アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子治療法の開発研究

文献情報

文献番号
200707018A
報告書区分
総括
研究課題名
アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子治療法の開発研究
課題番号
H17-遺伝子-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 水上 浩明(自治医科大学医学部)
  • 竹内 隆正(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
37,664,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子導入法について、以下の研究を実施した。1)バキュロウイルスを利用するAAVベクター作製法の開発を進めた。AAVベクターを用いた遺伝子治療法の開発を推進した。免疫と遺伝子導入・遺伝子発現に関する検討を行った。2)AAVの特徴を利用した第19番染色体部位(AAVS1)特異的遺伝子組込み法の開発を推進した。3)AAVS1内のinsulator領域を搭載したAAVベクターを開発した。
研究方法
1)AAVカプシドのVP1量を増やしたベクター作製法を検討した。モノクロタリン誘発性肺高血圧ラットを用い、AAV1ベクター筋注法によるIL-10およびプロスタサイクリン合成酵素の体内発現を行った。中和抗体価の遺伝子導入効率への影響をサルの系で検討した。導入遺伝子産物に対する免疫反応について、免疫抑制剤の効果を検討した。2)治療遺伝子をAAVS1領域へ組み込ませた細胞株について、遺伝子発現持続期間を調べた。3)AAVS1 insulator搭載AAVベクターをマウス骨格筋に筋注して効果を調べた。
結果と考察
1)VP1量を増やすと遺伝子発現が増強した。遺伝子治療モデル実験では、肺動脈リモデリング抑制効果と延命効果が確認され、血清脂質と血圧の調節機構におけるIL-10の作用機序に関する解析が進んだ。AAV8ベクターに関して、中和抗体陰性のサルで高い遺伝子発現が得られ、抗体弱陽性個体では発現が検出されなかった。免疫抑制剤で導入遺伝子産物に対する免疫反応を抑えることができた。2)AAVS1領域に遺伝子を組み込ませても遺伝子発現持続期間は延長しなかった。この領域のinsulatorが破壊され、サイレンシングの原因と考えられた。3)AAVS1 insulatorにより、遺伝子発現レベルが24週間にわたり継続して増強された。
結論
1)AAVベクター作製法を改良した。IL-10発現AAVベクターが肺高血圧症の治療に有効であることが示唆された。効率の良い治療遺伝子の発現を得るには免疫に対する対策が肝要と考えられた。2)AAVS1領域に遺伝子を組み込ませても遺伝子発現が長期持続しないことが判明し、その対策が必要である。3)AAVS1 insulatorをAAVベクターに搭載することにより、マウス骨格筋での遺伝子発現が増強された。

公開日・更新日

公開日
2008-04-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200707018B
報告書区分
総合
研究課題名
アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子治療法の開発研究
課題番号
H17-遺伝子-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 水上 浩明(自治医科大学医学部)
  • 竹内 隆正(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子導入法について、以下の研究を実施した。1)バキュロウイルスを利用するAAVベクター作製法の開発を進めた。AAVベクターを用いた遺伝子治療法の開発を推進した。免疫と遺伝子導入・遺伝子発現に関する検討を行った。2)AAVの特徴を利用した第19番染色体部位(AAVS1)特異的遺伝子組込み法の開発を推進した。3)AAVS1内のinsulator領域の解析と応用実験を行った。
研究方法
1,8型カプシド発現組換えバキュロウイルスを用いてAAVベクターを作製した。高血圧症・高脂血症・動脈硬化症・肺高血圧症などに対する遺伝子治療法を検討した。免疫反応の評価に向けて様々なアッセイ系を確立し、中和抗体価の遺伝子導入効率への影響をサルの系で検討した。導入遺伝子産物に対する免疫反応について、免疫抑制剤の効果を検討した。2)治療遺伝子をAAVS1領域へ組み込ませた間葉系幹細胞株の解析を行った。3)AAVS1内部のinsulator機能解析、ならびにAAVS1 insulator搭載AAVベクターによる骨格筋への遺伝子導入実験を行った。
結果と考察
1)1,8型AAVベクターの新規作製法を確立した。脳卒中易発症高血圧ラット・ダール食塩感受性ラット・モノクロタリン誘発性肺高血圧症ラットを用い、IL-10発現AAV1ベクターの筋注により治療効果が得られた。AAV8ベクターに関して、中和抗体陰性のサルで高い遺伝子発現が得られ、抗体弱陽性個体では発現が検出されなかった。免疫抑制剤で導入遺伝子産物に対する免疫反応を抑えることができた。2)AAVS1領域に遺伝子を組み込ませても遺伝子発現持続期間は延長しなかった。この領域のinsulatorの破壊が原因と考えられた。3)AAVS1 insulatorにより、遺伝子発現レベルが24週間にわたり継続して増強された。
結論
1)AAVベクター作製法を改良した。様々な生活習慣病に対してIL-10発現AAVベクターが有効であることが示唆された。遺伝子治療では免疫に対する対策が肝要と考えられた。2)AAVS1領域に遺伝子を組み込ませても遺伝子発現が長期持続しないことが判明し、その対策が必要である。3)AAVS1 insulatorをAAVベクターに搭載することにより、マウス骨格筋での遺伝子発現が増強された。

