受動喫煙防止等のたばこ政策のインパクト・アセスメントに関する研究

文献情報

文献番号
202109005A
報告書区分
総括
研究課題名
受動喫煙防止等のたばこ政策のインパクト・アセスメントに関する研究
課題番号
19FA1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(公益社団法人地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 姜 英(キョウ エイ)(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 五十嵐 中(横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター がん対策センター疫学統計部)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
  • 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所 予防検診政策研究部)
  • 村木 功(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 萩本 明子(同志社女子大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、2020年4月全面施行の改正健康増進法による受動喫煙防止、2020年の警告表示(注意文言)の変更と広告の自主規制の見直し、たばこ税の段階的増税について、政策導入のインパクトを評価し、政策形成・強化につながるエビデンスの構築と実効性のある政策提言を行うことを目的とする。
研究方法
 改正健康増進法による受動喫煙防止をはじめとする主要政策の導入によるインパクトを評価するため、研究班独自の調査を昨年度に引き続き実施した。そのほか法改正後の受動喫煙対策の課題と提言のとりまとめ、たばこ政策の健康面・経済面のインパクトの推計(喫煙率、回避死亡数、たばこ税収を指標)、加熱式たばこ使用者の追跡調査、たばこ規制に関する喫煙者の意識調査を実施した。
 研究成果に基づいた政策提言や情報発信として、たばこ規制の強化にむけた政策提言用ファクトシートの作成、今後のたばこ増税にむけたエビデンスの構築、健康日本21(第二次)の喫煙領域の最終評価の協力と評価結果を踏まえた政策提言などを行った。
結果と考察
 改正健康増進法のインパクト評価として、2019年7月から改正健康増進法が施行された自治体では、一般庁舎すべてが建物内全面禁煙となったが、敷地内全面禁煙の実施割合は37.7%にとどまった。飲食店については、受動喫煙防止条例を施行した自治体では、改正法のみの自治体に比べて、禁煙飲食店割合の増加を認めた。改正法ならびに関連条例に関する情報収集を行い、法改正後の受動喫煙対策の課題を検討し、喫煙可能店や喫煙目的店の運用、国会や地方議会の屋内喫煙所問題、家庭内・自動車内の受動喫煙対策などの課題を指摘するとともに、その解決にむけた提言をとりまとめた。
 喫煙者が5種類のモデルたばこパッケージから受ける喫煙抑制効果を、インターネット調査データを用いて教育歴別に検討した結果、画像入りの方が文章のみよりも教育歴に関わらず喫煙抑制効果が高く、教育歴が低い喫煙者ではその効果が大きい傾向がみられ、健康格差是正の観点からも画像導入の必要性が示唆された。たばこ広告の規制強化にむけた検討の一環として、コンビニエンスストアでの加熱式たばこの広告の認知を調査した。2018年からのたばこ税・価格の段階的引き上げによる喫煙行動へのインパクトをインターネット調査データを用いて分析した結果、2018年と2020年の紙巻たばこの税・価格の引き上げは喫煙者の禁煙を促進し、過去喫煙者の喫煙再開を減らしたことが明らかになった。今後のたばこ増税にむけて、たばこ価格の引き上げが総税収へ及ぼす影響を評価した結果、価格弾力性を大きく見積もった場合でも、たばこ価格1,450円までは現行よりも税収が増加することが明らかになった。引き上げを段階的に行う方が一気に引き上げる場合に比べて税収は維持された。
 たばこ規制枠組条約で求められる政策パッケージがすべて履行された場合に得られる喫煙率および回避死亡数の効果を推計した結果、現状維持(2018年時点の対策の維持)に比べて、全政策の履行により、健康日本21(第二次)の成人喫煙率目標の達成年が8年短縮し、2050年までに約24万人の死亡が回避できると推計された。
 2014年、2018年に引き続き喫煙者がたばこ規制(受動喫煙防止、警告表示、たばこ税政策)から受けるインパクト調査を実施した結果、飲食店や居酒屋、職場での受動喫煙の曝露の減少はみられたが、他の2政策については過去2回の調査結果と変化がみられなかった。
加熱式たばこ使用者の2年間の追跡調査結果から、紙巻きたばこから加熱式たばこに切り替えた喫煙者は、紙巻たばことの併用者に比べて禁煙率が1.7倍高く(各々10.3%、6.1%)、その8割がその使用を継続し、他の種類のたばこ製品に移行する割合が低かった。
 研究成果に基づいた政策提言や情報発信として、たばこ規制の強化にむけた政策提言のためのファクトシートの作成(たばこ規制枠組条約主要6政策別に計11種類)、今後のたばこ増税にむけたエビデンスの構築(現状の評価や課題の整理、税収を最大化するたばこ価格の検討)、健康日本21(第二次)の喫煙領域の最終評価の協力と評価結果を踏まえた政策提言、第4期特定健診・特定保健指導にむけた特定保健指導の実施率向上と喫煙等の保健指導の強化に関する提言、日本学術会議主催シンポジウムや厚生労働省特設サイトなどを通じた情報発信を実施した。
結論
 これからの超高齢化社会ならびにニューノーマル時代において、生活習慣病や介護の主要なリスク要因である喫煙と受動喫煙の低減を図ることの社会的意義は大きい。国際的に取り組みが遅れているたばこ規制・対策の推進を目指して、政策化に役立つ質の高いエビデンスの構築と実効性のある政策提言を行う公的な研究を継続することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-03-10
更新日
2023-07-12

