの発展を確保すること

公開日・更新日

公開日
2023-08-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-08-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202205003B
報告書区分
総合
研究課題名
2030年までのUniversal Health Coverage 達成に向けたアジア各国の進捗状況と課題に関する研究
課題番号
21BA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 絵里(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 種田 憲一郎(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
  • 児玉 知子(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
  • 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 藤田 雅美(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
  • 岡本 悦司(公立大学法人 福知山公立大学 地域経営学部医療福祉経営学科)
  • 野村 真利香(国立開発研究法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2030年までにアジア地域のUHC達成に向けて、基礎的医療保健サービスの提供体制や国民皆保険に関連した保健財政の課題や改善策を検討し、今後、アジアの国々でUHC達成ために、日本からの提案の可能性を検討、また日本が主催する保健関連の国際会議の議題案や活用可能な情報を提示することを目的とする。
研究方法
2 年間で,7 つの分担課題研究において、二次資料、フィールドワークから得た情報を分析した。1.アジア地域のUHCの進捗と課題、2.医療提供サービスの質や安全に関する課題、3.サービス提供に関わる官民連携、4.高齢化するアジア各国の死因統計、保健統計の整備および各国の状況に適した制度構築、5.脆弱層に対する社会保障とUHC の関連、6.新型コロナパンデミックのUHC 達成に及ぼす影響およびUHC 達成のための患者負担のあり方と影響、7.太平洋島嶼国のUHC 達成の課題およびUHC とSDGs の文脈におけるプライマリ・ヘルス・ケアの必要性。1年目に研究班主催の国際共同カンファレンス、2年目に課題別勉強会を開催し、最後に研究班からの提言をまとめた。
結果と考察
1. アジア各国では,2010 年以降、指標の伸展は緩慢であった。アジア各国の分析では,UHC サービスカバレッジ指標と新型コロナ感染症の指標とは、明らかな関連はみられなかった。
2. 調査対象国では、医療の質・安全に関する何らかな取組みが行われており,少なくとも医療の質・患者安全の課題が認識されていた。しかし、医療事故の具体的な事例の公開は少なく、課題の詳細や全容を把握することの難しさも示された。
3. 近年、プライマリヘルスケアレベルでの予防・治療サービスを含めた官民連携の報告が増加していた。官民連携とプライマリヘルスケアに関するコンセッションのあり方など,World Bank によるモデルの紹介があるが、その取組内容は各国によって様々であった。
4. 調査対象国のASEAN+3 では、6 か国で全数登録による死因統計が得られた。また2カ国が保健統計をweb 公表していた。UHC 達成のための制度構築に関しては,日中韓各国は、社会体制すべてに影響を及ぼす事象により制度構築が進み、その歩みが異なった。ASEAN諸国では1960-70 年代に公務員などを対象とした制度が整備され,2000 年前後に全国民を対象とした制度に拡大される,という共通の流れがみられた。
5. 社会保障、社会扶助を通して,脆弱な人々の財政的・物質的な困窮が減少を介して、UHC の達成、健康の向上、持続可能な成長を導くことが明らかになった。社会保険は医療サービス利用や財政保護に有効であるが、脆弱な集団への影響は限定的であること、社会扶助が、特に脆弱な人々の医療サービスの利用や健康アウトカムにプラスの効果をもたらすことが示された。
6. UHC は新型コロナパンデミックに対する対策としてきわめて重要であるという認識は多くの国で高まった。患者負担は医療需要や医療費を確実に減少させるが、医療の質低下や貧困者の受療阻害といった副作用も大きいということが示唆された。
7. 太平洋島嶼国は、UHC指標、特にNCDsとサービスキャパシティの指数が非常に低く、地域特性に着目したモニタリングの必要性が考えられた。UHC とSDGs の文脈において、PHCのアプローチの構成要素は、統合保健サービス,多部門にわたる政策と行動,人々や地域社会のエンパワメントの3 つであり,保健医療サービスの背景にある要素に働きかけるPHCアプローチが、UHC を可能にするという考え方が示された。
結論
分析結果に基づき、UHC実現のため、下記の5つを提言した。
1. 高齢化や非感染性疾患など現代社会の特徴的な人口構造や疾病にも適応するような、人々やコミュニティを中心とした柔軟かつ持続的なプライマリ・ヘルス・ケアのアプローチを求め続け、推進すること
2. 社会・経済的,身体・精神的に脆弱な人々を取り残さないためにも、保健医療サービスの提供だけではなく、社会扶助を含めた社会保障との連携を推進すること
3. 保健医療サービス提供の公平性、質、効率性、効果を最大限にするような民間医療サービスと公的なしくみの望ましい連携の在り方について、模索し、議論を続けること
4. 保健医療サービス提供の拡大のみならず、提供されるサービスによって人々を傷つけることがないよう、サービスの安全を保障するしくみづくりを推進すること
5. 自国の法律や政令、国家計画、プログラムに基づき保健システムを構築・進化させ、UHCの発展を確保すること
UHC の実現に向けて、各国の取り組みも加速されると考えられるが、国際社会および日本社会において、各国のUHC 実現に向けて、各国の現状およびニーズに沿った取り組みが進むことを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2023-08-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-08-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202205003C

収支報告書

文献番号
202205003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,500,000円
(2)補助金確定額
5,415,000円
差引額 [(1)-(2)]
85,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,299,735円
人件費・謝金 856,374円
旅費 857,296円
その他 2,402,135円
間接経費 0円
合計 5,415,540円

備考

備考
自己資金540円となるため。

公開日・更新日

公開日
2023-08-02
更新日
-