小児重症視覚障害の早期治療・リハビリテーションによる自立支援

文献情報

文献番号
200828005A
報告書区分
総括
研究課題名
小児重症視覚障害の早期治療・リハビリテーションによる自立支援
課題番号
H18-感覚器・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(国立成育医療センター 第二専門診療部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤峰生(名古屋大学大学院医学系研究科感覚器障害制御学)
  • 佐藤美保(浜松医科大学医学部眼科学教室)
  • 不二門尚(大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学分野)
  • 石橋達朗(九州大学大学院機能制御医学部門構造機能学講座眼科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児重症眼疾患において、1)従来は行われなかった未熟な段階で早期治療を開始することによる視機能発達温存の可能性の検討、2)未発達な残存視機能の早期評価法の開発、3)残存視機能の発達を含めたロービジョンケアプログラムの作成を目的とする。
研究方法
1)我々が開発した早期硝子体手術を行った重症未熟児網膜症38例58眼で、術後の網膜復位と黄斑形成、視力を評価した。2)①小児でも網膜電図(ERG)が記録できるよう皮膚電極にノイズ除去手法を用いた装置を開発した。②小児の年齢別に平均角膜厚を求めた。3)コンピューターゲームを用いた、弱視および両眼視の訓練装置を開発した。4)シースルー型ホログラムにカメラを装着した補助視覚装置を開発し、顔の認識、様々なサイズの字の認識が可能であるかを検証し、満足度を調査した。
結果と考察
1)光凝固が十分だと、網膜全復位90%、部分復位10%で、74%に黄斑が形成された。従来の硝子体手術では、全復位39%、部分復位37%で、視力も殆どが光覚~手動弁にとどまったが、新規早期手術では、手術時stage 4Bだと視力0.05以下だが、早期のstage 4Aでは大部分が0.1~0.4を得た。この手術法によって、重症ROPの手術適応は大きく変わり、早期治療の概念が普及した。2)①従来のERG検査法ではb 波は計測できなかった。新規方法ではa波とb波が明瞭で律動様小波も記録でき、小児の定量的評価に十分耐えうる。②小児の平均角膜厚は544.3μmで1歳以下は5歳以上に比べて有意に薄かく、5歳でほぼ成人のレベルに到達する。3)弱視訓練装置、両眼視訓練装置ともに、片眼視力を低下させると、認識は視票レベル向上とともに減少し、認識に要する時間はレベル向上に伴い延長した。この装置は、視力0.1から0.4程度の弱視、両眼視異常に対応できることが示された。4)片眼が失明、他眼に求心性視野狭窄、両眼とも高度な視野狭窄があるなど、視覚障害が重症なほど、装着による良好な満足度が得られた、小児への臨床応用を想定している。
結論
1)重症ROPに対する早期硝子体手術後で良好な視力予後を得た。この術式の導入によって、重症ROPの予後は大きく改善された。2)新しい皮膚電極型ERG装置を開発し、全身麻酔を用いずに小児から安定したERGを得ることができた。1歳未満の小児の平均角膜厚は522μmで550μmを超える場合は、眼圧補正が必要である。3)視覚障害児のための弱視訓練装置と両眼視訓練装置を開発した。4)補助視覚装置の有用性検証を行い、満足度の高いものがあると確認すると同時に、小児への応用の問題点抽出を行った。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