公開日・更新日

公開日
2008-04-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)安全性の観点から期待されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する基盤技術の開発を進めた。ベクター作製法では、バキュロウイルスを利用する方法を改良した。AAVベクターを用いた遺伝子治療法については、高血圧症・高脂血症・動脈硬化症・肺動脈性肺高血圧症などを対象とし、疾患モデル動物で有効性を確認した。2)AAVの特徴を利用した第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法の開発を進めた。3)AAVS1内部のインスレーター領域を搭載したAAVベクターを作製したところ、遺伝子発現レベルの増強を認めた。
臨床的観点からの成果
遺伝子治療臨床開発の世界的状況をみると、AAVベクターを用いた場合でも免疫反応が大きな問題となっており、その実態の解明と対策に関する研究をサルや小動物を用いて推進した。遺伝子導入前のベクターキャプシドに対する中和抗体については、検出感度の向上を図り、低力価の中和抗体でも遺伝子導入効率を著しく阻害することを見出した。また、導入遺伝子産物に対する免疫反応については、免疫抑制剤が有効であることを示した。尚、骨格筋を標的とする場合は、肝臓の場合に比べてより長期間の免疫抑制が必要と考えられる結果を得た。
ガイドライン等の開発
AAVベクターを用いた遺伝子治療の臨床応用を今後推進していく上で、至適血清型に関するガイドラインが必要になると考えられるが、その基礎データを蓄積することができた。
その他行政的観点からの成果
遺伝子治療に関しては、ウイルスベクターの副作用(代表例:レトロウイルスベクターを用いた場合の、挿入変異を契機とした白血病の発生)に対する懸念から臨床応用を目指した研究が停滞している。本研究は、安全性の高いAAVベクターを用いる遺伝子治療法の開発に取り組むことにより、打開を図ろうとしたものである。部位特異的遺伝子組込み法の開発も、幹細胞レベルをターゲットとした遺伝子治療の安全性を高めることを目的としており、行政的観点からも重要である。
その他のインパクト
疾患モデル動物でのIL-10発現AAVベクターを用いた遺伝子治療実験から、高脂血症や高血圧に対するIL-10の作用機序の解析を進めることができた。得られた知見は、治療の分子標的の探索など、創薬を進める上で役に立つものと考えられる。また、AAVS1内部のインスレーター配列のところに、導入遺伝子の発現レベルを高める作用があることは予想されなかった新知見であり、今後の解析が注目される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
39件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nonaka-Sarukawa, M., Okada, T., Ito, T., et al.
Adeno-associated virus vector-mediated systemic interleukin-10 expression ameliorates hypertensive organ damage in Dahl salt-sensitive rats.
J. Gene Med. , 10 (4) , 368-374  (2008)
原著論文2
Takei, Y., Saga, Y., Mizukami, H., et al.
Overexpression of PTEN in ovarian cancer cells suppresses i.p. dissemination and extends survival in mice.
Mol. Cancer. Ther. , 7 (3) , 704-711  (2008)
原著論文3
Liu, Y., Okada, T., Shimazaki, K.,et al.
Protection against aminoglycoside-induced ototoxicity by regulated AAV vector-mediated GDNF gene transfer into the cochlea.
Mol. Ther. , 16 (3) , 474-480  (2008)
原著論文4
Ito, T., Okada, T., Miyashita, H., et al.
Interleukin-10 expression mediated by an adeno-associated virus vector prevents monocrotaline-induced pulmonary arterial hypertension in rats.
Circ. Res. , 101 (7) , 734-741  (2007)
原著論文5
Ito, T., Okada, T., Mimuro, J., et al.
Adeno-associated virus-mediated prostacyclin synthase expression prevents pulmonary arterial hypertension in rats.
Hypertension , 50 (3) , 531-536  (2007)
原著論文6
Liu, Y., Okada, T., Nomoto, T.,et al.
Promoter effects of adeno-associated viral vector for transgene expression in the cochlea in vivo.
Exp. Mol. Med. , 39 (2) , 170-175  (2007)
原著論文7
Ideno, J., Mizukami, H., Kakehashi, A., et al.
Prevention of diabetic retinopathy by intraocular soluble flt-1 gene transfer in a spontaneously diabetic rat model.
Int. J. Mol. Med. , 19 (1) , 75-79  (2007)
原著論文8
