難治性うつ病の治療反応性予測と客観的診断法に関する生物・心理・社会的統合研究

文献情報

文献番号
200833005A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性うつ病の治療反応性予測と客観的診断法に関する生物・心理・社会的統合研究
課題番号
H18-こころ・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
山脇 成人(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 繁(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 岡本 泰昌(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 稲垣 正俊(国立精神・神経センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター)
  • 竹林 実(国立病院機構呉医療センター)
  • 吉村 玲児(産業医科大学 医学部)
  • 小澤 寛樹(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 久住 一郎(北海道大学 大学院医学研究科 )
  • 寺尾 岳(大分大学 医学部)
  • 三村 將(昭和大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 うつ病難治化予測の診断法と治療法の開発を目的として、平成20年度は、難治性うつ病に関する前方視研究の症例数を80症例まで登録し、難治化に関連する心理・社会・生物学的要因を解析した。また、難治性うつ病に関するエキスパートコンセンサス解析も行った。分担研究では病態に基づく分類や治療法の検討などを行った。
研究方法
 前方視研究(対象:未治療うつ病)80症例において治療反応性、各種心理検査、脳画像解析、生物学的マーカー測定を行い、うつ病難治化の予測因子を解析した。分担研究では、1)難治性うつ病と双極性障害の関連性に関する臨床研究、2)fMRIを用いた抗うつ薬の反応性と海馬機能に関する画像解析研究、3) NIRSを用いた抗うつ薬の反応性と前頭葉機能に関する研究、4)難治性うつ病に対するSSRIと非定型抗精神病薬の併用治療に関する研究、5)うつ病の血中生物学的マーカーに関する研究などを行った。
結果と考察
<多施設共同研究>前方視研究の未治療うつ病80例(寛解群53例、難治群11例、脱落群16例)の解析の結果、難治群では治療導入前GAFが低く、NEO-FFIでは前方視研究の寛解群と比較して神経症傾向が有意に高く、外向性が低かった。ETIによる幼少期のトラウマ体験とNEO-FFIの外向性が負の相関が認められた。以上から、GAF,TAT,ETI,NEO-FFIなどが難治化予測に有用である可能性が示唆された。
<分担研究>1)第一度親族の躁病の家族歴、若年発症、精神病症状を呈する難治性うつ病では双極性障害への移行が高い。2)海馬と左背外側前頭前野の活動低下が治療反応性を相関していた。3)NIRS所見でhypofrontalityを示すうつ病は治療反応性が不良であった。4)難治性うつ病に対するsertralineとresperidoneの併用療法の有効率は50%であり、血漿BDNF濃度増加と関係していた。5)血中シグマ-1受容体濃度が生物学的マーカーとなり得る可能性が示唆された。
結論
 うつ病難治化予測に有用である心理検査、臨床特性、抗うつ薬の治療反応性と相関する脳部位などが明らかとなり、難治性うつ病の客観的予測法が可能となった。また、ドパミン機能からみた難治性うつ病の分類と治療戦略が明らかとなった。わが国のエキスパートコンセンサスの結果と併せて、難治性うつ病に関する診断・治療ガイドライン作成の根拠が得られた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200833005B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性うつ病の治療反応性予測と客観的診断法に関する生物・心理・社会的統合研究
課題番号
H18-こころ・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
山脇 成人(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 繁(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 岡本 泰昌(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 稲垣 正俊(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 竹林 実(国立病院機構呉医療センター)
  • 吉村 玲児(産業医科大学 医学部)
  • 小澤 寛樹(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 久住 一郎(北海道大学 医学研究科)
  • 寺尾 岳(大分大学 医学部)
  • 三村 將(昭和大学 医学部)
  • 山下 英尚(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 内富 庸介(国立がんセンター研究所支所)
  • 中村 純(産業医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、うつ病難治化予測の診断法と治療法の開発を目的として、難治性うつ病に関する前方視研究、後方視研究を行い、難治化に関連する養育環境・性格特性などの心理社会的要因、脳血管障害などの生物学的要因を解析した。また、病態に基づく分類や治療法の検討、難治性うつ病に関するエキスパートコンセンサス解析も行った。
研究方法
 前方視研究(対象:未治療うつ病)および後方視研究(対象:難治性うつ病)において治療反応性、各種心理検査、脳画像解析、生物学的マーカー測定を行い、うつ病難治化の予測因子を解析した。分担研究では、1)うつ病の予後・転帰および難治化に関連するに因子を解析した。2)難治性うつ病に対する非定型抗精神病薬およびドパミンアゴニストの有効性を評価し、血中生物学的マーカー変化との関連を解析した。3)脳血管性うつ病の難治症状(アパシー)とMRI上の脳血管病変との相関を解析した。4)老年期うつ病を対象として語流暢課題を用いたfMRI検査を行い、再発性との関連を解析した。
結果と考察
<多施設共同研究>前方視研究の未治療うつ病80例(寛解群53例、難治群11例、脱落群16例)と後方視研究の難治性うつ病52例の解析の結果、難治群では治療導入前GAFが低く、NEO-FFIでは前方視研究の寛解群と比較して神経症傾向が有意に高く、外向性が低かった。ETIによる幼少期のトラウマ体験とNEO-FFIの外向性に負の相関が認めらた。また、血中コルチゾール高値が難治化予測に有用であることが示された。
<分担研究>1)うつ病の難治化因子として潜在的なbipolarity、抗うつ薬治療初期のactivation syndromeがその予測因子となる可能性、2)難治性うつ病の病態にドパミン過剰型と低下型が存在し、前者に非定型抗精神病薬が、後者にドパミンアゴニストが有効であること、3)脳血管性うつ病の難治化の要因であるアパシー症状は大脳基底核病変と相関があること、4)うつ病の再発脆弱性に前部帯状回機能異常が相関することが示唆された。
結論
 うつ病の難治化予測に有用である心理検査、臨床特性、生物学的要因などが明らかとなった。また、難治性うつ病にはドパミン過剰型・低下型が存在し、その病態に基づいた診断と治療の必要性が示された。エキスパートコンセンサスの結果と併せて、難治性うつ病に関する診断・治療ガイドラインの作成の根拠が得られた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 未服薬大うつ病患者80症例を対象として、標準的抗うつ薬治療後の治療反応性と、養育環境、性格特性、社会認知機能などの心理・社会的機能評価および、血中コルチゾール、神経栄養因子などの生物学的マーカー測定、脳機能画像解析などを指標として前方視的に追跡した研究はわが国初の試みである。その結果として、血中コルチゾールの高さ、幼少期トラウマ体験(ETI)スコアの高さ、性格検査(NEO-FFI)における神経症傾向の高さと外向性の低さが、うつ病難治化の予測指標となることが示されたことは学術的意義が高い。
臨床的観点からの成果
 難治性うつ病の定義は複数の抗うつ薬治療に反応しないうつ病と曖昧であったが、本研究によりドパミン機能過剰型(精神病性うつ病)と低下型(無気力型うつ病)などの病態に基づいた分類が提唱され、その分類に基づいたドパミン作動薬の治療選択を提案した点でも臨床的意義が大きい。また、うつ病の難治化因子として、潜在的双極性(bipolarity)、脳血管性病変、海馬機能(連合記憶機能)低下などの存在が示され、これらがうつ病診断時における難治化予測の客観的指標となりうることを明らかにした点でも評価される。
ガイドライン等の開発
 本研究の前方視研究、後方視研究によって得られたエビデンス度の高い予測因子の特定に加え、臨床的には実証しがたい難治性うつ病の診断と治療に関する項目について、わが国のうつ病を専門とするエキスパートコンセンサスの調査も実施し、ガイドライン作成のための基本的なデーターを得ることができた。これらの成果を関連学会で報告し、議論を重ねた上で、難治性うつ病の診断予測および適切な治療に関するガイドラインを作成したい。
その他行政的観点からの成果
 うつ状態が長期間にわたり続く難治性うつ病は、自殺者数増加の大きな要因となっている。本研究において、心理社会的要因、血中生物学的マーカーや脳血管病変などの生物学的要因を多面的に解析し、実地臨床に応用可能な病態に基づいた難治性うつ病の早期診断指針および治療選択ガイドライン作成に有用な成果が得られたことは、自殺予防対策の観点からもその行政的意義は大きい。また、早期に抗うつ薬治療反応性を予測することで、漫然と抗うつ薬治療を行うことに警鐘を鳴らし、適切な治療選択をすることで医療経済的にも貢献しうる。
その他のインパクト
マスコミ報道:
難治性うつ病の治療として試みられる認知行動療法について
 読売新聞(平成19年4月17日付掲載)  医療ルネッサンス 認知行動療法1
 読売新聞(平成19年4月18日付掲載)  医療ルネッサンス 認知行動療法2
うつ病患者における脳機能異常について
 TBS週刊!健康カレンダー (平成21年3月1日付放映)
   カラダの異常と「うつ病」の関係

