切除不能Ⅲ期非小細胞肺がんに対する標準的治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200721009A
報告書区分
総括
研究課題名
切除不能Ⅲ期非小細胞肺がんに対する標準的治療法の確立に関する研究
課題番号
H17-がん臨床-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
福岡 正博(近畿大学医学部堺病院)
研究分担者(所属機関)
-
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
17,595,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200721009B
報告書区分
総合
研究課題名
切除不能Ⅲ期非小細胞肺がんに対する標準的治療法の確立に関する研究
課題番号
H17-がん臨床-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
福岡 正博(近畿大学医学部堺病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大江 裕一郎(国立がんセンター中央病院 腫瘍内科・呼吸器内科)
  • 西條 長宏(国立がんセンター東病院)
  • 西脇 裕(国立がんセンター東病院 呼吸器内科)
  • 中川 和彦(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門)
  • 加藤 治文(東京医科大学外科学第一講座)
  • 森 清志(栃木県立がんセンター 呼吸器内科)
  • 岡本 浩明(横浜市立市民病院 呼吸器内科)
  • 野田 和正(神奈川県立がんセンター 呼吸器内科)
  • 横山 晶(新潟県立がんセンター)
  • 樋田 豊明(愛知県立がんセンター 呼吸器内科)
  • 西村 恭昌(近畿大学医学部放射線医学教室)
  • 根来 俊一(兵庫県立がんセンター 呼吸器内科・腫瘍内科)
  • 武田 晃司(大阪市立総合医療センター 腫瘍内科)
  • 山本 信之(静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科)
  • 早川 和重(北里大学医学部放射線科学)
  • 河原 正明(独立行政法人大阪府病院機構近畿中央胸部疾患センター 腫瘍内科)
  • 松井 薫(地方独立行政法人大阪府病院機構大阪府立呼吸器・アレルギーセンター 肺腫瘍内科)
  • 今村 文生(大阪府立成人病センター 呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、NSCLCの約30%を占める切除不能限局型Ⅲ期NSCLCの治療成績向上を目的とし、化学療法、胸部放射線治療(TRT)に分子標的薬のゲフィチニブを組み込んだ新しい治療法を考案し、その安全性と有効性を検討することとした。
研究方法
対象症例を臨床病期Ⅲ期、70歳以下、未治療の肺腺癌で非喫煙ないし喫煙係数400以下あるいは10年以上禁煙している患者とした。治療方法は、シスプラチン80mg/m2 Day 1、ビノレルビン 20 mg/m2 Day 1, 8の併用化学療法を3週毎に2サイクル投与後にゲフィチニブ250 mg/dayと胸部放射線照射(TRT)2 Gy1日1回を計60 Gy併用した。TRTの照射範囲はV20≦30%とし、Grade2以上の肺臓炎を認めずに治療完遂できることを主要評価項目とし37例集積することとした。
結果と考察
平成20年2月28日までに32例が集積され、現時点ではGrade2以上の肺臓炎で中止した症例はなく、完遂可能な治療法と思われる。現時点での予測生存期間中央値は535日、2年生存率は49.5%で有望な治療法と思われる。肺臓炎は重喫煙者、扁平上皮癌、既存の肺病変のある症例で多く、また、ゲフィチニブが腺癌、非喫煙者、女性、東洋人において有効性が高いことも示され、選択基準を有効性が予測される患者に限定した。東洋人の腺癌にEGFRの変異例が多いこと、ISEL試験のサブセット解析において東洋人で有意な延命効果が見られたことから本試験を継続することとした。現時点では、本試験で治療された症例で重篤な肺毒性は出現していない。近年、EGFRのヒト化抗体やVEGFをターゲットとした薬剤が出現しており、これらを組み入れた方法が推奨される。
結論
本研究に用いた併用化学療法後にゲフィチニブとTRTを併用する治療法は、現時点で重篤な肺障害は見られていない。シスプラチンとビノレルビンの併用化学療法の後にゲフィチニブとTRTを併用する方法は実施可能な方法と思われる。しかし、非喫煙者(あるいは軽度喫煙歴の患者)、腺癌のⅢ期で70歳以下の症例は極めて少なく、今回の症例集積からも標準治療を目指した第Ⅲ相試験を実施することは困難と考えた。したがって、切除不能限局型NSCLCの新しい治療法としては、他の分子標的薬、あるいは新しい殺細胞性抗がん剤を含めた治療法を考えるべきと結論した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200721009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
