認知症の人に対する生活機能及び活動維持・向上に資する効果的なリハビリテーションプログラムの策定に関する研究

文献情報

文献番号
202016008A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の人に対する生活機能及び活動維持・向上に資する効果的なリハビリテーションプログラムの策定に関する研究
課題番号
19GA1004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
大沢 愛子(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井 秀典(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)
  • 近藤 和泉(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター病院)
  • 伊藤 直樹(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 植田 郁恵(研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 相本 啓太(国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 宇佐見 和也(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 神谷 正樹(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 前島 伸一郎(金城大学)
  • 吉村 貴子(京都先端科学大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,670,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の超高齢社会において、認知症および軽度認知障害(MCI)の有病者数はますます増加している。認知症の発症予防や症状の進行予防、あるいは認知症の人やMCIの人と社会で共に生きるという観点から、医療現場においても介護現場においても認知症とMCIの人に対する治療やケアの確立が課題となっている。しかし、当事者の置かれた環境や症状は様々であり、また、リハビリテーション(リハ)を含む非薬物療法にも多くの種類があり、実際の医療や介護現場では治療者の勘や経験に頼ってアプローチが実施されていることが多い。そこで、本研究では、認知症とMCIの人およびその家族介護者の生活と活動を維持するため、当事者の考え方を尊重しつつエビデンスに基づく効果的なリハが提供できるような環境を整えることを目的とし研究を実施した。
研究方法
以下の1から5の研究を実施した。具体的には、研究1:認知症とMCIの人および家族介護者に対する脳・身体賦活リハにおけるリハ手法の分析、研究2:脳・身体賦活リハのリハ手法に対する当事者(認知症の人本人と家族介護者)評価の分析、研究3:脳・身体賦活リハを実施した対象者の認知機能、BPSD、日常生活活動、社会活動の分析、研究4:認知症とMCIの人および家族介護者のための非薬物療法に対する先行文献に関するレビュー、研究5:認知症と軽度認知障害の人およびその家族介護者のためのリハマニュアルの作成、を行った。
結果と考察
認知症やMCIの人とその家族に対する脳・身体賦活リハの結果からは、1年間のリハの継続にて、手段的IADLとしての活動度や、家族の介護負担感が軽減される症例が3割程度存在しリハの効果が確認された。またリハの開始時期については、開始前に精神症状がないか軽度であった群で、リハ開始1年後の家族の介護負担感が有意に低下していたことから、BPSDが発現する前、あるいは悪化する前の早期の段階からの開始が望ましいと思われた。
 全体を通じたリハ手法に関し、認知症やMCIの人と家族の間で満足を感じるプログラムが異なっていたことから、本人がやりたいプログラムと家族介護者がやらせたいプログラムが異なっていることが明確になった。特に認知症の人については、残存機能が生かせる生活課題や運動課題を好む傾向にあり、必要に応じて認知課題などを選択する際にも、ADLと結びつけたり、運動の要素を取り入れたりするなどの工夫が必要であると考えられた。最終的に、これらの内容を反映させ、リハマニュアルを完成させた。
文献レビューの結果からは、認知症やMCIの人と家族介護者に対する非薬物療法のエビデンスはまだ少ないが、その中から、運動やコミュニケーション訓練を含む多面的な介入の効果が明らかになった。
結論
国立長寿医療研究センターで実施されている脳・身体賦活リハビリテーションにおける認知症とMCIの人および家族介護者の状況についてまとめ、分析した。詳細な結果の分析から、認知症やMCIに対するリハのあるべき姿として、BPSDが出現または悪化する前からの早期の治療開始と当事者の視点を生かしたリハプログラムの提供、さらに、コミュニケーション能力を中心とした細かな認知機能へのアプローチおよびそれらを生活や活動につなげるような工夫を行うことが重要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202016008B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症の人に対する生活機能及び活動維持・向上に資する効果的なリハビリテーションプログラムの策定に関する研究
課題番号
19GA1004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
大沢 愛子(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井 秀典(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)
  • 近藤 和泉(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター病院)
  • 伊藤 直樹(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 植田 郁恵(研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 相本 啓太(国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 宇佐見 和也(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 神谷 正樹(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 前島 伸一郎(金城大学)
  • 吉村 貴子(京都先端科学大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会の中で、本邦における高齢者の認知症および軽度認知障害(MCI)の有病率も上昇している。その中で、認知症の発症予防や症状の進行予防という観点から、医療現場においても介護・福祉現場においても認知症の人に対する対応や治療・ケア的アプローチの確立は喫緊の課題である。現在、医療や介護・福祉現場で様々なリハビリテーション (リハ)やケアが実施されているが、リハやケアの具体的な内容は定められておらず、実施した介入と効果との関連も不明である。さらにMCIや家族介護者への介入に関するエビデンスも整理されていない。このため、本研究では、当センターで実施している脳・身体賦活リハビリテーションの知見をまとめリハマニュアルを作成するとともに、認知症とMCIの人および家族介護者に対する非薬物療法のエビデンスを明らかにすることを目的とした。
研究方法
1. 文献レビュー
2015年5月以降に発行された論文に関し、MEDLINE、Cochrane Library、医学中央雑誌において、“認知症”/“軽度認知障害(MCI)”/“家族介護者”に対する“非薬物療法”“非薬物的介入”に関する文献検索を実施した。次に一次スクリーニングと二次スクリーニングを実施し、最終的に、選択された論文を再度精読し、構造化抄録を作成した。
2. 認知症とMCIの人および家族介護者のためのリハビリテーションマニュアルの作成
 前年度の脳活リハでの研究結果をまとめ、それらの結果と文献レビューのエビデンスを反映させたマニュアルを執筆し完成させた。

