ドクターヘリの適正利用および安全運航に関する研究

文献情報

文献番号
202022001A
報告書区分
総括
研究課題名
ドクターヘリの適正利用および安全運航に関する研究
課題番号
H30-医療-指定-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
猪口 貞樹(東海大学 医学部医学科)
研究分担者(所属機関)
  • 荻野 隆光(川崎医療福祉大学 医療技術学部 )
  • 高山 隼人(長崎大学病院 地域医療支援センター)
  • 北村 伸哉(国保直営総合病院君津中央病院 救命救急センター)
  • 早川 達也(聖隷三方原病院 高度救命救急センター)
  • 中川 雄公(大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター)
  • 土谷 飛鳥(独立行政法人国立病院機構水戸医療センター 救急科)
  • 野田 龍也(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 辻 友篤(東海大学 医学部)
  • 高嶋 隆太(東京理科大学 理工学部経営工学科)
  • 鵜飼 孝盛(防衛大学校 電気情報学群)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,658,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ドクターヘリ(DH)の安全かつ効果的な運用体制を提言することである。併せて、DHの安全かつ効果的な運用を継続的に検証するためのインシデント・アクシデント収集システム(JSAS-I)および全国症例登録システム(JSAS-R)を整備、さらに令和2年度追加研究として、COVID-19患者搬送に関する研究を行った。
研究方法
1.運用システムの研究
 1) JSAS-Rのデータ解析と数理モデル:数理モデルとJSAS-Rのデータを用い、運用方式が重複要請等に与える影響を検討した。
 2) ドクターヘリレジストリ(JHEMS)のデータ解析:JHEMSのデータを用いた効果検証について、追加分析の結果を加え、DHの血管障害の転帰に対する効果を再整理した。
2.全国症例登録システム(JSAS-R)の研究
 ・昨年度構築したJSAS-Rを運用し、一部修正した。
 ・登録データの集計を行った。
3.「ドクターヘリの安全な運用・運航のための基準(安全管理基準)」の改訂
 ・全国基地病院に、安全管理基準の周知・遵守状況をアンケート調査した。
4.COVID-19患者搬送に関する研究
 1)文献調査:COVID-19の航空医療搬送(回転翼機)に関する国内外文献調査を行った。
 2)公的機関へのアンケート調査、3)ドクターヘリの機体に関する調査 :機体や装備、感染対策、運航体制等につき、公的機関にアンケート調査を行った。現在本邦ドクターヘリに用いられている機体の仕様を調査した。
 4) 実機による検証:実機を用いて可搬式患者隔離装置(PIU)の検証を実施した。
 5) 運航マニュアル作成:得られた知見をもとに検討を行ない「COVID-19流行時におけるドクターヘリ運航マニュアル(案)」を作成した。
結果と考察
1.運用システムの研究
 1) JSAS-Rのデータ解析と数理モデル:①覚知要請割合の増加は任務中止率を増大させる、②DHの基地病院への帰投を見越して帰投前に応需することにより重複要請による不応需発生を低減できる。
 2) ドクターヘリレジストリ(JHEMS)のデータ解析:DHは、脳梗塞および急性冠症候群(救急隊現着時に意識良好で搬送距離が20kmを超えるもの)の転帰を改善する可能性がある。他の疾病に対する効果は明らかでない。
2.全国症例登録システム(JSAS-R)の研究
 ・DHは要請全体の8割に応需、内8割で患者接触しており、従来の全国調査と一致した。
3.安全管理基準の改訂
 ・同基準の認知度は前回調査より改善し、準拠した対応がとられていた。今後は、JSAS-R、JSAS-Iを活用して、各基地病院が安全管理と運用体制を包括的に評価し継続的に改善できる体制を構築することが望ましい。
 ・本研究の成果に基づき、「DHの安全かつ効果的な運用方法に関する提言」を行い、安全管理基準(改訂案)を作成した。
4.COVID-19患者搬送に関する研究
 1)文献調査:①COVID-19のDH搬送は感染リスクが高く十分な検討が必要である。②現場出動例は原則として陸上搬送が妥当と考えられる。③COVID-19の医療機関間搬送をDHが行うか、他の航空医療搬送体制を整備するかは、各地域での検討課題である。④COVID-19の搬送では手順書の整備とPPEの着脱・気管挿管患者の搬送訓練が必須である。⑤可搬式患者隔離装置(PIU)を事前検証する必要がある。
 2)公的機関へのアンケート調査、3)ドクターヘリの機体に関する調査 :防衛省、海上保安庁の行っている業務(遠距離洋上搬送等)はDHにはほぼ不可能であるが、以下は検討の余地がある。①DHが洋上飛行の装備を持ち離島搬送を既に行っている地域のCOVID-19洋上搬送、②COVID-19重症例の医療機関間搬送。なお、COVID-19搬送時には、本来のDH業務に及ぼす影響も十分に検討する必要がある。
 4) 実機による検証:調査したPIUの陰圧性能に問題はなかった。現在のDHでPIUを用いた医療機関間搬送を行う場合、軽症で安定した患者又は人工呼吸器管理下で比較的安定した患者を対象とするのが妥当である。重篤な患者の搬送は、大型PIUと専用の大きな機体を用い、訓練された専任クルーが実施するのが安全である。運用開始前に実際の機体とPIUを用いて検証する必要がある。
結論
・DH全国症例登録システム(JSAS-R)の運用を開始し、一部データを集計した。
・本研究の成果に基づき「DHの安全かつ効果的な運用方法に関する提言」を行い、安全管理基準(改訂案)を作成した。
・COVID-19患者搬送に関する調査・検討を行い、本邦DHの基本的な考え方および課題について整理した。

