双生児法による精神疾患の病態解明

文献情報

文献番号
200730007A
報告書区分
総括
研究課題名
双生児法による精神疾患の病態解明
課題番号
H17-こころ-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 老化・精神疾患研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 大木秀一(石川県立看護大学 健康科学講座)
  • 大野裕(慶應義塾大学医学部 保健管理センター)
  • 岡崎祐士(都立松沢病院)
  • 小澤寛樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 病態解析制御学講座 精神病態制御学)
  • 笠井清登(東京大学 医学部 精神神経科)
  • 齋藤治(国立精神・神経センター 武蔵病院)
  • 陣野吉広(琉球大学大学院 生命統御医科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、精神疾患に関して不一致な一卵性双生児に着目し、1)不一致を起こす環境因の解明、2)不一致に伴う中間表現型の同定、3)不一致を起こすゲノム要因の同定を行う。
研究方法
 本研究では、地域における双生児登録を創設すると共に、精神疾患不一致双生児データベースを構築し、脳画像解析研究グループ、分子細胞生物学研究グループと協力体制を築くことにより、最新の画像技術、分子生物学技術により、双生児間で精神疾患が不一致となる要因を解明する。なお、被験者に対して十分に研究内容について説明し、同意を得た上で研究を行う。これらの研究課題については、各施設で倫理審査により承認されている。
結果と考察
統合失調症に関して不一致な一卵性双生児間の遺伝子発現差異を探索した結果、既に統合失調症患者のリンパ球ないし培養リンパ芽球において低下が報告されている、SEPX1およびADXを見出した。これらの発現量変化は、統合失調症のバイオマーカーとなりうると考えられた。統合失調症不一致例4組を対象とした遺伝子コピー数変動では、4組中1組でコピー数変動がみられた。また、48組の近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)及び脳磁図(MEG)の結果では、NIRSによる前頭部酸素化ヘモグロビン変化曲線およびMEGで計測した聴覚皮質反応が一卵性で二卵性に比して大きいことを示した。19歳から26歳までの双生児1344名(672組)でQIDS-J日本語版を解析した結果、共通経路モデルより独立経路モデルの適合度が高いことが示された。本研究により、不一致双生児を用いた精神疾患研究の有効性が示された。NIRSによる酸素化ヘモグロビン変化は遺伝率が高く、統合失調症の中間表現型として利用可能と考えられた。NIRSは既に測定法の標準化が行われ多くの知見が蓄積しており、検査法としての採用が望まれる。
結論
精神疾患に関して不一致な一卵性双生児を研究することによる更なるバイオマーカーの検索、病因関連遺伝子の探索を行い、新たな知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2008-07-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200730007B
報告書区分
総合
研究課題名
双生児法による精神疾患の病態解明
課題番号
H17-こころ-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 老化・精神疾患研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 大木秀一(石川県立看護大学 健康科学講座)
  • 大野裕(慶應義塾大学医学部 保健管理センター)
  • 岡崎祐士(都立松沢病院)
  • 小澤寛樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 病態解析制御学講座 精神病態制御学)
  • 笠井清登(東京大学 医学部 精神神経科)
  • 斎藤治(国立精神・神経センター 武蔵病院)
  • 陣野吉広(琉球大学大学院 生命統御医科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、一方のみが精神疾患を発症した一卵性双生児不一致例の解析によって、精神疾患の病態および原因に関わる因子を探索することである。
研究方法
双生児登録は、石川県のコホート研究、首都圏の住民基本台帳に基づく双生児登録、および全国の大学病院精神科との連携による精神疾患不一致双生児登録である。脳画像解析研究には、近赤外線スペクトロスコピー、脳磁図、MRIを用いた。分子生物学的研究としては、ゲノム、DNAメチル化、および内因性レトロウイルスについて検討した。
結果と考察
脳画像研究では、PTSDと関連して前部帯状回体積が減少していることが見出された。また、気分障害において不一致なアスペルガー障害一致例において、気分障害に関連して扁桃体体積減少を見出した。また、近赤外スペクトロスコピーによる前頭葉賦活および脳磁図による聴覚皮質反応に、遺伝要因が関与していることが示された。双極性障害不一致双生児間で、PPIELのDNAメチル化差異を見出した。また、統合失調症不一致例2ペア間で、ADXおよびSEPX1の遺伝子発現差異を見出した。
