ゲノム情報を活用した薬物トランスポータ発現量予測システムの構築とテーラーメイド薬物療法への応用

文献情報

文献番号
200707012A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報を活用した薬物トランスポータ発現量予測システムの構築とテーラーメイド薬物療法への応用
課題番号
H17-ファーマコ-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
乾 賢一(京都大学医学部附属病院 薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 山岡 義生(財団法人田附興風会医学研究所 北野病院)
  • 小川 修(京都大学医学部附属病院 器官外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
36,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、薬物トランスポータ発現量の個体差が、臨床効果の変動因子として重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。しかし、種々薬物トランスポータの発現制御機構並びに発現量の個体差を規定する因子については不明の点が多い。本研究では、ゲノム情報など薬物トランスポータの発現量を予測できる因子を探索し、テーラーメイド薬物療法へ応用することを目的とする。
研究方法
肝薬物トランスポータ発現量解析(N=109)と発現量に影響を及ぼす因子を探索した。また、昨年度遺伝子単離に成功したH+/有機カチオンアンチポータ(MATE1及びMATE2-K)のcSNP解析と機能解析をさらに進めた。また得られた情報を基に、糖尿病治療薬メトホルミンのpharmacogenomics解析を実施した。
結果と考察
肝薬物トランスポータの発現解析の結果、SLCトランスポータでは、OATP2B1、OCT1が、またABCトランスポータでは、MDR1、MRP2の発現が高かった。rSNP解析の結果、OATP2B1 mRNA発現量に影響を及ぼす新たなrSNP(-282A>G)を同定した。さらに、ウイルス感染かつ肝硬変群においてOCT1等の6種類の薬物トランスポータの発現量が低下し、MRP4等の3種類が上昇することを発見した。また、OCT2の腎特異的な発現には、E-boxを含む近位プロモーター領域のメチル化が寄与していることを明らかにした。MATEのcSNP解析の結果、輸送活性が有意に低下するcSNPをMATE1で5種類、MATE2-Kで2種類同定した。さらに、ヒトのOCT/MATE1のdouble transfectantsを作製し、カチオン性薬物の経細胞輸送評価系を新たに構築し,その有用性を示した。メトホルミンの消失半減期の短い患者では、OCT2遺伝子のイントロン1-3にSNPsが高頻度に認められた。
結論
OATP2B1 -282A>Gに代表されるrSNPや、CpGメチル化、肝炎ウイルス感染など、薬物トランスポータの発現量に及ぼす因子を同定した。さらに、新規トランスポータであるH+/有機カチオンアンチポータ(MATEs)の基盤情報を整備し、糖尿病治療薬メトホルミンの体内動態に影響を及ぼす可能性のあるiSNPを見出した。これらの情報が、薬物トランスポータのゲノム情報を利用したテーラーメイド薬物療法の実現に大きく寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200707012B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム情報を活用した薬物トランスポータ発現量予測システムの構築とテーラーメイド薬物療法への応用
課題番号
H17-ファーマコ-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
乾 賢一(京都大学医学部附属病院 薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 山岡 義生(財団法人田附興風会医学研究所 北野病院)
  • 小川 修(京都大学医学部附属病院 器官外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、薬物トランスポータ発現量の個体差が、臨床効果の重要な変動因子であることが解明されつつある。しかし、発現制御機構や発現量の個体差を規定する因子については不明である。本研究では、薬物トランスポータの発現量を予測できる因子を探索し、テーラーメイド薬物療法へ応用することを目的とする。
研究方法
1)発現制御機構の系統的解析 消化管(N=124)、腎臓(N=109)、肝臓(N=109)での、種々薬物トランスポータの発現プロファイルを作成した。また主要薬物トランスポータの転写機構を調べた。2)MATEのcDNAクローニング ヒトMATE1及び2-KのcDNAを単離し、分子特性を調べた。3)発現量に影響を及ぼす因子の探索 腎臓(6種類)と肝臓(7種類)の薬物トランスポータのrSNP解析を行った。また薬物トランスポータの発現に及ぼす肝炎ウイルス感染や肝硬変の影響について調べた。4)メトホルミンのpharmacogenomics解析 糖尿病治療薬メトホルミンの消失半減期とOCT2、MATE1、MATE2-Kの遺伝子多型との関連を調べた。
結果と考察