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202109005B
報告書区分
総合
研究課題名
受動喫煙防止等のたばこ政策のインパクト・アセスメントに関する研究
課題番号
19FA1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(公益社団法人地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 姜 英(キョウ エイ)(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 五十嵐 中(横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター がん対策センター疫学統計部)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
  • 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所 予防検診政策研究部)
  • 村木 功(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 萩本 明子(同志社女子大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、たばこ規制枠組み条約に照らして特に取り組みが遅れている受動喫煙防止、広告・販売促進・後援の禁止、健康警告表示の3政策に重点をおき、政策化に役立つエビデンスの構築と実効性のある政策の提言を目的とする。
研究方法
 改正健康増進法による受動喫煙防止をはじめ、警告表示(注意文言)の変更、広告の自主規制の見直し、たばこ税の段階的増税について、政策導入によるインパクトを研究班独自の調査のほか、公的統計資料や海外の調査データを用いて実施した。さらに、政策提言に必要となるたばこ政策の健康面・経済面のインパクトの推計(喫煙率、回避死亡数、たばこ税収を指標)を実施した。
結果と考察
 ここでは、3年間の研究成果に基づいた政策提言のほか、今後の政策提言に役立つと考えられる主なエビデンスや情報発信について述べる。
1.3年間の研究成果をもとに、たばこ規制枠組条約の主要6政策について、ぞれぞれの政策の現状と課題、今後必要な取組を検討し、政策提言のためのファクトシートとしてとりまとめた。作成したファクトシートは、政策テーマ別に計11種類に及ぶ。その内容は、①たばこ規制枠組条約に基づいたたばこ政策の推進、②たばこの超過死亡・超過医療費とは、③受動喫煙防止のための法的規制の強化、④飲食店における受動喫煙防止対策、⑤集合住宅等の受動喫煙トラブル、⑥各地の受動喫煙防止条例、⑦禁煙支援・治療―禁煙を推進する保健医療システムの構築、⑧たばこ製品の健康警告表示、⑨たばこ広告、販売促進、後援活動の禁止、⑩国民を守るためのたばこ増税政策、⑪加熱式たばこの規制強化である。
2.国際的に最も取り組みが遅れている広告等の規制については、規制強化の際に障壁となる法的な課題を表現の自由と営利広告の自由等の観点で法律家の協力を得て検討を行い、今後の規制強化にあたり憲法上深刻な問題を惹起するとは考えられないとの結論を得た。
3.たばこ増税については、上述のファクトシートのほか、2018年からのたばこ税・価格の段階的引上げのインパクト評価結果や国際的評価のレビュー結果を踏まえて、2023年度以降のたばこ増税にむけた政策提言に役立つエビデンスの構築を行った。具体的には、現状の評価や課題の整理に加えて、税収を最大化するたばこ価格の検討を行った。その結果、価格弾力性を大きく見積もった場合でも、たばこ価格1,450円までは現行よりも税収が増加すること、引き上げを段階的に行う方が一気に引き上げる場合に比べて税収は維持されることが示された。
4.研究代表者が健康日本21(第二次)推進専門委員会に参加し、喫煙領域の健康日本21(第二次)最終評価を行うとともに、今後の課題の整理とその解決のために必要とされるたばこ規制を同委員会の報告書にとりまとめた。
5.禁煙治療へのアクセスの向上を図るため、2020年度の診療報酬改定に合わせて、関連学会と協働して禁煙治療へのオンライン診療導入を求める政策提言を行い、5回の治療のうち、2回目から4回目にオンライン診療による保険治療が認められた。診療報酬改定の内容を受けて、本研究班が中心となって禁煙治療の標準手順書の改訂を行った。
6.第4期特定健診・特定保健指導にむけた特定保健指導の実施率向上と喫煙等の保健指導の強化に関する提言、加熱式たばこの規制にむけた提言を取りまとめた総説論文の公表、喫煙が新型コロナウイルス重症化等に及ぼす影響と同感染拡大下での喫煙行動への影響に関する文献的検討、コロナ禍における禁煙の重要性に関する厚生労働省特設サイト等を通した情報発信、日本学術会議のシンポジウム等を通した政策実現における学術団体のアドボカシーの重要性に関する情報発信などを行った。
結論
 これからの超高齢化社会ならびにニューノーマル時代において、生活習慣病や介護の主要なリスク要因である喫煙と受動喫煙の低減を図ることの社会的意義は大きい。国際的に取り組みが遅れているたばこ規制・対策の推進を目指して、政策化に役立つ質の高いエビデンスの構築と実効性のある政策提言を行う公的な研究を継続することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-03-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-03-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202109005C

収支報告書

文献番号
202109005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,990,000円
(2)補助金確定額
11,962,000円
差引額 [(1)-(2)]
28,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 887,563円
人件費・謝金 2,822,965円
旅費 88,140円
その他 7,074,171円
間接経費 1,090,000円
合計 11,962,839円

備考

備考
自己資金839円

公開日・更新日

公開日
2022-12-23
更新日
-