結果と考察
1.文献レビュー
全体として、(1)認知症とMCIに対する言語・コミュニケーション訓練、(2) 認知症とMCIに対する非薬物療法、(3) 認知症とMCIの家族介護者に対する非薬物療法、(4) 認知症とMCIの人とその家族介護者の両者に対する非薬物療法の4つの分野について、Clinical Question(CQ)を設定し、文献検索を実施した。1次スクリーニングと2次スクリーニングを経て、最終的に、(1)認知症とMCIに対する言語・コミュニケーション訓練 14論文、(2) 認知症とMCIに対する非薬物療法 145論文、(3) 認知症とMCIの家族介護者に対する非薬物療法 21論文、(4) 認知症とMCIの人とその家族介護者の両者に対する非薬物療法 10論文の精読を行った。それらの内容をCQごとに一覧表にまとめ、構造化抄録を作成した。
2. 認知症とMCIの人および家族介護者のためのリハビリテーションマニュアルの作成
認知症とMCIの人およびその家族に対してリハビリテーションを実施するための必要事項について項目立てを行った。第1章では、認知症やMCIについての知識を深めるための疾患の説明や診断方法、薬物療法に加え、脳と身体の両面に対するアプローチや、社会的側面への配慮、家族介護者への指導も含む多面的なリハの意義を理解してもらうことを目的に、リハを行うための“医学的留意点・診断”について述べた。第2章では、適切な評価に基づくパーソン・センタードな関わりを実施するために必要な認知機能、BPSD、精神状態、日常生活活動(ADL)、社会活動、生活、家族介護者の状況、社会資源の活用状況などに関する代表的な評価法を紹介し評価の選択や解釈に関して説明を行った。第3章では、実際の脳・身体賦活リハのプログラムについて重症度別に提示した。その際、前年度に実施したプログラムの解析結果と文献レビューの結果を踏まえ、当事者の思いとエビデンスに配慮した内容となるよう工夫した。また、認知症やMCIの人のみでなく、家族介護者に向けた指導の内容や環境の工夫などにも言及した。最後に第4章では、多くの認知症の人が経験する言語やコミュニケーション障害に対して、その特徴と評価、アプローチについて説明した。最終的にこれらの第1-4章をまとめて文言の調整を行い、「認知症と軽度認知障害の人および家族介護者のためのリハビリテーションマニュアル」を完成させた。
結論
国立長寿医療研究センターで実施されている脳・身体賦活リハビリテーションの分析結果と、認知症とMCIおよびその家族介護者における非薬物療法に関する文献レビューの結果を用い、当事者の思いとエビデンスに配慮した「認知症と軽度認知障害の人および家族介護者のためのリハビリテーションマニュアル」を作成した。本マニュアルは、医療分野だけでなく介護・福祉分野、および研究分野でも広く使用可能な内容となっており、本マニュアルを使用したリハビリテーションの実践により、認知症やMCIの人の生活機能や活動の維持・向上と、家族介護者の介護負担の軽減が期待され、本領域の治療やケアの発展に資するものであると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202016008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症と軽度認知障害および家族介護者に対する非薬物療法の知見が構造化抄録としてまとめられ、エビデンスが整理された。また、認知症と軽度認知障害のリハビリテーション およびケアに携わる専門家の知見が集約されたリハビリテーションマニュアルが完成した。これによりエビデンスに基づく統一した評価や治療、あるいは研究介入が可能になり、認知症の非薬物療法の発展に大いに貢献する成果である。
臨床的観点からの成果
認知症や軽度認知障害の人に対し、エビデンスと当事者の思いに基づく評価や治療の方法を具体的に提示したマニュアルを作成したことで、スタッフの経験や勘に頼ってきた非薬物療法がマニュアルに沿って実施可能となる。また評価の選択や解釈、治療とケアに活かす方法を詳細に説明したことで、医療と介護現場における治療やケアの質的向上に多く寄与できる。介護者家族に対するケアの方法を体系立ててまとめたマニュアルはこれまでになく、その意味でも本マニュアルは医療・福祉現場ですぐに直接的に使用可能であり、大きな成果である。
ガイドライン等の開発
認知症と軽度認知障害の人のためのリハビリテーションマニュアルを作成した。審議会などではまだ参照されていない。今後構造化抄録とステートメント、解説文などについて関連学会と協議し、認知症と軽度認知障害の人に対する非薬物療法のガイドラインを作成予定である。
その他行政的観点からの成果
統一された方法による評価や治療・ケアが実施されることで、認知症や軽度認知障害の人に対するリハビリテーションなどの非薬物療法の効果に関するエビデンスの蓄積が容易になり、今後の我が国の認知症に対する医療や福祉の基礎的データの収集につながる。また効果的な非薬物療法の実施により、認知症や要介護認定の悪化を予防し、医療費や介護費用を減少させる効果が期待できる。
その他のインパクト
2022年6月1日現在、「軽度認知障害と認知症の人および家族・介護者のためのリハビリテーションマニュアル」と「軽度認知障害と認知症の人及び家族・介護者のための支援・非薬物的介入ガイドライン2022」を作成中である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2023-05-01

収支報告書

文献番号
202016008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,770,000円
(2)補助金確定額
4,770,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,361,929円
人件費・謝金 890,732円
旅費 207,590円
その他 1,209,749円
間接経費 1,100,000円
合計 4,770,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2023-05-01