低所得者の実態と社会保障のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200901006A
報告書区分
総括
研究課題名
低所得者の実態と社会保障のあり方に関する研究
課題番号
H19-政策・一般-019
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 菊地英明(武蔵大学)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析部)
  • 山田篤裕(慶応義塾大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
4,606,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、低所得層に対する社会保障のあり方に関して、以下の研究を行うことを目的とする
1.低所得層の実態の把握 
2.社会保険の減免制度、自己負担のあり方と給付に関する研究
3.公的扶助を始めとする低所得者支援制度のあり方に関する研究
研究方法
平成20年度に本研究プロジェクトで行った「2008年社会生活調査」の分析を中心に、既存統計データなども活用しながら、新しい制度設計の考察や推計を行った。
結果と考察
日本の貧困の問題は、失業の問題ではなく、働いていながら貧困水準に達しない生活しかできないというワーキング・プアの問題である。特に、ワーキング・プアの35%を占める子どものある世帯においては、子ども期の貧困の影響が一生に渡って、貧困(低所得)のみならず、社会的排除のリスクをまでも高めることが実証され、深刻な問題である。
ワーキング・プアの最低生活を保障するためには、恒常的な所得補填の制度が新設される必要がある。仮に推計されたワーキング・プア(現役のみ。高齢者ワーキング・プアは公的年金の改革で対応するとする)に一種の「参加手当」として民主党政権が提唱している「子ども手当」と同額の税額控除を給付した場合、最大約1兆7千万円の財源が必要なことが推計される。
結論
また、ワーキング・プアの隠れた問題として、高齢者のワーキング・プア問題がある。日本は、最低所得保障水準の順番に関し、老齢最低所得保障が社会扶助より低い、という少数派に属している。さらに、社会扶助(生活保護)の水準のみに注目した場合の給付水準は比較対象国の中でかなり高い方に位置するが、その補足率が低いために、失業給付受給資格のない単身、子どものいる夫婦世帯、ひとり親世帯の合計純所得は比較対象国の中で決して高くはない。これら「生活保護以上の貧困層」に対する最低生活保障機能を充実させる必要がある。その一つの方法として、「ワーキング・プア対策としての給付つき税額控除」や「医療費助成制度」などの制度設計案も検討した。

公開日・更新日

公開日
2010-05-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200901006B
報告書区分
総合
研究課題名
低所得者の実態と社会保障のあり方に関する研究
課題番号
H19-政策・一般-019
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 菊地英明(武蔵大学 社会学部)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析部)
  • 山田篤裕(慶応義塾大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、多様な構造を持つ現在の日本の貧困・低所得の実態を時系列に把握し、低所得者のニーズとそれに対する社会保障のあり方について給付と負担の両面から考察するものである。具体的には、以下の研究を行う:
1.貧困層の実態(金銭的および非金銭的)の把握
2.社会保険の減免制度、自己負担のあり方と給付に関する研究
3.低所得者支援制度のあり方に関する研究
研究方法
①社会調査
相対的剥奪・社会的排除の度合を測定するための全国調査(2008年度社会生活調査)を実施
②低所得層の計測
厚生労働省、内閣府などの大規模調査データを用いた低所得層の把握
③マイクロ・シミュレーション等
大規模調査データを基に、マイクロシミュレーション等の手法を用いた制度設計
③定性的分析
インタビュー、文献調査、国際比較など
結果と考察
①一般人口の過半数が必要不可欠と考える項目の有無から相対的剥奪の状況を測定したところ、世帯所得が400万円以下となると剥奪となるリスクが急増することが明らかになった。これは2003年に行ったパイロット・スタディと一致した結果であり、改めて相対的剥奪指標を用いた分析の信頼性と頑強性が確認された。