文献情報

文献番号
200828005B
報告書区分
総合
研究課題名
小児重症視覚障害の早期治療・リハビリテーションによる自立支援
課題番号
H18-感覚器・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(国立成育医療センター 第二専門診療部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 篠田 啓(国立病院機構東京医療センター眼科)
  • 近藤 峰生(名古屋大学大学院医学系研究科感覚器障害制御学)
  • 佐藤 美保(浜松医科大学医学部眼科学教室)
  • 不二門 尚(大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学分野)
  • 石橋 達朗(九州大学大学院機能制御医学部門構造機能学講座眼科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児重症眼疾患において、1)従来は行われなかった未熟段階での早期治療による視機能発達温存の検討、2)未発達な残存視機能の早期評価法の開発、3)残存視機能の発達を含めたロービジョンケア、4)補助具の開発、を目的とする。
研究方法
1)重症未熟児網膜症に対する早期硝子体手術を開発し、38例58眼 で術後の網膜復位と黄斑形成、視力を評価した。2)1.手術室で全身麻酔下の網膜電図(ERG)検査法を検討した。小児で抵抗なく記録できるよう皮膚電極にノイズ除去手法を用いた記録装置を開発した。2.液晶モニターによる視力計測が従来の検査法値と一致するかを検討した。3.小児の年齢別に平均角膜厚を求めた。3)コンピューターゲームを用いて、弱視と両眼視の訓練装置を開発した。4)シースルー型ホログラムにカメラを装着した補助視覚装置を開発し、有用性を検討した。
結果と考察
1)光凝固が十分だと、網膜全復位90%、部分復位10%で、74%に黄斑が形成された。従来の硝子体手術では視力は殆どが光覚~手動弁にとどまったが、新規手術では、手術時にstage 4Bだと0.05以下、早期のstage 4Aでは大部分が0.1~0.4を得た。この手術法によって、重症未熟児網膜症の手術適応は大きく変わり、早期治療の概念が普及し、患児は普通学校へ進学できる可能性が開けた。2)1.ノイズ源が多い手術室でのERG記録ができる。覚醒下で行う新規方法は、すべての波形が明瞭に計測でき、小児の網膜疾患で広く用いられる可能性がある。2.新規液晶モニター視力測定装置は従来の視力検査装置と相関があり、正確に検査できる。3.小児の平均角膜厚は544.3μmで1歳以下は5歳以上に比べて有意に薄い。3)これまで視力程度に応じ視標を変化させる訓練装置は存在しなかったが、新規に開発した弱視訓練装置、両眼視訓練装置は、視力0.1から0.4程度の弱視、両眼視異常に対応できる。4)デジタル補助視覚装置は、視覚障害が重症なほど、装着による良好な満足度が得られた、小児への臨床応用を想定している。
結論
1)重症未熟児網膜症の早期硝子体手術を開発し、良好な視力予後を得た。この導入によって、重症未熟児網膜症の予後は大きく改善された。2)手術室におけるERG測定法をと覚醒下での新規皮膚電極型ERG装置、新規液晶モニター視力測定装置を開発した。1歳未満の小児の平均角膜厚は522μmで550μmを超える場合には、眼圧の補正が必要と考える。3)視覚障害児が、興味を持って訓練に取り組める、弱視と両眼視訓練装置を開発した。4)補助視覚装置を開発し、視覚障害で満足度の高いものがあることを確認した。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200828005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来は行われなかった、未熟な段階での早期治療による視機能発達温存の可能性を検討し、重症未熟児網膜症の早期手術を開発することによって証明した。この早期手術を適切な時期でに行えば、重症網膜剥離に対して90%近い治癒率と良好な視力予後が得られ、新たな治療法として確立した。併せて、多くの小児の検査法、訓練・支援機器を開発した。
臨床的観点からの成果
重症未熟児網膜症が網膜剥離に進行すれば、従来は失明に至ると考えられていたが、新規手術の導入によって、適応は大きく変わり、早期治療の概念が普及した。適切な時期に手術すれば、3歳時点で0.1?0.5の視力が得られる症例も多く、普通学校へ進学できる可能性が開けた。また、新規に開発した検査法、訓練・支援機器は、有用性が検証され、臨床応用が期待される。
ガイドライン等の開発
新規手術の適応と方法について周知するために、日本眼科学会と日本眼科医会は、日本眼科学会雑誌と日本の眼科誌に同時掲載した。また、日本小児科学会雑誌にも掲載された。
その他行政的観点からの成果
周産期医療の発展とともに、未熟児網膜症の重症例は近年急増し、小児の失明原因で未熟児網膜症が40%をに達している。この未熟児網膜症による失明を減少させることが十分に期待できる。さらに、従来は失明に至ると考えられていた患児に、盲学校でなく普通学校へ進む可能性を開いた成果は大きい。
その他のインパクト
この新規手術の成果は、新聞やテレビ等のマスコミで大きく報道された。欧米やアジア諸国からの依頼で多くの講演を行った。日本全国だけでなく海外から、手術のために患児が紹介され、また多くの手術指導・相談の依頼を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
79件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
26件
新聞・テレビのマスコミ報道、講演会等