結論
精神疾患に関して不一致な一卵性双生児を研究することによる更なるバイオマーカーの検索、病因関連遺伝子の探索を行い、新たな知見を得た。精神疾患に関して不一致な一卵性双生児を研究するという新たな方法が有効であることが示されると共に、今回見出された、あるいは既に報告され、今回関連が確認されたバイオマーカーの利用可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2008-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究から、精神疾患に関して不一致な一卵性双生児による研究の有効性が示されると共に、精神疾患に伴った脳形態差異(PTSDと前部帯状回の体積低下、気分障害と扁桃体体積減少の関連)、DNAメチル化差異(双極性障害に伴うPPIELの低メチル化)、および遺伝子発現の差異(統合失調症におけるADXおよびSEPX1の上昇)を同定することに成功した。これらの所見は、精神疾患の生物学的マーカーとなる可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
精神疾患に関して不一致な一卵性双生児における病態研究によって、双極性障害に伴うPPIELのDNAメチル化低下、統合失調症におけるADXおよびSPEX1の遺伝子発現増加、PTSDにおける前部帯状回体積低下などが見出された。これらは、今後バイオマーカーとしての利用が期待される。また、健常一卵性双生児の研究から、近赤外スペクトロスコピーにより測定した酸素化ヘモグロビン変化が高い遺伝率を持つことがわかった。
ガイドライン等の開発
本研究はガイドラインを開発するタイプの研究ではない。
その他行政的観点からの成果
医学における基礎研究の成果は、他グループによる追試や多数例での確認などを経て次第に科学的に妥当であるかどうかの評価が定着していくものであり、論文が掲載されてすぐに施策に反映されるような性質のものではない。
その他のインパクト
本研究の成果は、一般向けの講演会(都民講演会「躁うつ病(双極性障害)はここまでわかった」[早稲田大学国際会議場 東京井深大記念ホール、2007年2月4日(土)]、および理化学研究所和光研究所一般公開講演会「躁うつ病の謎に迫る」[2007年4月21日(土)])において発表した。また、本研究の成果は、新聞にも掲載された(2007年10月30日日刊工業新聞)。  

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kakiuchi C, Ishiwata M, Nanko S, et al.
Ozaki N, Iwata N, Umekage T, Tochigi M, Kohda K, Sasaki T, Imamura A, Okazaki Y, Kato T. Up-regulation of ADM and SEPX1 in the lymphoblastoid cells of patients in monozygotic twins discordant for schizophrenia.
Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet.  (2007)
原著論文2
Kuratomi G, Iwamoto K, Bundo M, et al.
Aberrant DNA methylation associated with bipolar disorder identified from discordant monozygotic twins.
Molecular Psychiatry , 13 (4) , 429-441  (2008)
原著論文3
Ooki S
Population-Based Database of Multiples in Childhood of Ishikawa Prefecture, Japan.
Twin Research and Human Genetics , 9 (6) , 832-837  (2006)
原著論文4
Shimabukuro M, Sasaki T, Imamura A, et al.
Global hypomethylation of peripheral leukocyte DNA in male patients with schizophrenia: a potential link between epigenetics and schizophrenia.
J Psychiatr Res , 41 , 1042-1046  (2007)
原著論文5
Yamasue H, Abe O, Suga M, et al.
Gender-common and -specific neuroanatomical basis of human anxiety-related personality traits.
Cereb Cortex , 18 (1) , 46-52  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23