1)消化管/20種類、腎臓/22種類、肝臓/22種類の薬物トランスポータの発現プロファイルを作成した。主要な薬物トランスポータ(7種類)の転写調節機構を初めて明らかにした。2)長年分子実体の不明であったH+/有機カチオンアンチポータ(MATE1及びMATE2-K)を単離し、機能特性、転写制御機構、遺伝子多型など基本情報を整備した。さらに、MATEがプラチナ系抗がん剤の腎毒性の規定因子であることを発見した。3)薬物トランスポータの発現に影響を及ぼす新規rSNPを3種類見出した。またOCT2の腎特異的な発現には、エピジェネティックな制御が関与していることを実証した。さらに、ウイルス感染や肝硬変の有無がトランスポータ発現量に影響を及ぼすことを発見した。4)メトホルミンの消失半減期の短い患者では、OCT2遺伝子のイントロン1-3にSNPsが高頻度に認められた。
結論
本研究では、小腸、腎臓、肝臓など主要臓器における薬物トランスポータの発現プロファイルの作成、転写制御機構の解明、rSNPの同定、H+/有機カチオンアンチポータ(MATE)の遺伝子単離、発現量に影響を及ぼす因子を同定し、テーラーメイド薬物療法を実施するための薬物トランスポータの分子・ゲノム情報を体系的に整備した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで薬物トランスポータ研究は、薬物の膜輸送現象の解明に重点がおかれ、発現制御機構に関する報告は乏しかった。本研究において、種々薬物トランスポータの発現プロファイル、転写機構、エピジェネティックな制御、rSNP解析など、発現制御に関する情報を系統的に整備できたことは、今後生理学、薬物動態学、毒性学など多くの研究分野に有用な情報を提供すると考えられる。また、H+/有機カチオンアチンポータの分子同定とゲノム情報の集積も、国際的に貴重な研究成果と評価されている。
臨床的観点からの成果
薬物トランスポータは抗がん剤、免疫抑制剤、糖尿病治療薬など、多くのハイリスク医薬品の体内動態を制御している。これらの医薬品の一部は、薬物血中濃度モニタリングを通して薬物治療が実施されているが、多くの場合は臨床経過を見ながら薬物投与されている。本研究において、薬物トランスポータの発現に及ぼす遺伝子多型などを同定できたため、今後はこれらの情報が薬物投与設計の際の新たな指標になりうると考えられる。また抗がん剤シスプラチンの腎毒性発現メカニズムの解明は、新たな支持療法の開発に繋がることが予想される。
ガイドライン等の開発
本研究で薬物トランスポータの発現量に影響を及ぼす遺伝子多型を3種類同定した。また遺伝子多型以外にもウイルス感染の有無など発現量に影響を及ぼす因子を同定した。このように発現量に影響を及ぼす因子は複合的であり、それぞれの因子を考慮した薬物投与設計のアルゴリズムを作成することが、「個の薬物療法」を実践する上で重要となると考えられる。今後ハイリスク薬の投与設計のためのアルゴリズム(ガイドライン)が作成されれば、本研究成果はその基盤情報として大きく寄与することが期待される。
その他行政的観点からの成果
糖尿病、高血圧、がんなど幅広い疾患の薬物治療に関わる薬物トランスポータのゲノム情報が整備できた。今後その情報を用いたテーラーメイド薬物療法の実現によって、医薬品の副作用減少による医療費の削減や、疾病にかかる期間の短縮による労働生産性の向上など、国民の医療・社会生活の向上が期待される。また、本研究成果の創薬への応用として、至適な体内動態特性を有する医薬品の開発や、薬物トランスポータの発現誘導・抑制に基づく新規薬物送達法の確立など、新たな医療技術の提供が可能になると予想される。
その他のインパクト
主任研究者乾は、平成18年度日本薬学会賞(薬物動態制御機構の解明と臨床応用に関する研究)を、また研究協力者寺田は、平成19年度日本薬学会奨励賞(ペプチドトランスポータの機能と発現制御に関する研究)を受賞した。また、乾は、本研究課題に関する研究内容で、国内学会で3回、国際学会で9回の招聘講演を行った。さらに、2008年4月の国際Pharmagogenomics会議(韓国)で招聘講演を、5月の国際薬物動態学会(上海)でプレナリーレクチャーを行うなど、本研究分野のリーダーとして高く評価されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
45件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
34件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kimura, N. Okuda, M. and Inui, K.:
Metformin transport by renal basolateral organic cation transporter hOCT2.
Pharm. Res. , 22 (2) , 255-259  (2005)
原著論文2
Shimakura, J., Terada, T., Katsura, T. et al.
Characterization of the human peptide transporter PEPT1 promoter: Sp1 functions as a basal transcriptional regulator of human PEPT1.
Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. , 289 (3) , 471-477  (2005)
原著論文3
Terada, T., Shimada, Y., Pan, X. et al.
