受動喫煙防止等のたばこ政策のインパクト・アセスメントに関する研究

文献情報

文献番号
202009015A
報告書区分
総括
研究課題名
受動喫煙防止等のたばこ政策のインパクト・アセスメントに関する研究
課題番号
19FA1005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(公益社団法人地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 姜 英(キョウ エイ)(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 五十嵐 中(横浜市立大学医学群健康社会医学ユニット)
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター がん対策センター疫学統計部)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
  • 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 村木 功(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 萩本 明子(同志社女子大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、2020年4月から全面施行された改正健康増進法による受動喫煙防止をはじめ、警告表示(注意文言)の変更、広告の自主規制の見直し、たばこ税の段階的増税のインパクト評価を実施し、政策形成・強化につながるエビデンスの構築と実効性のある政策提言を行うことを目的としている。
研究方法
改正健康増進法による受動喫煙防止をはじめとする主要政策の導入によるインパクトを評価するため、研究班独自の調査を昨年度に引き続き実施した。そのほか近隣住宅の受動喫煙問題解決に必要な行政上の措置に関する検討、たばこ政策の健康面・経済面のインパクトの推計(喫煙率、回避死亡数、医療費の削減効果を指標)、加熱式たばこ使用者の追跡調査を実施した。
そのほか、喫煙と新型コロナウイルス感染症の関連についての文献の情報収集と整理、禁煙治療のための標準手順書の改訂(第8版)における協力と支援、コロナ禍における禁煙の重要性や加熱式たばこの健康影響に関する情報発信のための教材作成と公表を行った。
結果と考察
改正健康増進法のインパクト評価として2019年7月から改正健康増進法が施行された自治体では、主要159自治体の一般庁舎すべてが建物内全面禁煙となったが、敷地内全面禁煙を実施した割合は法改正前後(2019年3月と2020年3月)で13.8%から35.8%に増加したものの、2021年2月で37.7%にとどまった。飲食店への質問票調査から、改正法の全面施行前後で16.9%の店舗で喫煙ルールが変更され、その8割が全面禁煙化であった。飲食店民間データベースの店舗情報の分析結果から、全面施行前後でレストラン、居酒屋・ダイニングバーにおいて禁煙化が進んでおり、都道府県別では東京都の禁煙飲食店割合が17.3%と最も大きく増加した。近年社会的に関心が高まっている近隣住宅の受動喫煙問題解決に必要な行政上の措置として、民間の禁煙マンション・禁煙アパートの普及の後押し、公社・公営住宅(賃貸物件)の禁煙化、国土交通省の標準管理規約の改正などがあげられた。
2020年7月にたばこパッケージの注意文言の表示面積が30%から50%に拡大されたことを受けて、一般国民を対象としたインターネット調査を実施した。表示への気づき、表示をきっかけとした喫煙の害の認識、禁煙の可能性において、「とても頻繁にあった」「頻繁にあった」と回答した割合は2~5%にとどまり、画像がないテキストのみでは面積を増やしてもインパクトが小さいことが示された。業界の自主規制にとどまっているたばこ広告等の規制を強化する上で障壁となる法的な課題について、表現の自由と営利広告の自由(憲法21条、22条)、喫煙の自由と幸福追求権(憲法13条)の観点で、本研究班の法律家チーム(法学者や弁護士計21名で構成)による検討を行った。その結果、今後の規制強化にあたり憲法上深刻な問題を惹起するとは考えられないとの結論を得た。
たばこ規制枠組条約で求められる政策パッケージがすべて履行された場合に得られる喫煙率の減少効果は個々の政策で大差なく、政策を合計した場合の効果が最も大きかった。回避死亡数については、2100年までに男女計で約40万人の死亡が回避できると推計された。喫煙率が絶対値で1%、5%、10%低下することによる喫煙関連疾患の生涯医療費削減額は、割引2%の場合、男性で2,898億円、1兆4,500億円、2兆8,989億円、女性で2,787億円、1兆3,939億円、2兆7,877億円と推計された。
紙巻きたばこから加熱式たばこに切り替えた喫煙者(switcher)と紙巻きたばことの併用者(dual user)が加熱式たばこの禁煙を試みる割合(禁煙試行率)は25.2%、28.3%と差がなく、dual userにおける紙巻きたばこの禁煙試行率は34.1%と高かった。また、1年間に使用しているたばこ製品をすべて中止した割合(禁煙率)はそれぞれ26.8%、14.2%で、switcherで禁煙率が高かった。
その他の研究班の活動として、喫煙が新型コロナウイルスの感染・重症化・死亡に及ぼす影響についての文献の情報収集と整理、禁煙治療アプリの保険適用やコロナ禍における特例的措置に伴う「禁煙治療のための標準手順書」(第8版)の改訂作業の協力・支援、コロナ禍における禁煙の重要性を社会に情報発信するための教材の作成と公表、加熱式たばこの健康影響をわかりやすく情報発信するための動画教材の作成と公表を実施した。
結論
これからの超高齢化社会ならびにニューノーマル時代において、生活習慣病や介護の原因に深く関係する喫煙と受動喫煙の低減を図ることの社会的意義は大きい。国際的に取り組みが遅れているたばこ規制・対策の推進を目指して、政策化に役立つ質の高いエビデンスの構築と実効性のある政策提言を行う。

公開日・更新日

公開日
2022-05-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-04-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202009015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,990,000円
(2)補助金確定額
11,702,000円
差引額 [(1)-(2)]
288,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,235,936円
人件費・謝金 2,834,946円
旅費 48,246円
その他 6,493,652円
間接経費 1,090,000円
合計 11,702,780円

備考

備考
自己資金780円

公開日・更新日

公開日
2022-05-09
更新日
-