種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究

文献情報

文献番号
202111063A
報告書区分
総括
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究
課題番号
20FC1056
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 竹島 多賀夫(社会医療法人 寿会 富永病院 脳神経内科)
  • 西上 智彦(県立広島大学 保健福祉学部(三原キャンパス))
  • 西原 真理(愛知医科大学 医学部)
  • 端詰 勝敬(東邦大学 医学部)
  • 細井 昌子(九州大学 九州大学病院心療内科/集学的痛みセンター)
  • 森岡 周(畿央大学 健康科学部理学療法学科/大学院健康科学研究科)
  • 坂部 貢(東海大学)
  • 岩田 昇(桐生大学 医療保健学部)
  • 鈴木 圭輔(獨協医科大学 医学部)
  • 春山 康夫(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,926,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
基礎疾患の有無によらず、原因不明で難治性の種々の症状に悩む者は少なからず存在する。その症状の多くは周囲からの理解が得られにくいことから、患者は一人で悩み、生活の質も著しく低下することとなる。そのため、これらの症状の疾患概念と疫学的特徴を明らかにし、患者への理解と対策を行うことは現代の大きな社会的課題である。近年、上記症状の背景要因の一つとして、中枢神経の感作状態が考えられている。すなわち、様々な中枢神経への不快な外部刺激の繰り返しにより、中枢神経が感作され、痛みの増強や広範囲の慢性難治性の疼痛をはじめとする、様々な身体症状や精神症状が引き起こされるという概念である。このような病態で起こる症状は中枢性感作症候群(central sensitization syndrome: CSS)といわれ、慢性難治性片頭痛,線維筋痛症,慢性疲労症候群,化学物質過敏症,過敏性大腸症候群、重症レストレスレッグス症候群などの一部に関与していると考えられている。CSSの診断は今のところ、2012年に英語版、2017年に日本語版が開発された自記式調査票(central sensitization inventory: CSI)によるが、客観的な標準基準(ゴールデンスタンダード)がないことから、その妥当性の検討が困難となっている。研究代表者らはCSSについての国内外の現状についてのシステマティック・レビューを行い、共通する症状等についてCSIを用いたデータの収集・分析を試みた。その結果、我が国においても慢性難治性片頭痛,線維筋痛症,筋骨格系疼痛障害患者、特に重症者や疼痛増悪者においてはCSSの関連が大きいこと、そして一般集団においても約4%にCSSを有する者が存在することを明らかにした。本研究においては、CSSの疫学的特徴の解明と危険要因の探索を行う。
研究方法
(1) CSS関連症状・危険要因等の前方視的調査:日本人におけるCSS関連症状およびその危険要因候補(特に精神的・身体的ストレス曝露状況・曝露既往、成育環境等)の調査票を、既存のCSIや化学物質過敏症調査票(QEESI)に加えて新たに作成し、以下の各フィールドにおいて調査を行う。①地域集団、②難治性慢性片頭痛患者、③線維筋痛症患者、④慢性疲労症候群患者、⑤レストレスレッグ症候群患者、⑥化学物質過敏症候群患者、⑦筋骨格系疼痛障害患者、⑧口腔顔面痛患者。
(2) CSS関連疾患の実態調査と治療法の解明:各分担研究者は全年度を通じて実態調査と検討を継続する。
結果と考察
CSS関連症状・危険要因等の多施設共同前方視的調査を、各施設の倫理審査委員会の承認を得て行っている。現在までに4,000人以上のデータが収集され、中間解析を開始した。調査を進める中で、CSSや化学物質過敏症候群等の症状に悩む人々から多くの貴重なコメントをいただき、webベースでの調査票の構築を開始した。また、CSS 関連疾患の実態調査と治療法の検討により以下の結果を得た。①線維筋痛症患者(FM)のレストレスレッグズ症候群(RLS)合併率、およびFM患者においてRLSを合併するか否かでのCSSやその他の症状、②CSS 関連片頭痛症例を簡便に同定する Sensitized migraine screenerの開発と、ガルカネズマブのCSS症状改善効果の検討結果、③薬剤による人工膝関節置換術の術後遷延痛の改善の差、④患者の心身医学的検討により、化学物質過敏症では交流分析におけるPの自我状態が高いことと、CSS患者群と悪夢症状との関連、⑤CSS 関連症状と完璧主義との正の関連、⑥CSSを含む疼痛関連因子と疼痛強度に基づく2つのサブタイプの認知情動因子に差がないこと、⑦化学物質過敏症の疾患概念の確立にはシックハウス症候群をは始めとする過去の化学物質曝露の評価が重要であること、⑧頭痛外来患者と地域住民との対比によるCSI日本語版の特異応答項目の検討で、CSI日本語版の合計では得点バイアスは生じないこと、⑨化学物質過敏症陽性群は陰性群に比べ,光過敏,臭い過敏,視覚性前兆,感覚性前兆,中枢性感作の合併率が高く,MIDASおよびK6スコアも高く,臭い過敏,感覚性前兆,中枢性感作が有意に関連すること、⑩一般集団(宇都宮市で調査した21,661人)の検討で CSS 重症度と東洋医学体質の陽虚、陰虚、気虚、気滞、水毒傾向の関連。
結論
前年度示されたCSI-Jの少項目による評価の内容、今回実施している全体研究で得られたデータセット、解析データ、そして各分担者による研究成果をあわせて、CSSの疫学的特徴の解明と危険要因が明らかになることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2023-12-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-11-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202111063Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,003,000円
(2)補助金確定額
8,738,000円
差引額 [(1)-(2)]
265,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,041,858円
人件費・謝金 1,198,318円
旅費 107,227円
その他 3,314,447円
間接経費 2,077,000円
合計 8,738,850円

備考

備考
自己資金850円

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-