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Azuma N, Ishikawa K, Hama Y, et al.
Early vitreous surgery for aggressive posterior retinopathy of prematurity.
Am J Ophthalmol , 142 , 636-643  (2006)
原著論文2
東 範行
重症未熟児網膜症に対する早期硝子体手術.
日本の眼科 , 77 , 1113-1120  (2006)
原著論文3
東 範行
重症未熟児網膜症に対する早期硝子体手術.
日本眼科学会雑誌 , 110 , 822-829  (2006)
原著論文4
東 範行
重症未熟児網膜症の治療.
日本小児科学会雑誌 , 110 , 1616-1623  (2006)
原著論文5
Terauchi N, Fujinami K, Shinoda K, et al.
Transient macular dysfunction determined by focal macular electroretinogram.
Br J Ophthalmol , 91 , 1709-1710  (2007)
原著論文6
Morimoto T, Fujikado T, et al.
Evaluation of residual function by pupillary constrictions and phosphens using transcorneal electrical stimulation in patients with retinal degeneration.
Graefe Arch Clin Exp Ophthalmol , 244 , 1283-1292  (2006)
原著論文7
Fujikado T, Morimoto T, Matsushita K, et al.
Effect of transcorneal electrical stimulation in patients with nonarteritic ischemic optic neuripathy and traumatic optic neuropathy.
Jpn J Ophthalmol , 50 , 266-273  (2006)
原著論文8
Hiraoka M, Nishina S, Nakagawa A, et al.
Case of aggressive posterior retinopathy of prematurity with atypical neovascular growth.
Jpn J Ophthalmol , 52 , 417-419  (2008)
原著論文9
Hood DC, Bach M, Kondo M, et al.
Standard for multifocal electroretinography.
Documenta Ophthalmologica , 116 , 1-11  (2008)
原著論文10
Hikoya A, Sato M, Ukai K, et al.
Central corneal thickness in Japanese children.
Jpn J Ophthalmol , 53 , 7-11  (2008)
原著論文11
Kitaguchi Y, Fujikado T, et al.
Adaptive optics fundus camera to examine localized changes in the photoreceptor layer of the fovea.
Ophthalmology , 115 , 1171-1177  (2008)
原著論文12
Bessho K, Fujikado T, et al.
Photoreceptor images of normal eyes and eyes with macular dystrophy obtained in vivo with an adaptive optics fundus camera.
Jpn J Ophthalmol , 52 , 380-385  (2008)
原著論文13
Kita T, Hata Y, Ishibashi T, et al.
Role of TGF-beta in proliferative vitreoretinal diseases and ROCK as a therapeutic target.
PNAS , 45 , 17504-17509  (2008)
原著論文14
Yokoi T, Hiraoka M, Azuma N, et al.
Vascular abnormalities of aggressive posterior retinopathy of prematurity by fluorescein angiography findings.
Ophthalmology, in press , 116  (2009)
原著論文15
Nishina S, Yokoi T, Azuma N, et al.
Effect of early vitreous surgery for aggressive posterior retinopathy of prematurity detected by fluorescein angiography.
Ophthalmology, in press , 116  (2009)
原著論文16
Ito N, Kachi S, Kondo M, et al.
Concentration of vascular endothelial growth factor in aqueous humor of eyes with advanced retinopathy of prematurity before and after injection of bevacizmab.
Retina, in press , 29  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-