公開日・更新日

公開日
2022-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202022001B
報告書区分
総合
研究課題名
ドクターヘリの適正利用および安全運航に関する研究
課題番号
H30-医療-指定-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
猪口 貞樹(東海大学 医学部医学科)
研究分担者(所属機関)
  • 荻野 隆光(川崎医科大学 救急医学)
  • 高山 隼人(長崎大学病院 地域医療支援センター)
  • 北村 伸哉(国保直営総合病院君津中央病院 救命救急センター)
  • 早川 達也(聖隷三方原病院 高度救命救急センター)
  • 中川 雄公(大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター)
  • 土谷 飛鳥(独立行政法人国立病院機構水戸医療センター 救急科)
  • 野田 龍也(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 辻 友篤(東海大学 医学部)
  • 高嶋 隆太(東京理科大学理工学部経営工学科)
  • 鵜飼 孝盛(慶應義塾大学 理工学部)
  • 田中 健一(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ドクターヘリ(以下DH)の安全かつ効果的な運用体制を提言すること。併せてインシデント・アクシデント収集システム(以下JSAS-I)および全国症例登録システム(以下JSAS-R)を整備。また令和2年度より、COVID-19患者搬送に関する研究を実施。
研究方法
1.現状分析に関する研究
 1)ドクターヘリレジストリ(JHEMS)のデータ解析:急性冠症候群(ACS)、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に対するDHの効果を分析。
2.運用システムの研究
 1) DHの搬送対象・運用方式の研究:JHEMSの外傷例データを用いて救急隊現場到着前要請方式(以下覚知要請)の時間短縮効果を検討。
 2) 要請件数の多い地域の実地調査:鹿児島県を調査。
 3) 覚知要請に関するアンケート調査:全国調査を実施。
3.オペレーションズ・リサーチによる効果的な運用方法の検証
 1) 重複要請の数理モデル:確率モデルで推定した重複要請発生率と実重複要請発生率を比較。
 2) 出動中の応需の影響:確率モデルを用いて任務完了前要請受諾の不応需発生率等を分析。
 3) 運用方法の検証:上記数理モデルとJSAS-Rを用い、運用方式が重複要請等に与える影響を検討。
4. 全国症例登録システム(JSAS-R)に関する研究
 1) 項目の検討:登録項目を検討。
 2) 試用運用と改修:JSAS-Rを試用運用し問題点を修正。
 3) データの集計:登録データを中間集計。
5.インシデント・アクシデント収集システム(JSAS-I)に関する研究
 JSAS-Iを構築し、令和2年度に試用運用。
6.遠隔航空搬送の研究
 DH以外の遠隔地医療用ヘリコプター3か所を調査。
7.ドクターヘリの安全な運用・運航のための基準(安全管理基準)」の改訂
 1) アンケート調査:安全管理基準の周知・遵守状況を全国アンケート調査。
 2) 安全管理基準の改訂:改訂案を作成。
8.COVID-19患者搬送に関する研究
 1) 文献調査
 2) 公的機関へのアンケート調査
 3) ドクターヘリの機体に関する調査
 4) 実機による検証