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
23件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Erabi,K., Morinobu,S., Tsuji,S., et al.
Neonatal isolation changes the expression of IGF-1R and IGFBP-2 in the hippocampus in response to adulthood restraint stress.
International Jounal of Neuropsycho-pharmacology , 10 (3) , 369-381  (2007)
原著論文2
Hama,S., Yamashita,H., Shigenobu,M., et al.
Post-stroke affective or apathetic depression and lesion location: left frontal lobe and bilateral basal ganglia.
European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience , 257 (3) , 149-152  (2007)
原著論文3
Takami,H., Okamoto,Y., Yamashita,H., et al.
Attenuated anterior cingulate activation during a verbal fluency task in elderly patients with a history of multiple-episode depression.
American Journal of Geriatric Psychiatry , 15 (7) , 594-603  (2007)
原著論文4
Hama,S., Yamashita,H., Shigenobu,M., et al.
Depression or apathy and functional recovery after stroke.
International Journal of Geriatric Psychiatry , 22 (10) , 1046-1051  (2007)
原著論文5
Hama,S., Yamashita,H., Kato,T., et al.
‘Insistence on recovery’ as a positive prognostic factor in Japanese stroke
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 62 (4) , 386-395  (2008)
原著論文6
Imanaka,A., Morinobu,S., Toki,S., et al.
Neonatal tactile stimulation reverses the effect of neonatal isolation on open-field and anxiety-like behavior, and pain sensitivity in male and female adult Sprague-Dawley rats.
Behavioral Brain Research , 186 (1) , 91-97  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-