新規癌胎児性抗原を利用した肝細胞癌の診断と治療

文献情報

文献番号
200728007A
報告書区分
総括
研究課題名
新規癌胎児性抗原を利用した肝細胞癌の診断と治療
課題番号
H17-肝炎-一般-012
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
木下 平(国立がんセンター東病院 上腹部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 古瀬 純司(国立がんセンター東病院 肝胆膵内科)
  • 中面 哲也(国立がんセンター東病院臨床開発センター がん治療開発部機能再生室)
  • 佐々木 裕(熊本大学大学院医学薬学研究部 消化器内科学分野 )
  • 千住 覚(熊本大学大学院医学薬学研究部 免疫識別学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
29,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝細胞癌に特異的に高発現する新規癌胎児性抗原であるGlypican-3 (GPC3) を用いた肝細胞癌の診断法およびGPC3を標的とするペプチドワクチンを用いた新しい肝細胞癌の治療法の開発を目的とする。
研究方法
1.進行肝細胞癌患者を対象としたGPC3を標的とするペプチドワクチンの臨床第1相試験の実施、2.慢性肝炎・肝硬変患者末梢血中におけるGPC3 特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の出現頻度の検討、3.肝細胞癌局所療法に付随する抗腫瘍免疫効果の検討、4.ヒト肝細胞癌におけるGPC3免疫染色の有用性の検討、5.癌免疫療法への応用を目指したヒトES細胞からの樹状細胞の作製、6.肝癌細胞における細胞死抵抗性の分子基盤の解明
結果と考察
1.臨床第1相試験では、ほとんどの症例でCTLの頻度の増加が見られ、免疫学的有効性が確認された。臨床効果も見出され、その効果には投与量依存性も示唆された。2.約20%の慢性肝炎・肝硬変患者の末梢血中にGPC3ペプチド特異的にIFN-γを産生するCTLの存在が認められ、そのGPC3ペプチド特異的CTL陽性患者血漿中に、陰性の患者血漿では低く、肝細胞癌患者血漿での発現レベルに近いピークを1種類見つけた。3.初回治療の肝細胞癌患者を対象とし、それぞれの治療前後における末梢血中のGPC3特異的CTLの推移を検討した。RFA治療や動脈塞栓術により腫瘍部位を壊死に陥らせることによって、GPC3を含めた腫瘍由来の様々な癌抗原に対する特異的免疫応答を誘導できる可能性が示唆された。4.免疫組織化学的解析により、肝臓癌における肝細胞癌成分と胆管細胞癌成分の鑑別に、GPC3の免疫染色が極めて有用であることが示された。5.ヒトES細胞およびiPS細胞から樹状細胞を分化誘導する培養プロトコルを開発した。
結論
1.GPC3を標的とするペプチドワクチンの安全性と免疫学的有効性が証明できた。次年度より第2相試験を実施する。2.慢性肝炎・肝硬変患者の約20%には、末梢血中にGPC3ペプチド特異的CTLや肝細胞癌特異的マーカー蛋白が検出されることが示唆された。3.RFA治療後に肝細胞癌特異抗原GPC3ペプチド特異的CTLの増加が観察された。4.HCCに対するGPC3免疫染色は、鑑別診断および予後予測に有用であることが示された。5.抗原提示機能を有するヒトES-DCの分化誘導技術の開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-01
更新日
-

文献情報

文献番号
200728007B
報告書区分
総合
研究課題名
新規癌胎児性抗原を利用した肝細胞癌の診断と治療
課題番号
H17-肝炎-一般-012
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
木下 平(国立がんセンター東病院 上腹部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 古瀬 純司(国立がんセンター東病院 肝胆膵内科)
  • 中面 哲也(国立がんセンター東病院臨床開発センター がん治療開発部機能再生室)
  • 佐々木 裕(熊本大学大学院医学薬学研究部 消化器内科学分野)
  • 千住 覚(熊本大学大学院医学薬学研究部 免疫識別学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は肝細胞癌に特異的に高発現する新規癌胎児性抗原として同定したGlypican-3(GPC3)を癌の診断と治療に利用することを目的とする。
研究方法
1.血清GPC3の測定により、肝細胞癌の診断確率を向上させる。また肝細胞癌の発生と再発の早期発見ならびに胆管細胞癌との鑑別が可能であるかについて検討する。2.マウスin vivo実験と患者リンパ球を用いたin vitro実験により開発したGPC3を標的とする免疫療法について、国立がんセンター東病院において第1相臨床試験を実施し、その安全性と免疫学的有効性を検証する。3.腫瘍抗原特異的T細胞応答を誘導できる樹状細胞をヒトES細胞より分化誘導する方法を確立する。ES細胞由来の樹状細胞(ES-DC)を利用して、抗腫瘍免疫を強力に誘導できる細胞ワクチンの開発を目指す。
結果と考察
17年度はマウスモデルでGPC3を標的とした養子免疫療法および樹状細胞ワクチンの有効性と安全性を証明した。さらにヒトキラーT細胞を誘導できるGPC3ペプチドを2種類同定し、これらを用いた肝細胞癌の臨床試験のプロトコールを作成した。またモデル腫瘍抗原を発現させたマウスES細胞より分化誘導したES-DCを用いて有効な腫瘍免疫を誘導することに成功した。18年度はマウスによる前臨床試験およびペプチドの安全性試験を実施し、19年2月から国立がんセンター東病院において進行肝細胞癌患者を対象としたGPC3由来ペプチドワクチンの臨床第1相試験を開始した。19年度の成果として、第1相試験において安全性に問題はなく、ほとんどの症例で末梢血中ペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の頻度の増加が検出され、免疫学的有効性が確認された。臨床効果も見られ、投与量依存性も示唆された。またES-DCの研究においてはヒトES細胞およびiPS細胞から樹状細胞を分化誘導する培養プロトコールを開発した。その他、(1)慢性肝炎・肝硬変患者の約20%に、末梢血中にGPC3ペプチド特異的CTLや肝細胞がん特異的マーカー蛋白が検出された、(2)RFA治療後に肝細胞がん特異抗原GPC3ペプチド特異的CTLの増加が観察された、(3)HCCに対するGPC3免疫染色は鑑別診断および予後予測に有用である、などの研究成果を得た。
結論
今後は本研究の成果を臨床第2相、第3相試験へと発展させ、新たな肝細胞癌の診断法、治療法の確立を目指す。

