文献情報
文献番号
202019035A
報告書区分
総括
研究課題名
環境水を用いた新型コロナウイルス監視体制を構築するための研究
課題番号
20HA2009
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 弘(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
- 原本 英司(山梨大学 大学院総合研究部)
- 北島 正章(北海道大学 大学院工学研究院)
- 喜多村 晃一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
- 貞升 健志(東京都健康安全研究センター 微生物部)
- 濱崎 光宏(福岡県保健環境研究所)
- 田隝 淳(国土技術政策総合研究所 下水処理研究室)
- 小澤 広規(横浜市衛生研究所 微生物検査研究課ウイルス担当)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
59,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症は呼吸器疾患であるが、ウイルスが腸管で増殖し糞便に排出される場合があること、また不顕性感染例も報告されていることから、下水中のウイルスゲノム検出により地域の感染状況の把握、感染者数推計等の研究が行われている。
・わが国では下水網を活用したポリオ環境水サーベイランスを実施中である。ポリオウイルスは腸管で増殖後、糞便中に大量に排出され、多くが不顕性感染であることから、不活化ポリオワクチン導入後、2013年度より全国19カ所の地方衛生研究所(地衛研)がウイルス監視を継続中である。
・両ウイルスには不顕性感染の割合が高い共通項があることから、下水調査による集団レベルの感染者把握、早期探知は健康リスク管理の観点から公衆衛生上の意義がある。しかし下水中のSARS-CoV-2量はポリオウイルスに比べ極めて少ないため、検出法を改良する必要がある。
・また地域の感染者数の推計研究を行うには、SARS-CoV-2監視体制を構築する必要があり、ポリオ環境水サーベイランスを活用しつつ運用面の課題を整理する。
・わが国では下水網を活用したポリオ環境水サーベイランスを実施中である。ポリオウイルスは腸管で増殖後、糞便中に大量に排出され、多くが不顕性感染であることから、不活化ポリオワクチン導入後、2013年度より全国19カ所の地方衛生研究所(地衛研)がウイルス監視を継続中である。
・両ウイルスには不顕性感染の割合が高い共通項があることから、下水調査による集団レベルの感染者把握、早期探知は健康リスク管理の観点から公衆衛生上の意義がある。しかし下水中のSARS-CoV-2量はポリオウイルスに比べ極めて少ないため、検出法を改良する必要がある。
・また地域の感染者数の推計研究を行うには、SARS-CoV-2監視体制を構築する必要があり、ポリオ環境水サーベイランスを活用しつつ運用面の課題を整理する。
研究方法
技術的、運用面での課題を整理するため、1)SARS-CoV-2検出に関する基盤的技術(濃縮法、RNA抽出法)の比較検討、2)確立した手法の水平展開を図るための検査マニュアルを作成、3)ポリオウイルス監視と並行して実施可能なSARS-CoV-2検出方法の検討、4)下水を用いたSARS-CoV-2調査の運営面の課題の整理、を行った。
結果と考察
・下水中のSARS-CoV-2濃縮法やウイルスRNA抽出法の研究を行い、1)熱不活化処理を試料の前処理に導入すると、ウイルスゲノム量は有意に減少すること、2)流入水の濃縮方法を比較した結果、PEG沈殿法が最も適していること、更に抽出効率が最適なウイルスRNA抽出キットが選択できたこと、3)SARS-CoV-2 RNAと下水中に普遍的に存在するトウガラシ微斑ウイルス(PMMoV) RNAの検出濃度の間には有意な正の相関が認められPMMoVはプロセスコントロールとして有用性があること、を示した。
・他方、流入下水の遠心上清と沈殿物を比較した結果、沈殿物がウイルス検出に適していることを示した。また下水中ではウイルスRNAが分解されている可能性が認められ、複数の遺伝子領域を増幅するPCR系が重要と考えられた。
・以上の知見をもとに地衛研にて検出条件を再検討しマニュアルの作成及びウエブ研修を実施し、12施設における定点観測(11か所は原則月1回、1か所は週1回採水)、1施設でスポット調査を行うべく、手法の水平展開を行った。調査は令和2年10月より順次開始した。