 5) 運航マニュアル作成
結果と考察
1-1)DHは、脳梗塞の4週間後転帰(CPC1・2)改善および搬送距離20km以上の急性冠症候群(非心肺停止)に対する早期PCI開始に有効。その他の疾病への効果は明らかでない。
2-1)覚知要請方式では覚知〜医師接触時間が短縮(中央値5分)。
 2) 要請件数の多い県では重複要請が多数発生していたが、他の医療機関のヘリで補完されていた。
 3) DHの要請タイミングおよび重複要請への対応には大きな地域差がある。現場出動件数の10.9%が重複要請、うち73.8%は対応不能。覚知要請が増えると対応不能重複要請も増加。他のDHや他機関のヘリ等との連携で重複要請の影響は緩和される。
3-1) 実重複要請発生率は推定より低く、各地域での様々な対策が推察された。
 2)出動中の応需を分析する数理モデルを作成。
 3)①覚知要請割合の増加で任務中止率は増加、②DH帰投前応需で重複要請による不応需発生率は低下。
4-1)品質管理項目等を追加。
 2)JSAS-Rを試用運用して問題点を修正。
 3) DHは要請の8割に応需、うち8割で患者接触しており、全国調査との一致を確認。令和3年度よりJSAS-Rの全国運用開始。
5 令和3年度よりJSAS-Iの全国運用を開始。
6 遠隔地航空搬送では①双発エンジン、②空中衝突防止装置の設置、③搭乗医師・看護師への保険付保、④2つ以上の天候情報による判断、を推奨。
7-1) 安全管理基準の認知度は前回調査より大幅に改善。
 2) 本研究成果から「DHの安全かつ効果的な運用方法に関する提言」を作成。これを含めた安全管理基準改訂案を作成。
8-1) ①COVID-19のDH搬送は感染リスクが高い。②現場出動例は原則として陸上搬送。③医療機関間搬送は各地域での検討課題。④手順書の整備、PPE着脱・気管挿管患者搬送訓練は必須。⑤可搬式患者隔離装置(PIU)は要使用前検証。
 2) ・3) 現在の防衛省、海上保安庁の業務はDHにはほぼ不可能。
 4) 重篤な患者の搬送は、大型PIUと専用の大きな機体を用い訓練された専任クルーが実施。
 5) 本研究成果に基づき「COVID-19流行時における運航マニュアル(案)」を作成。
結論
・本研究の成果をまとめて「DHの安全かつ効果的な運用方法に関する提言」を作成。これを含めた安全管理基準改訂案を作成した。
・DH以外の遠隔地航空搬送における安全面での推奨を行った。
・JSAS-R・JSAS-Iを構築し、試用運用を実施した。令和3年度より全国基地病院で運用を開始する。
・本研究成果に基づき「COVID-19流行時における運航マニュアル(案)」を作成した。

公開日・更新日

公開日
2022-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202022001C

収支報告書

文献番号
202022001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,355,000円
(2)補助金確定額
7,355,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,442,678円
人件費・謝金 0円
旅費 126,266円
その他 4,089,056円
間接経費 1,697,000円
合計 7,355,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2022-05-23
更新日
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