分子標的薬ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ阻害剤で非小細胞肺癌のなかで腺癌、非喫煙者、東洋人に有効性が高いことが明らかにされている。この薬剤を腺癌、非喫煙者ないし軽度喫煙者と云う選択された患者を対象にして化学放射線治療に組み入れ、その安全性、有効性が示されれば、肺癌の個別化治療につながる研究となる。その点において本研究はがんの個別化治療の開発研究として学術的価値は高いと思われる。
臨床的観点からの成果
切除不能3期非小細胞肺癌の標準治療は化学療法と放射線治療の併用でその5年生存率は15%程度である。この化学放射線治療にゲフィチニブを併用することによって治療成績の向上を図ることができれば臨床的意義は極めて高い。本研究は、腺癌、非喫煙ないし軽度喫煙の切除不能3期非小細胞肺癌を対象として併用化学療法の後に放射線治療とゲフィチニブを併用するもので、その安全性が確認され、推定生存期間中央値17.5ヶ月、2年生存率49.5%の成果が得られ有望な治療法と考えた。
ガイドライン等の開発
現在の肺癌診療ガイドラインでは、切除不能3期非小細胞肺癌の標準治療はシスプラチンを含む化学療法と胸部放射線治療の併用治療とされている。今回の研究において化学療法の後にゲフィチニブと放射線治療を行う治療法の安全性と有効性が認められれば、切除不能3期非小細胞肺癌の中で腺癌、非喫煙ないし軽度喫煙の患者においては、この治療法が標準治療となり、診療ガイドラインを改訂することになる。
その他行政的観点からの成果
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、急性肺障害(ILD)の発症があり薬剤開発に関連して社会的問題ともなった。今回の研究において放射線治療とゲフィチニブの併用の安全性および有効性が示されれば、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を含む分子標的薬と放射線治療の併用が新しい治療戦略として認められることになり、肺癌だけでなく多くのがん種における分子標的薬の開発に有用な情報となる。その意味において行政的観点からの意義も大きいと思われる。
その他のインパクト
ゲフィチニブには市販後からILDによる死亡例が出現しマスコミ等で大きく取り上げられた。その後、非小細胞肺癌の中でも腺癌、非喫煙者に有効であることが示され、その有効性が危険性を上回ると考えられている。また、肺癌関連の公開シンポジウムなどではゲフィチニブが肺癌に有効な分子標的薬として紹介されている。本研究において放射線治療とゲフィチニブの併用の安全性と有効性が示されれば大きな社会的インパクトをもつことになると思われる。

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
185件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
11件
学会発表(国内学会)
106件
他、多数
学会発表(国際学会等)
33件
他、多数
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishikura S, Ohe Y, Nihei K, et al.
A phase II study of hyperfractionated accelerated radiotherapy (HART) after induction cisplatin (CDDP) and vinorelbine (VNR) for stage III Non-small-cell lung cancer (NSCLC). 
Int J Radiat Oncol Biol Phys , 61 , 1117-1122  (2005)
原著論文2
Takano T, Ohe Y, Sakamoto H,et al.
Epidermal Growth Factor Receptor Gene Mutations and Increased Copy Numbers Predict Gefitinib Sensitivity in Patients with Recurrent Non-Small-Cell Lung Cancer.
J Clin Oncol , 23 , 6829-6837  (2005)
原著論文3
Ohe, Y., Negoro, S., Matsui, K. et al.
Phase I-II study of amrubicin and cisplatin in previously untreated patients with extensive-stage small-cell lung cancer.
Ann Oncol , 16 (3) , 430-436  (2005)
原著論文4
Tamura, K. Fukuoka, M.
Gfitinib in non-small cell lung cancer.
Expert Opin Pharmacother , 6 (6) , 985-993  (2005)
原著論文5
Tsuboi M, Kato H, Nagai K. et al.
Gefitinib in the adjuvant setting: safety results from a phase III study in patients with completely resected non-small cell lung cancer.
Anticancer Drugs , 16 (10) , 1123-1128  (2005)
原著論文6
Saito H, Takada Y, Ichinose Y, et al.
