文献情報
文献番号
202026007A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアル曝露による慢性影響の効率的評価手法開発に関する研究
課題番号
H30-化学-指定-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
- 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
- 堀端 克良(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター変異遺伝部)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 渡辺 渡(九州保健福祉大学 生命医科学部)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(歯学系))
- 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
- 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 北條 幹(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究はナノマテリアル曝露により最も懸念されている体内蓄積に伴う慢性影響ついてより効率的な定量的リスク評価手法を開発する為に、既に報告されている多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のうちのMWNT-7による2年間の慢性吸入試験と同レベルの評価が可能な代替慢性試験法の検討を行うことを目的としている。また、遺伝毒性や免疫影響に関する指標についても今回開発する慢性試験プロトコルへの適用性を検証すると共に、リスク評価に関する国際動向を把握することを目的としている。
研究方法
R2年度は、慢性影響に関する研究として2年間の間欠投与(4週毎に6時間/日曝露)による吸入及び気管内投与による慢性曝露試験を行った。また、短期間気管内噴霧(TIPS)法を用いて長さの異なる二層ナノチューブ曝露による慢性実験を行いその発がん性を評価した。慢性影響指標に関する研究としては、最適化した肺小核試験法を用いてMWCNT-7 気管内投与における遺伝毒性評価を実施した。さらに、MWNT-7の2年間の間欠吸入曝露で得られたサンプルを用いた免疫ネットワーク解析、MWCNT-7の複数回吸入曝露による感染性免疫系への影響解析、in vitro系を用いたIL-1β分泌におけるスカベンジャー受容体MSR1の解析に関する研究を行った。海外動向調査としては、OECDナノマテリアル作業グループの最新動向を調査した。
結果と考察
慢性影響に関する研究に関して、2年間の慢性吸入毒性試験と同レベルの肺内負荷量を達成するために開発した2年間の間欠曝露試験を行い、曝露開始24ヵ月の最終期解剖を実施した。各群に死亡率の差は認められなかったが、肺の外観においては曝露濃度依存的に灰白色から灰色を呈して腫大し、肺重量が増加していた。肉眼的観察において曝露群の2例に肺がんを示唆する病変が観察された。気管内投与については、ラット気管内投与については、Taquann処理MWNT-7を4週間に1度、2年間にわたり投与した結果、肺負荷量は低用量群で約900 µg/Lung、高用量群で3600 µg/Lungに達し、用量依存的に肺腫瘍および胸膜中皮腫が発症した。短期間気管内噴霧(2週8回投与)+慢性観察(TIPS)法による長さの異なる二層ナノチューブ曝露による慢性影響試験を実施し、肺がんの誘発性が強さが繊維長に依存しないことを明らかにした。慢性影響指標に関する研究では、遺伝毒性指標としてマウスでのin vivo肺小核試験遺伝毒性試験における陽性対照の適用性および採材時期の最適化を検証中し、それを用いてMWCNT-7気管内投与下での遺伝毒性評価を実施した結果、肺小核試験で陽性となることを示した。免疫ネットワークへの影響では、MWCNT-7の吸入曝露の長期暴露(24ヶ月)後の肺胞マクロファージの割合が高濃度のMWCNT-7暴露で増加すると共に全身のマクロファージ分化にも影響が生じることが示された。加えて、in vitroおよび慢性腹膜炎モデルの系によりMMP-12を介した慢性炎症の機転が示された。感染性に対する影響では、Taquann法によるMWNT-7の複数回吸入曝露後のRSV感染マウスへの回復期(感染21日後)での影響を検討した結果、RSV感染のみでは肺炎はほぼ終息していたのに対して、MWNT-7曝露マウスではカーボン貪食マクロファージの集束など明確な肺炎像が認められた。特に高用量曝露で顕著であり、肺炎マーカーの上昇をよく反映した結果が得られた。In vitroメカニズム解析研究では、MWCNTによるNLRP3インフラマソームを介する炎症応答へのスキャベンジャー受容体MSR1の関与を解析し、特定サイズのMWCNTによるIL-1産生への部分的関与を明らかにした。海外動向調査では、OECD工業用ナノ材料作業部会(WPMN)等の国際会合に参加して,ナノ材料に関する最新の国際動向を調査し、WPMNにおいて先端材料(Advanced materials)を検討対象としているが,Advanced materialsの定義に関する情報が不足している他,有害性,使用実態,曝露に関する情報のデータギャップがナノ材料よりも大きく,今後も継続的に情報収集を行う必要があると考えられた。
結論
間欠曝露型の吸入及び気管内投与の慢性実験について、曝露実験を終了することができ、2年間の連続吸入曝露と同程度の催腫瘍性を間欠曝露でも得ることができた。しかし、中皮の増殖影響は気管内投与でより強く、肺がんの誘発とは異なるメカニズムが示唆された。また、肺がんの誘発性には繊維の長さがあまり影響しないことも示された。今後は、より短期の間欠投与の試験系を確立すると共に、中皮腫と肺がんを区別してリスク評価する為の指標や曝露手法の開発が必要であることが明らかとなった。
公開日・更新日
公開日
2021-11-02
更新日
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