文献情報
文献番号
202008008A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究
課題番号
H30-がん対策-一般-007
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
田村 和夫(福岡大学 研究推進部)
研究分担者(所属機関)
- 長島 文夫(杏林大学 医学部内科学腫瘍科)
- 相羽 惠介(東京慈恵会医科大学 内科学講座 腫瘍・血液内科)
- 齊藤 光江(順天堂大学医学部乳腺・内分泌外科)
- 佐伯 俊昭(埼玉医科大学 医学部 乳腺腫瘍科)
- 唐澤 久美子(東京女子医科大学 医学部)
- 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院支持療法開発部門)
- 高橋 孝郎(埼玉医大国際医療センター 支持医療科)
- 海堀 昌樹(関西医科大学 外科)
- 作田 裕美(大阪市立大学大学院 看護学研究科)
- 今村 知世(昭和大学 先端がん治療研究所)
- 辻 哲也(慶應義塾大学 医学部リハビリテーション医学教室)
- 小寺 泰弘(名古屋大学 大学院医学系研究科)
- 中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
- 小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野)
- 濱口 哲弥(埼玉医科大学国際医療センター 消化器腫瘍科)
- 津端 由佳里(島根大学医学部内科学講座 呼吸器・臨床腫瘍学)
- 高橋 昌宏(東北大学加齢医学研究所 臨床腫瘍学分野)
- 西嶋 智洋(九州がんセンター 老年腫瘍科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢者がん診療ガイドライン策定に必要な基盤整備をすることを目的とする。
研究方法
令和2年度は、過去2年間の事業を継続し、これまでのエビデンスを収集・解析してQ&Aの形で臓器別の高齢者の治療についてまとめる。これらの研究成果から高齢がん医療に関する問題点が抽出され、令和1年度に設置された高齢者がん診療ガイドライン委員会のもとモデル事業を実施する。男女とも罹患数が多く、標準治療が確立している大腸がん選び、総論―高齢者機能評価、外科治療、内科治療、放射線治療、支持・緩和医療、医療経済の6ワーキンググループ(WG)を設置して議論し、臨床的提言をまとめる。外科委員会は、高齢者の外科診療の現状に関するアンケート調査を実施する。医療経済委員会は、高齢者のがん治療の費用対効果の検討を開始する。脆弱な高齢がん患者を診療するにあたって、避けて通れないのは、医療だけでなく、患者をサポートする介護体制である。そこで、がん診療に携わっている施設を対象に「医療と介護の連携」についての調査を実施する。高齢者がん診療ガイドライン委員会のもと作成委員会を設置し、具体的なガイドライン作成に向けて検討を開始する。高齢者のがん医療を支える学問である老年腫瘍学テキストブックの作成を検討する。これまでの研究の方向性が、患者・家族、市民のニーズに合っているかを、公開で意見交換会を開催する。
結果と考察
高齢者がん診療指針策定に必要な情報を得るために文献検索を行い、エビデンスが限定的ななかでも総論に続いて臓器別の治療についてQ&Aの形でまとめて発刊することができた。現時点における治療に関する適切な情報を医療の現場に提供できたものと考える。モデル事業のプレフレイルな高齢大腸がん患者のマネジメントについて、診療に直結する5WGから臨床的提言を行った。なかでも非高齢者と異なるclinical outcomesの議論は重要である。高齢者では生存期間の延長だけではなく、健康寿命の延伸、残された余命とがん特異的な生存期間との検討、フレイル群が加齢とともに増加し、多くの課題が存在することが明らかとなった。外科委員会による高齢がん患者の外科診療に関する実態調査は令和2年10月に終了し、解析・論文作成中である。この成果をもとに次研究のプロトコールを作成中である。医療経済委員会は、治療の費用対効果を評価するにあたって調剤薬局と大学の薬学部、がん専門病院薬剤部が協力して外来化学療法を受ける患者を対象に実態調査のためのアプリを開発し、患者登録が開始された。また、高齢者のがん薬物療法について医療経済の視点から臨床的課題を立て、文献検索と臨床的提言を行った。医療と介護の連携についてのアンケート調査を実施した結果をまとめた。医療者側の介護保険制度の認知度・利用度は限定的であることが分かり、がん患者の診療において介護と医療の密接な連携は今後重要な課題であり、そのあり方について研究が必要と考えらえる。この3年間の研究事業を通し人材育成が図られたと判断し、彼らを中心に高齢者がん診療ガイドライン作成委員会を結成し、作成手順について議論を開始した。また、高齢者がん医療の基盤となる学問としての老年腫瘍学のテキストブックの作成も同時進行で着手した。
・全国がん患者団体連合会と協働で公開シンポジウム「高齢者のがん医療を考えよう」をWeb会議システムを利用し開催した。「高齢者がん医療Q&A」「プレフレイル高齢大腸がん患者のための臨床的提言」の概要を提示し、患者・家族一般市民の方たちと議論をした。患者・家族の考えや想いが本研究班で検討されたことを理解いただいた。ただ、多くの課題があることも指摘された。さらに、高齢者がん診療ガイドライン作成にあたっては、患者・家族が早期より参加できるよう希望があった。複数の調査研究や臨床研究が、班員や高齢者がん医療協議会委員から提案・開始されたことは、本班研究を通して‘高齢のがん患者’、とくに脆弱な患者のマネジメントという難題に取り組む研究者が育成されてきたことを示唆する。ガイドラインや制度ができてもそれを有効に実施でき、改訂できる人材が重要であり、大きな成果がえられたものと考える。日本ではまだ認知度が低い学問である老年腫瘍学の確立ならびにエビデンスの少ない領域での高齢者がん診療ガイドライン作成は極めてchallengingであるが、すでに超高齢社会に入った日本において遅きに失したとは言え、教育・研究・診療に不可欠のものであり、老年医学ならびに腫瘍学のエキスパートによる活発な議論と患者・一般人を巻き込んだコンセンサス形成が喫緊の課題として積極的に取り組まなければならない。
・全国がん患者団体連合会と協働で公開シンポジウム「高齢者のがん医療を考えよう」をWeb会議システムを利用し開催した。「高齢者がん医療Q&A」「プレフレイル高齢大腸がん患者のための臨床的提言」の概要を提示し、患者・家族一般市民の方たちと議論をした。患者・家族の考えや想いが本研究班で検討されたことを理解いただいた。ただ、多くの課題があることも指摘された。さらに、高齢者がん診療ガイドライン作成にあたっては、患者・家族が早期より参加できるよう希望があった。複数の調査研究や臨床研究が、班員や高齢者がん医療協議会委員から提案・開始されたことは、本班研究を通して‘高齢のがん患者’、とくに脆弱な患者のマネジメントという難題に取り組む研究者が育成されてきたことを示唆する。ガイドラインや制度ができてもそれを有効に実施でき、改訂できる人材が重要であり、大きな成果がえられたものと考える。日本ではまだ認知度が低い学問である老年腫瘍学の確立ならびにエビデンスの少ない領域での高齢者がん診療ガイドライン作成は極めてchallengingであるが、すでに超高齢社会に入った日本において遅きに失したとは言え、教育・研究・診療に不可欠のものであり、老年医学ならびに腫瘍学のエキスパートによる活発な議論と患者・一般人を巻き込んだコンセンサス形成が喫緊の課題として積極的に取り組まなければならない。
結論
日本のがん医療の教育・研究・診療の現状をまとめ、重要な臨床的課題を抽出し議論することができた。高齢者のがん診療指針策定の基盤整備ができた。
公開日・更新日
公開日
2021-06-02
更新日
-