Phase II Study of Etoposide and Cisplatin With Concurrent Twice-Daily Thoracic Radiotherapy Followed by Irinotecan and Cisplatin in Patients With   Limited-Disease Small-Cell Lung Cancer: West Japan Thoracic Oncology Group 9902.
J Clin Oncol. , 24 (33) , 5247-5252  (2006)
原著論文7
Ando M, Okamoto I, Yamamoto N. et al.
Predictive factors for interstitial lung disease, antitumor response, and survival in non-small-cell lung cancer patients treated with gefitinib.
J Clin Oncol. , 24 (16) , 2549-2556  (2006)
原著論文8
Kurata T., Matsuo K., Takada M. et al.
Is the Importance of Achieving Stable Disease Different between Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitors and Cytotoxic Agents in the Second-Line Setting for Advanced Non-small Cell Lung Cancer?
Journal of Thoracic Oncology , 1 , 684-691  (2006)
原著論文9
Kudoh S, Takeda K, Nakagawa K et al.
Phase III study of docetaxel compared with vinorelbine in elderly patients with   advanced non-small-cell lung cancer: results of the West Japan Thoracic Oncology Group Trial (WJTOG 9904).
J Clin Oncol , 24 , 3657-3663  (2006)
原著論文10
Okamoto, I., Araki, J., Suto, R. et al.
EGFR mutation in gefitinib-responsive small-cell lung cancer.
Ann Oncol , 17 , 1028-1029  (2006)
原著論文11
Yamamoto N., Nishimura Y., Nakagawa K.et al.
Phase I/II study of weekly docetaxel dose escalation in combination with fixed weekly cisplatin and concurrent thoracic radiotherapy in locally advanced non-small cell lung cancer.
Cancer Chemother Pharmacol. , 58 (3) , 285-291  (2006)
原著論文12
原田英博、新明裕子、大江裕一郎
III期非小細胞肺がんの放射線化学療法
呼吸器科 , 9 , 93-100  (2006)
原著論文13
大江裕一郎
局所進行非小細胞肺がん治療におけるチロシン・キナーゼEGFR阻害薬:胸部放射線治療との併用療法
肺癌 , 46 , 261-265  (2006)
原著論文14
Okano T, Kondo T, Fujii K, et al.
Proteomic Signature Corresponding to the Response to Gefitinib (Iressa, ZD1839), an Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor in Lung Adenocarcinoma
Clin Cancer Res , 13 , 799-805  (2007)
原著論文15
Takano T, Ohe Y, Tsuta K, et al.
Epidermal growth factor receptor mutation detection using high-resolution melting analysis predicts outcomes in patients with advanced non small cell lung cancer treated with gefitinib.
Clin Cancer Res , 13 , 5385-5390  (2007)
原著論文16
Ohe Y., Ohashi Y., Kubota K.,et al.
Randomized phase III study of cisplatin plus irinotecan versus carboplatin plus paclitaxel, cisplatin plus gemcitabine, and cisplatin plus vinorelbine   for advanced non-small-cell lung cancer: Four-Arm Cooperative Study in Japan.
Ann. Oncol. , 18 (2) , 317-323  (2007)
原著論文17
Okabe T, Okamoto I, Tamura K,et al.
Differential constitutive activation of the epidermal growth factor receptor in non-small cell lung cancer cells bearing EGFR gene mutation and amplification.
Cancer Res. , 67 (5) , 2046-2053  (2007)
原著論文18
Nishimura Y,Nakagawa K,Takeda et al.
Phase I/II Trial of Sequential Chemoradiotherapy Using a Novel Hypoxic Cell Radiosensitizer, Doranidazole (Pr-350), in Patients with Locally Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer (Wjtog-0002).
Int J Radiat Oncol Biol Phys , 69 (3) , 786-792  (2007)
原著論文19
引野幸司、大江裕一郎
切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する分子標的治療の現状 胸部放射線療法との併用.
最新医学 , 63 , 69-73  (2008)
原著論文20
Akashi Y, Okamoto I, Iwasa T, et al.
Enhancement of the antitumor activity of ionising radiation by nimotuzumab, a humanised monoclonal antibody to the epidermal growth factor receptor, in non-small cell lung cancer cell lines of differing epidermal growth factor receptor status.
Br J Cancer. , 98 (4) , 749-755  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-25
更新日
-