・調査の結果、沈殿物を用いたウイルス検出の有用性が示されたが、一部の施設で遠心上清を用いた陰電荷膜濃縮法、PEG沈殿法が良好な場合もあり、検出材料と濃縮法の追加検討の必要性が認められた。
・各地衛研で検出された下水中のウイルス量は少なく、1か所でVeroE6・TMPRSS2細胞によるウイルス分離を試みたがSARS-CoV-2は分離できなかった。
・1地衛研では民間検査機関を利用し5か所の処理場で週1回の採水頻度で調査したところ、下水中SARS-CoV-2濃度は感染者数の増減との間に相関が認められたが、繁華街を含む処理場では相関が低い結果を得た。
・下水中の新型コロナウイルス調査の実装化にあたり、技術面では検査キャパシティを考慮した上での検査プロセスの簡素化と検出感度の改良、消耗品の供給と代替品の検討、また下水の特性(ウイルスが減衰する要因)を考慮したウイルス量推定モデルの開発と比較する処理区内の感染者数データの蓄積の必要性が認められた。運用面では結果公表時に、定量データを示すならば信頼性を考慮する必要があること、情報共有内容及び公表内容について下水道部局と衛生部局間の十分な連携が重要であると考えられた。
・他方、流入下水の遠心上清と沈殿物を比較した結果、沈殿物がウイルス検出に適していることを示した。また下水中ではウイルスRNAが分解されている可能性が認められ、複数の遺伝子領域を増幅するPCR系が重要と考えられた。
・以上の知見をもとに地衛研にて検出条件を再検討しマニュアルの作成及びウエブ研修を実施し、12施設における定点観測(11か所は原則月1回、1か所は週1回採水)、1施設でスポット調査を行うべく、手法の水平展開を行った。調査は令和2年10月より順次開始した。
・調査の結果、沈殿物を用いたウイルス検出の有用性が示されたが、一部の施設で遠心上清を用いた陰電荷膜濃縮法、PEG沈殿法が良好な場合もあり、検出材料と濃縮法の追加検討の必要性が認められた。
・各地衛研で検出された下水中のウイルス量は少なく、1か所でVeroE6・TMPRSS2細胞によるウイルス分離を試みたがSARS-CoV-2は分離できなかった。
・1地衛研では民間検査機関を利用し5か所の処理場で週1回の採水頻度で調査したところ、下水中SARS-CoV-2濃度は感染者数の増減との間に相関が認められたが、繁華街を含む処理場では相関が低い結果を得た。
・下水中の新型コロナウイルス調査の実装化にあたり、技術面では検査キャパシティを考慮した上での検査プロセスの簡素化と検出感度の改良、消耗品の供給と代替品の検討、また下水の特性(ウイルスが減衰する要因)を考慮したウイルス量推定モデルの開発と比較する処理区内の感染者数データの蓄積の必要性が認められた。運用面では結果公表時に、定量データを示すならば信頼性を考慮する必要があること、情報共有内容及び公表内容について下水道部局と衛生部局間の十分な連携が重要であると考えられた。
結論
・下水中のSARS-CoV-2調査定点を全国に構築することにより、地域毎の感染者の有無を定性的に示すことができたが感染者推計には更なる研究が必要である。
・採水頻度を増やした調査事例では感染者数の変動より早期探知への適用可能性を示したが検査キャパシティが課題となる。
・技術面では下水中のコロナウイルス量は少ないため、検出法の改良は今後も必要。また下水固有の特性を考慮した処理区内のウイルス量の推計モデルの開発が望まれ、感染者数と連動したデータを蓄積する必要性がある。
・運用面では関係部局間の情報共有内容及び公表内容、検出時の行政対応の在り方、データの公表時のリスクコミュニケーション、民間検査の活用と行政検査機関の役割(精度管理等)について更に検討する必要がある。
・採水頻度を増やした調査事例では感染者数の変動より早期探知への適用可能性を示したが検査キャパシティが課題となる。
・技術面では下水中のコロナウイルス量は少ないため、検出法の改良は今後も必要。また下水固有の特性を考慮した処理区内のウイルス量の推計モデルの開発が望まれ、感染者数と連動したデータを蓄積する必要性がある。
・運用面では関係部局間の情報共有内容及び公表内容、検出時の行政対応の在り方、データの公表時のリスクコミュニケーション、民間検査の活用と行政検査機関の役割(精度管理等)について更に検討する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2021-07-19
更新日
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