②日本の貧困の特徴は、高齢者の貧困率の高さ、無子世帯の貧困率の高さ、母子世帯の突出した貧困率の高さ、勤労者の貧困率(ワーキングプア)の高さであることがわかった。
③公的医療保険は、便益が同じであるにもかかわらず、その負担(保険料)には、さまざまな「不公平」が存在する。国民健康保険は現役世代や子どもに限ってみても低所得層に偏っており、特に低所得層において保険料率と世帯員一人あたり保険料額が非常に高い。
結論
公的医療保険の不公平を改善するためには、国民健康保険、被用者保険に共通の応能負担の原則で保険料を課すことが望ましい。また、公的扶助については、生活保護の最低生活基準については多くの議論がある中で、低所得層と被保護世帯の消費パターンが著しく異なること、貸付制度については、そのフォローアップが極めて手薄であることから、その効果を把握するためには貸付前後の調査をきちんと行うことの重要性が認識された。ワーキングプア対策としては、給付つき税額控除や医療費軽減制度が可能であり、それらの制度設計、推計がなされた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200901006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
相対的剥奪、社会的排除の全国レベルの社会調査を実施し、相対的剥奪と所得との関係、社会的排除のリスクが高い人々の属性などの分析結果を得た。また、低所得の要因分析を複数の大規模調査データより確認し、その結果の頑強性を示した。さらに、低所得者に対する様々な制度(生活保護制度、各種の貸付制度、ホームレス自立支援対策等)の効果やその制度設計などについて実証研究および国際比較などを通じて検討した。
臨床的観点からの成果
マイクロ・シミュレーション等の手法を通じて、低所得者制度の新たな制度設計について考察した。考察された制度は、児童税額控除、公的医療保険の保険料改革、ワーキングプア対策としての給付つき税額控除、低所得者に対する医療費助成制度である。また、国際比較によって生活保護制度の最低生活費と最低賃金の関連などについて日本の特徴を示した。
ガイドライン等の開発
相対的剥奪、社会的排除の社会調査の成果については、厚生労働大臣が主導で行っている「ナショナルミニマム研究会」(平成21年12月16日)にて報告された。また、厚生労働省、内閣府の研究会などにても複数回、本研究の成果を報告した。
その他行政的観点からの成果
特に、研究代表者による子どもの貧困に関する研究成果に関しては、国会における審議等にも複数回使用されている。また平成22年度における子ども手当の支給にかかわる法律案の厚生労働委員会の審議においては研究代表者は参考人として意見陳述を行った(平成22年3月9日)。また、厚生労働省、文部科学省、財務省、政党による研究会などにても多数報告を行った。
その他のインパクト
本プロジェクトの一環として刊行された阿部彩著『子どもの貧困』(岩波新書)は、広く一般読者にも読まれ、マスコミにも多数取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
24件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
阿部彩
低所得世帯と碑保護世帯の生活実態:消費パターンとウェル・ビーイング
季刊社会保障研究 , 46 (2)  (2010)
原著論文2
山田篤裕
高齢期における低所得リスクの規定要因
季刊社会保障研究 , 46 (2)  (2010)
原著論文3
上枝朱美
低所得者に対する社会保障のあり方-生活満足度と住宅-
季刊社会保障研究 , 46 (2)  (2010)
原著論文4
菊地英明
消費の社会的強制と最低生活水準
季刊社会保障研究 , 46 (2)  (2010)
原著論文5
西村幸満
世帯収入による貧困の測定とその分布の特性分析
季刊社会保障研究 , 46 (2)  (2010)
原著論文6
阿部彩
格差・貧困と公的医療保険-新しい保険料設定のマイクロ・シミュレーション-
季刊社会保障研究 , 44 (3) , 332-347  (2008)
原著論文7
Abe, Aya and Saunders, Peter
Poverty and Deprivation in Young and Old: A Comparative Study of Australia and Japan
Poverty and Public Policy , 2 (1)  (2010)
原著論文8
Abe, Aya
Deprivation and Earlier Disadvantages in Japan
Journal of Social Science Japan , 13 (1)  (2010)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-