文献情報
文献番号
202109004A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養政策等の社会保障費抑制効果の評価に向けた医療経済学的な基礎研究
課題番号
19FA1004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
西 信雄(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
研究分担者(所属機関)
- 由田 克士(大阪市立大学大学院 生活科学研究科 食・健康科学講座)
- 松本 邦愛(東邦大学 医学部 社会医学講座)
- 池田 奈由(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国際栄養情報センター 国際保健統計研究室)
- 野村 真利香(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
- 杉山 雄大(国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター医療政策研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
7,685,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
栄養政策が国民の健康・栄養状態を改善し、疾病や介護を予防することによりもたらされる社会保障費抑制効果に関する評価方法はまだ確立されていない。本研究は、我が国の栄養政策の社会保障費抑制効果の評価に向けて医療経済学的な基礎研究を行うことを目的とした。
研究方法
既存資料のレビューおよび既存統計を用いたシミュレーションを中心に研究を行った。
結果と考察
①わが国においてポピュレーションアプローチとして戦略的に実施されてきた市町村レベル、職域レベル、企業による取り組みレベルによる減塩活動のうち、内容が文献等で公表されており一定の事後の評価がなされている内容について情報を収集し、そのポイントを整理した。今後、地域・職域・教育現場等において、減塩活動を中心とした対応や活動が一層進展し、何れの地域や職域においても、高血圧を介した循環器疾患の予防や治療への効果が容易に証明できるような状況になることが望まれる。
②疾病費用法(C-COI法)を用い多変量解析で食塩摂取量と脳血管疾患の疾病費用の関係を求めた。また、先行研究のサーベイから食塩摂取量と脳血管疾患の関係を示す文献を見つけたが、食塩摂取量が高い地域での研究結果であり、日本人の食塩摂取量の現状からするとポピュレーションアプローチの一つのエビデンスとなると考えられた。
③栄養政策の社会保障費抑制効果に関する医療経済評価手法の開発の一環として、英国の減塩政策を日本で実施した場合の循環器疾患関連医療費の抑制効果について、シミュレーションモデルによる費用便益分析を試験的に行った。10年間の純便益の累積額は、自主的な加工食品の減塩で最も大きく、次いで強制的な加工食品の減塩、加工食品のラベリング、メディアキャンペーンの順であった。今後、本分析で作成したモデルを参考に国内の栄養政策の効果と費用のデータを整備するとともに、独自のモデルを開発する必要がある。
④日本の減塩政策として、健康日本21(第二次)と日本高血圧学会による減塩目標を達成した場合の循環器疾患関連医療費抑制効果について、世界保健機関の目標と合わせて検討した。10年間の循環器疾患関連医療費の削減額は、1日食塩摂取量の目標値8gで約36.2億円、6g未満で約65.7億円、5g未満で約97.2億円と推計された。今後、減塩政策の費用や患者の生活の質に関するデータを整備し、費用対効果の検討が可能なモデルに発展させる必要がある。
⑤政府統計と疫学調査結果を用いて、1950~2017年の20~69歳の年齢別心血管死と食塩摂取量のシステム・ダイナミクスモデルを構築した。Age-period-cohortモデルに基づき、当時の食塩摂取量の期間効果と過去の食塩摂取量のコホート効果を推定し、これらの効果を心血管死亡率にモデル化した。1950年代以降食塩摂取量が減少していないという反実仮想シナリオに基づくシミュレーションを行い、平均食塩摂取量の減少に伴う心血管死亡の減少を推定した結果、反実仮想シナリオと比較して、1950年および1990年のコホートにおいて観察された心血管死亡率は、男性でそれぞれ2.8%と4.1%、女性でそれぞれ2.4%と3.6%低下した。
⑥WHOおよびWPROの栄養政策モニタリング状況を概観した上で日本の栄養政策を整理したところ、日本の特徴の説明として、WHO・欧米型としてマンツーマンディフェンスの栄養政策アプローチが採られているのに対し、日本型としてゾーンディフェンスの栄養政策アプローチが採られていると考えられた。
②疾病費用法(C-COI法)を用い多変量解析で食塩摂取量と脳血管疾患の疾病費用の関係を求めた。また、先行研究のサーベイから食塩摂取量と脳血管疾患の関係を示す文献を見つけたが、食塩摂取量が高い地域での研究結果であり、日本人の食塩摂取量の現状からするとポピュレーションアプローチの一つのエビデンスとなると考えられた。
③栄養政策の社会保障費抑制効果に関する医療経済評価手法の開発の一環として、英国の減塩政策を日本で実施した場合の循環器疾患関連医療費の抑制効果について、シミュレーションモデルによる費用便益分析を試験的に行った。10年間の純便益の累積額は、自主的な加工食品の減塩で最も大きく、次いで強制的な加工食品の減塩、加工食品のラベリング、メディアキャンペーンの順であった。今後、本分析で作成したモデルを参考に国内の栄養政策の効果と費用のデータを整備するとともに、独自のモデルを開発する必要がある。
④日本の減塩政策として、健康日本21(第二次)と日本高血圧学会による減塩目標を達成した場合の循環器疾患関連医療費抑制効果について、世界保健機関の目標と合わせて検討した。10年間の循環器疾患関連医療費の削減額は、1日食塩摂取量の目標値8gで約36.2億円、6g未満で約65.7億円、5g未満で約97.2億円と推計された。今後、減塩政策の費用や患者の生活の質に関するデータを整備し、費用対効果の検討が可能なモデルに発展させる必要がある。
⑤政府統計と疫学調査結果を用いて、1950~2017年の20~69歳の年齢別心血管死と食塩摂取量のシステム・ダイナミクスモデルを構築した。Age-period-cohortモデルに基づき、当時の食塩摂取量の期間効果と過去の食塩摂取量のコホート効果を推定し、これらの効果を心血管死亡率にモデル化した。1950年代以降食塩摂取量が減少していないという反実仮想シナリオに基づくシミュレーションを行い、平均食塩摂取量の減少に伴う心血管死亡の減少を推定した結果、反実仮想シナリオと比較して、1950年および1990年のコホートにおいて観察された心血管死亡率は、男性でそれぞれ2.8%と4.1%、女性でそれぞれ2.4%と3.6%低下した。
⑥WHOおよびWPROの栄養政策モニタリング状況を概観した上で日本の栄養政策を整理したところ、日本の特徴の説明として、WHO・欧米型としてマンツーマンディフェンスの栄養政策アプローチが採られているのに対し、日本型としてゾーンディフェンスの栄養政策アプローチが採られていると考えられた。
結論
我が国の栄養政策の社会保障費抑制効果を評価するためには、海外の先行研究を参考にして公衆衛生学的かつ医療経済学的なシミュレーション研究を今後さらに発展させる必要がある。
公開日・更新日
公開日
2022-11-15
更新日
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