公開日・更新日

公開日
2008-04-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200728007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
自ら同定した肝細胞癌に特異的に高発現する新規癌胎児性抗原Glypican-3 (GPC3) を標的とした免疫療法の開発に向けて、GPC3由来HLA-A2および-A24拘束性ヒトキラーT細胞エピトープペプチドを同定し、マウスモデルでGPC3を標的とした免疫療法の安全性と有効性を証明した。成果は「Clinical Cancer Research」 や「Cancer Research」 等の雑誌に掲載され、国内外から評価された。
臨床的観点からの成果
肝細胞癌では根治的治療後においても他部位再発が高率に認められ、進行癌では根治は難しく、既存の治療法では制御が難しい。肝細胞癌の予後改善のため、負担の少ない有効な治療法の開発が必要であり、国立がんセンター倫理審査委員会の承認を受け、国立がんセンター東病院でGPC3を標的としたペプチドワクチンを用いた新しい治療法の臨床第1相試験を実施した。安全性と免疫学的有効性を証明し、一定の臨床効果も見出した。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
肝細胞癌患者の予後改善のために負担の少ない有効な治療法を開発していくだけでなく、今後、本研究成果を新しい肝細胞癌の超早期発見法、発症予防ならびに再発予防法や治療法の開発へとつなげていくことで、我が国に350万人存在するともいわれている肝炎ウイルスキャリアの救済も目指す。
その他のインパクト
GPC3由来HLA-A2および-A24拘束性ヒトキラーT細胞エピトープペプチドの特許はそれぞれ出願済みであり、各国移行の段階である。
国立がんセンター東病院臨床開発センター先端医療開発室のホームページや、市民公開講座、国立がんセンター東病院・臨床開発センターのオープンキャンパス等を通じて、一般国民へも情報を発信していく。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
27件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
57件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Motomura, Y., Ikuta, Y., Kuronuma, T., et al.
HLA-A2 and -A24- restricted Glypican-3-derived peptide vaccine can induce Specific CTLs in preclinical study using mice.
Int. J. Oncol.  (2008)
原著論文2
Senju, S., Suemori, H., Zembutsu, H., et al.
Genetically manipulated human embryonic stem cell-derived dendritic cells with immune regulatory function.
Stem Cells , 25 , 2720-2729  (2007)
原著論文3
Ueno, H., Sato, T., Yamamoto, S., et al.
Randomized, double-blind, placebo-controlled trial of bovine lactoferrin in patients with chronic hepatitis C.
Cancer Sci. , 97 (10) , 1105-1110  (2006)
原著論文4
Komori, H., Nakatsura, T., Senju, S., et al.
Identification of HLA-A2- or HLA-A24- restricted CTL epitopes possibly useful for glypican-3-specific immunotherapy of hepatocellular carcinoma.
Clin. Cancer Res. , 12 , 2689-2697  (2006)
原著論文5
Motomura, Y., Senju, S., Nakatsura, T., et al.
Embryonic stem cell-derived dendritic cells expressing Glypican-3, a recently identified oncofetal antigen, induce protective immunity against highly metastatic mouse melanoma, B16-F10.
Cancer Res. , 66 , 2414-2422  (2006)
原著論文6
Fukuma, D., Matsuyoshi, H., Hirata, S., et al.
Anti-cancer immunotherapy with semi-allogeneic embryonic stem cell-derived dendritic cells genetically engineered to express a model tumor antigen.
Biochem. Biophys. Res. Comm. , 335 , 5-13  (2005)
原著論文7
Matsuyoshi, H., Hirata, S., Yoshitake, Y., et al.
Therapeutic effect of α-galactosylceramide-loaded dendritic cells genetically engineered to express SLC/CCL21 along with tumor antigen against peritoneally disseminated tumor cells.
Cancer Sci. , 96 , 889-896  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-