Expression profiles of various transporters for oligopeptides, amino acids and organic ions along the human digestive tract.
Biochem. Pharmacol. , 70 (12) , 1756-1763  (2005)
原著論文4
Yonezawa, A., Masuda, S., Nishihara, K. et al.
Association between tubular toxicity of cisplatin and expression of organic cation transporter rOCT2 (Slc22a2) in the rat.
Biochem. Pharmacol. , 70 (12) , 1823-1831  (2005)
原著論文5
Sakurai, Y., Motohashi, H., Ogasawara, K. et al.
Pharmacokinetic significance of renal OAT3 (SLC22A8) for anionic drug elimination in patients with mesangial proliferative glomerulonephritis.
Pharm. Res. , 22 (12) , 2016-2022  (2005)
原著論文6
Asaka, J., Terada, T., Okuda, M. et al.
Androgen receptor is responsible for rat organic cation transporter 2 (rOCT2) gene regulation but not for rOCT1 and rOCT3.
Pharm. Res. , 23 (4) , 697-704  (2006)
原著論文7
Shimakura, J., Terada, T., Shimada, Y. et al.
The transcription factor Cdx2 regulates the intestine-specific expression of human peptide transporter 1 through functional interaction with Sp1.
Biochem. Pharmacol. , 71 (11) , 1581-1588  (2006)
原著論文8
Masuda, S., Terada, T., Yonezawa, A. et al.
Identification and functional characterization of a new human kidney-specific H+/organic cation antiporter MATE2-K.
J. Am. Soc. Nephrol. , 17 (8) , 2127-2135  (2006)
原著論文9
Terada, T., Masuda, S., Asaka, J. et al.
Molecular cloning, functional characterization and tissue distribution of rat H+/organic cation antiporter MATE1.
Pharm. Res. , 23 (8) , 1696-1701  (2006)
原著論文10
Ogasawara, K., Terada, T., Asaka, J. et al.
Human organic anion transporter 3 gene is regulated constitutively and inducibly via a cAMP-response element.
J. Pharmacol. Exp. Ther. , 319 (1) , 317-322  (2006)
原著論文11
Shimakura, J., Terada, T., Saito, H. et al.
Induction of the intestinal peptide transporter 1 expression during fasting is mediated via peroxisome proliferator-activated receptor α.
Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. , 291 (5) , 581-586  (2006)
原著論文12
Yonezawa, A., Masuda, S., Yokoo, S. et al.
Cisplatin and oxaliplatin, but not carboplatin and nedaplatin, are substrates for human organic cation transporters (SLC22A1-3 and MATE family).
J. Pharmacol. Exp. Ther. , 319 (2) , 879-886  (2006)
原著論文13
Terada, T. and Inui, K.
Gene expression and regulation of drug transporters in the intestine and kidney.
Biochem. Pharmacol. , 73 (3) , 440-449  (2007)
原著論文14
Asaka, J., Terada, T., Ogasawara, K. et al.
Characterization of the basal promoter element of human organic cation transporter 2 (hOCT2) gene.
J. Pharmacol. Exp. Ther. , 321 (2) , 684-689  (2007)
原著論文15
Ogasawara, K., Terada, T., Asaka, J. et al.
Hepatocyte nuclear factor-4α regulates the human organic anion transporter 1 gene in the kidney.
Am. J. Physiol. Renal Physiol. , 292 (6) , 1819-1826  (2007)
原著論文16
Tanihara, Y., Masuda, S., Sato, T. et al.
Substrate specificity of MATE1 and MATE2-K, human multidrug and toxin extrusions/H+-organic cation antiporters.
Biochem. Pharmacol. , 74 (2) , 359-371  (2007)
原著論文17
Yokoo, S., Yonezawa, A., Masuda, S. et al.
Differential contribution of organic cation transporters, OCT2 and MATE1, in platinum agents-induced nephrotoxicity.
Biochem. Pharmacol. , 74 (3) , 477-487  (2007)
原著論文18
Kajiwara, M., Terada, T., Asaka, J. et al.
Critical roles of Sp1 in gene expression of human and rat H+/organic cation antiporters (MATE1).
Am. J. Physiol. Renal Physiol. , 293 (5) , 1564-1570  (2007)
原著論文19
Terada, T. and Inui, K.
Physiological and pharmacokinetic roles of H+/organic cation antiporters (MATE/SLC47A).
Biochem. Pharmacol. (in press)  (2008)
原著論文20
Ogasawara, K., Terada, T., Motohashi, H. et al.
Analyses of regulatory polymorphisms in organic ion transporter genes (SLC22A) in the kidney.
J. Hum. Genet. (in press)  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-