感音難聴に対する内耳薬物投与システム臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200828007A
報告書区分
総括
研究課題名
感音難聴に対する内耳薬物投与システム臨床応用に関する研究
課題番号
H18-感覚器・一般-007
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
中川 隆之(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 坂本 達則(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 山本 典生(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 羽藤 直人(愛媛大学医学部 耳鼻咽喉科)
  • 暁 清文(愛媛大学医学部 耳鼻咽喉科)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医科学研究所 生体組織工学部門生体材料学)
  • 熊川 孝三(虎ノ門病院 耳鼻咽喉科)
  • 福島 雅典(京都大学医学部附属病院 探索医療センター トランスレーショナル研究)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究代表者らがこれまでに開発した内耳薬物投与システムを用い、薬物などの内耳局所投与を行うことにより急性高度難聴を中心とした感音難聴治療を行う方法の臨床応用および臨床応用につながる基礎的研究開発を行うことが本研究の目的である。
研究方法
平成19年度に作成したプロトコルにしたがい、生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与による急性高度難聴治療第I-II相臨床試験を行い、安全性、有効性を調べた。対象はステロイド無効の発症から30日未満の急性高度難聴例とした。また、第II相臨床試験デザインのための調査として、虎の門病院での2年間の入院を要した突発性難聴症例の臨床経過を調べた。基礎的研究開発として、肝細胞増殖因子、プロスタグランディンE受容体4作動薬、低体温の感音難聴に対する治療効果の検討を動物実験にて行った。また、耳鳴り治療への応用との観点から、リドカインを含有するポリグリコール乳酸マイクロパーティクルを作製し、内耳への徐放動態を調べた。

結果と考察
生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与による急性高度難聴治療第I-II相臨床試験では、17例の登録を行い、プロトコル治療を行い、安全性および有効性を示唆する所見が認められた。虎の門病院での突発性難聴症例調査では、年間5~6例が臨床試験の対象となることが示された。肝細胞増殖因子に関する基礎的研究では、音響外傷後の投与でも治療的効果が期待できることを示す所見が認められた。プロスタグランディンE受容体4作動薬についての研究では、蝸牛にプロスタグランディンE受容体4の発現が認められ、音響外傷後の投与での治療的効果が確認された。低体温療法については、内耳虚血後1時間経過してから低体温にすることでも治療的効果があることが分かった。リドカイン内耳徐放に関する研究では、14日間蝸牛にリドカインを徐放できるパーティクルを作製することができた。
結論
ステロイド無効急性高度難聴例に対する生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与の安全性、有効性を調べる第I-II相臨床試験を施行し、本治療の安全性、有効性を示唆する所見をえた。また、次の段階である第II相臨床試験の準備となる調査を行うことができた。基礎的には、肝細胞増殖因子、プロスタグランディンE受容体4作動薬、低体温の感音難聴治療に対する有効性を示す結果がえられ、さらに内耳にリドカインを徐放する方法を開発した。

公開日・更新日

公開日
2009-04-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200828007B
報告書区分
総合
研究課題名
感音難聴に対する内耳薬物投与システム臨床応用に関する研究
課題番号
H18-感覚器・一般-007
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
中川 隆之(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 坂本 達則(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 山本 典生(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 羽藤 直人(愛媛大学医学部 耳鼻咽喉科)
  • 暁 清文(愛媛大学医学部「耳鼻咽喉科)
  • 田畑 泰彦(虚と大学再生医科学研究所 生体組織工学部門 生体材料学)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科)
  • 福島 雅典(京都大学附属病院 探索医療センター トランスレーショナル研究)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究代表者らがこれまでに開発した内耳薬物投与システムを用い、薬物などの内耳局所投与を行うことにより急性高度難聴を中心とした感音難聴治療を行う方法の臨床応用および臨床応用につながる基礎的研究開発を行うことが本研究の目的である。

研究方法
生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与による急性高度難聴治療に関する非臨床試験を行うと同時にヒト側頭骨を用いた投与方法に関する研究開発を行った。これらの研究成果に基づき、生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与による急性高度難聴治療第I-II相臨床試験のプロトコルを作成し、臨床試験を施行した。内耳薬物投与による難聴、耳鳴り治療に関する基礎的研究として、ノッチ情報伝達阻害薬による有毛細胞再生、肝細胞増殖因子およびプロスタグランディンE受容体4作動薬による音響外傷治療、リドカイン内耳徐放などに関する動物実験を行った。
結果と考察
動物実験にて、音響外傷および内耳虚血障害後の内耳に生体吸収性徐放ゲルを用いてIGF1を徐放することにより、治療的効果が認められることを明らかにすると同時に有害事象が発生しないことを確認した。ヒト側頭骨を用いた解析から、超細経内視鏡を用い、生体吸収性徐放ゲルを正円窓窩に留置する方法を開発した。ステロイド全身投与無効、発症30日未満の急性高度難聴例を対象とした生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与による急性高度難聴治療第I-II相臨床試験のプロトコルを作成し、臨床試験を開始し、これまで17例が登録され、安全性および有効性を示唆する所見が認められた。内耳薬物投与の応用拡大を企図した基礎的研究では、肝細胞増殖因子およびプロスタグランディンE受容体4作動薬の感音難聴治療効果を示唆する所見が認められ、薬物によるノッチ情報伝達阻害実験では有毛細胞の新生を認めることができた。また、2週間にわたり内耳にリドカインを徐放するポリグリコール乳酸マイクロパーティクルの作製に成功した。