Takei, Y., Mizukami, H., Saga, Y.,et al.
Suppression of ovarian cancer by muscle-mediated expression of soluble VEGFR-1/Flt-1 using adeno-associated virus serotype 1-derived vector.
Int. J. Cancer , 120 (2) , 278-284  (2007)
原著論文9
Sato, K., Ozaki, K., Oh, I., et al.
Nitric oxide plays a critical role in suppression of T cell proliferation by mesenchymal stem cells.
Blood , 109 (1) , 228-234  (2007)
原著論文10
Mizukami, H., Mimuro, J., Ogura, T., et al.
Adipose tissue as a novel target for in vivo gene transfer by using adeno-associated virus vectors.
Hum. Gene Ther. , 17 (9) , 921-928  (2006)
原著論文11
Ogura, T., Mizukami, H., Mimuro, J.,et al.
Utility of intraperitoneal administration as a route of AAV serotype 5 vector-mediated neonatal gene transfer.
J. Gene Med. , 8 (8) , 990-997  (2006)
原著論文12
Urabe, M., Xin, KQ., Obara, Y., et al.
Removal of empty capsids from type 1 adeno-associated virus vector stocks by anion-exchange chromatography potentiates transgene expression.
Mol. Ther. , 13 (4) , 823-828  (2006)
原著論文13
Ishiwata, A., Mimuro, J., Kashiwakura, Y., et al.
Phenotype correction of hemophilia A mice with adeno-associated virus vectors carrying the B domain-deleted canine factor VIII gene.
Thromb. Res. , 118 (5) , 627-635  (2006)
原著論文14
Ohmori, T., Mimuro, J., Takano, K., et al.
Efficient expression of a transgene in platelets using simian immunodeficiency virus-based vector harboring glycoprotein Iba promoter: in vivo model for platelet-targeting gene therapy.
FASEB J. , 20 (9) , 769-779  (2006)
原著論文15
Machida, Y., Okada, T., Kurosawa, M., et al.
rAAV-mediated shRNA ameliorated neuropathology in Huntington disease model mouse.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 343 (1) , 190-197  (2006)
原著論文16
Okada, T., Uchibori, R., Iwata-Okada, M., et al.
A histone deacetylase inhibitor enhances recombinant adeno-associated virus-mediated gene expression in tumor cells.
Mol. Ther. , 13 (4) , 738-746  (2006)
原著論文17
Urabe, M., Nakakura, T., Xin, KQ., et al.
Scalable generation of high-titer recombinant adeno-associated virus type 5 in insect cells
J Virol , 80 (4) , 1874-1885  (2006)
原著論文18
Okada, T., Nomoto, T., Yoshioka, T., et al.
Large-scale production of recombinant viruses by use of a large culture vessel with active gassing.
Hum Gene Ther , 16 (10) , 1212-1218  (2005)
原著論文19
Liu, Y., Okada, T., Sheykholeslami, K., et al.
Specific and efficient transduction of cochlear inner hair cells with recombinant adeno-associated virus type 3 vector.
Mol Ther , 12 (4) , 725-733  (2005)
原著論文20
Mori,S., Takeuchi, T., Enomoto,Y., et al.
Biodistribution of a low dose of intravenously administered AAV-2, 10, and 11 vectors in cynomolgus monkeys.
Jpn. J. Infect. Dis. , 59 (5) , 285-293  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-