結論
生体吸収性徐放ゲルによるIGF1内耳局所投与による急性高度難聴治療に関する基礎的研究を行い、その成果を実際の臨床試験にトランスレイトすることができた。さらに、安全性、有効性を調べる第I-II相臨床試験を施行し、本治療の安全性、有効性を示唆する所見をえた。また、基礎的研究にて、次の臨床応用の候補となりうるいくつかの治療法開発を行うことができた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200828007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界で初めての生体吸収性バイオマテリアルを用いた内耳薬物投与システムを確立し、臨床応用を行った。この成果は、内耳基礎的研究成果の臨床応用に大きな道筋を確立したものといえる。また、基礎的研究においても、低侵襲に内耳に薬物を投与する方法を開発したといえ、種々の薬物の内耳局所投与の有効性を検証する新しい実験系が確立された。また、本研究で開発した内耳薬物局所投与方法は、内耳再生医療の実現にも貢献することが期待できる。
臨床的観点からの成果
感音難聴に対する治療法がきわめて限られている現状において、新しい治療法の開発は急務といえる。本研究課題では、新しい臨床応用可能な内耳への薬物投与方法を開発し、実際に臨床応用を行ったことから、新しい感音難聴治療法の開発を現実的に行ったものといえ、臨床的な意義は大きい。また、今後、種々の薬物の内耳局所投与にも応用可能な技術が開発されており、今後の新たな感音難聴治療法開発にも直結する。
ガイドライン等の開発
国際的に登録されている感音難聴に対する介入を伴う臨床試験は、本課題を含めて4件しかない。本研究課題で確立した感音難聴に対する介入試験のプロトコルは、今後の感音難聴に対する臨床試験プロトコルの基盤となるものであり、将来の感音難聴に対する臨床試験のガイドライン形成にも貢献することが期待できる。また、ステロイド全身投与を含めた突発性難聴治療のガイドライン作成に貢献することも期待できる。
その他行政的観点からの成果
本研究課題で行った臨床試験は、世界で初めて細胞増殖因子を感音難聴治療に用いた臨床試験であり、その社会的インパクトは大きい。一般的に用いられる治療となりうるかは、今後の検討を待たなければならないが、有効な治療法に乏しい感音難聴に新しい治療法が開発されつつあるという事実は、難聴者らに希望を与えるものであり、感覚器障害事業が担う社会的な役割を果たすものと考えられる。
その他のインパクト
本研究課題で開発した内耳薬物投与システムは、基礎的研究開発段階から社会的な注目を集め(2006/4/22京都新聞、2006/9/8朝日新聞)、臨床試験開始の際には、2008/2/7京都新聞、読売新聞、2008/5/23聖教新聞に関連記事が掲載されるのみならず、2008/2/7yahoo japan トップページにも掲載され、大きな社会的インパクトを与えた。また、2008/2/23京都市にて市民公開講座を行い、研究開発状況の市民への啓蒙を行った。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
市民公開講座(2008年)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki T, Nomoto Y, Nakagawa T, et al.
Age-dependent degeneration of the stria vascularis in human cochleae.
Laryngoscope , 116 , 1846-1850  (2006)
原著論文2
Nakagawa T, Ito J.
Drug delivery systems for the treatment of sensorineural hearing loss.
Acta Otolaryngol , 557 , 30-35  (2007)
原著論文3
Hori R, Nakagawa T, Sakamoto T, et al.
Pharmacological inhibition of Notch signaling in the mature guinea pig cochlea.
Neuroreport , 18 , 1911-1914  (2007)
原著論文4
Lee KY, Nakagawa T, Okano T, et al.
Novel therapy for hearing loss: Delivery of insulin-like growth factor-1 to the cochlea using gelatin hydrogel.
Otol Neurotol , 28 , 976-981  (2007)
原著論文5
Nakagawa T, Ito J
Local drug delivery to inner ear for treatment of hearing loss.
Current Drug Therapy , 3 , 143-147  (2008)
原著論文6
Hiraumi H, Nakagawa T, Ito J.
Efficiency of a transtympanic approach to the round window membrane using a microendoscope.
Eur Arch Otorhinolaryngol , 266 , 367-371  (2008)
原著論文7
Inaoka T, Nakagawa T, Kikkawa YS, et al.
Local application of hepatocyte growth factor using gelatin hydrogels attenuates noise-induced hearing loss in guinea pigs.
Acta Otolaryngol , 129 , 453-457  (2009)
原著論文8
Kada S, Nakagawa T, Ito J.
A mouse model for degeneration of the spiral ligament.
J Assoc Res Otolaryngol , 10  (2009)
原著論文9
Kikkawa YS, Nakagawa T, Horie RT, et al.
Hydrogen protects auditory hair cells from free radicals.
Neuroreport , 20  (2009)
原著論文10
Hori R, Nakagawa T, Sugimoto Y, et al.
Prostaglandin E receptor subtype EP4 agonist protects auditory hair cells against noise-induced trauma.
Neuroscience  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-