ユビキチンシステムの多機能性を活用した脳神経系加齢性病態の克服

文献情報

文献番号
200707009A
報告書区分
総括
研究課題名
ユビキチンシステムの多機能性を活用した脳神経系加齢性病態の克服
課題番号
H17-ゲノム-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
和田 圭司(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第4部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
42,753,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ユビキチンシステムが不用蛋白質の分解系として機能するだけでなく、多数の蛋白質の活性制御に関与し様々な生命現象に深く係わるという多機能性を活用し、脳神経系の老化ならびに老化がもたらす病態について、ユビキチンシステム、特に脱ユビキチン化酵素から見た克服法を開発する。
研究方法
生化学的手法を用いて、UCH-L1の酸化修飾体を作成し、他の神経系機能蛋白質との相互作用の有無、その程度を非修飾型UCH-L1と比較した。さらに、点突然変異体を使用し、酸化修飾を受けるアミノ酸残基を解析した。また、UCH-L1と相同性があるUCH-L3の遺伝子欠損マウスについて機能形態学的、生化学的解析を行った。さらにUCH-L3の3次元構造のデータをもとにin silico drug screeningの系を構築し、UCH-L3機能を修飾する薬剤の開発を行った。(倫理面への配慮)動物を使用する研究計画はすべて国立精神・神経センター神経研究所動物実験倫理問題検討委員会で審議され承認を受けた。
結果と考察
UCH-L1は酸化ストレスによりそれ自身が酸化された際にtubulinを始めとする細胞内蛋白質との相互作用が亢進することを見出した。またUCH-L1に類縁のUCH-L3が欠損したマウスでは寿命の延長が果たされることを見出した。UCH-L1、UCH-L3はともに神経細胞の機能と生存に関して重要な因子であることが明らかになったことでUCH-L3を標的にした治療法開発をめざしたin silico drug screeningを新たに開始し、新規のUCH-L3阻害剤3種を同定した。
脱ユビキチン化酵素が脳機能発現とその維持に重要な役割を担うことが示された。神経細胞老化がもたらす認知症などの病態の修復法を開拓するため脱ユビキチン化酵素、UCH-L1とUCH-L3を機軸にした神経細胞老化の分子メカニズムの解明と脱ユビキチン化酵素の機能モニタリングによる神経系老化の評価系の構築は重要であるがその基盤形成を十分果たしたと考える。
結論
UCH-L1ならびにUCH-L3は神経系老化の重要な調節因子であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200707009B
報告書区分
総合
研究課題名
ユビキチンシステムの多機能性を活用した脳神経系加齢性病態の克服
課題番号
H17-ゲノム-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
和田 圭司(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第4部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ユビキチンシステムが蛋白質の分解系として機能するだけでなく、多数の蛋白質の活性制御に関与し様々な生命現象に深く係わるという多機能性を活用し、脳神経系の老化ならびに老化がもたらす認知症などの病態について、ユビキチンシステム、特に脱ユビキチン化酵素から見た克服法を開発する。
研究方法
脱ユビキチン化酵素UCH-L1について、神経新生、記憶学習機能との関連性をUCH-L1の発現を欠くマウスを使用して野生型との比較から解析した。ついで、神経細胞老化の誘導因子を考えられる酸化ストレスとUCH-L1の関連性を生化学的に解析した。また、UCH-L1と相同性があるUCH-L3についても神経系における機能を解明するためUCH-L3遺伝子欠損マウスを使用した機能形態学的解析を行った。さらに、UCH-L1、UCH-L3の作用を修飾する薬剤開発をめざし、in silico drug screening、中性子小角散乱法解析を行った。(倫理面への配慮)動物を使用する研究計画はすべて国立精神・神経センター神経研究所実験動物倫理問題検討委員会で審議され承認を受けた。
結果と考察
UCH-L1は酸化ストレスによりそれ自身が酸化された際にtubulinを始めとする細胞内蛋白質との相互作用が亢進することを見出した。またUCH-L1の発現を欠くマウスでは野生型対照に比べシナプス可塑性が変動しており、記憶学習行動の低下が認められた。さらにUCH-L1はマウス神経系前駆細胞にも発現し、その形態を制御することを見出した。他方UCH-L3欠損マウスではカスパーゼ非依存的神経細胞死が網膜で亢進していた。また意外なことにUCH-L3欠損マウスでは寿命の延長が見出された。さらに、in silico drug screeningと酵素化学的解析から、新規のUCH-L3阻害剤3種を同定した。
脱ユビキチン化酵素が脳機能とその維持に重要な役割を担うことが示された。神経細胞老化がもたらす病態の修復法を開拓するため脱ユビキチン化酵素、UCH-L1とUCH-L3を機軸にした神経細胞老化の分子メカニズムの解明と脱ユビキチン化酵素の機能モニタリングは極めて重要と考えられる。
結論
UCH-L1ならびにUCH-L3は神経系老化の重要な調節因子であると結論される。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
神経細胞特異的脱ユビキチン化酵素UCH-L1自体が神経系老化の危険因子と考えられる酸化ストレスにより修飾を受け、他の蛋白質との相互作用を含めその動態が変化することで細胞機能が低下する可能性が明らかにされた。また脱ユビキチン化酵素を標的にしたin silico drug screeningで作用薬の同定にも成功した。本研究の結果は脳神経系の加齢性病態の分子機序解明に向けて先駆けとなる世界的成果であるだけでなく、治療法開発に新たな方向性を提唱したものである。
臨床的観点からの成果
脳神経系加齢性病態についてはその予防・治療法の確立が医学的・社会的急務である。本研究では、創薬の点で脱ユビキチン化酵素を標的にしたヒット化合物の同定に成功するなどの成果を上げただけでなく、脱ユビキチン化酵素の病態形成に及ぼす新たな機序の可能性を明らかにするなど予防に必要な技術開発の基盤を形成する成果を上げた。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
モデル動物を主体にした研究であるが、本研究での成果は認知症に代表される脳神経系加齢性病態の克服に関して根本的対応が将来可能になる展望性を大いに示した点で行政に貢献した。
その他のインパクト
新聞報道、テレビ放映で本研究が関わる一部が紹介された。研究成果の一部は専門書として刊行し、公開シンポジウムで公表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
8件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Naito, S., Mochizuki, H., Yasuda, T., et al.
Characterization of multimetric variants of ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 in water by small-angle neutron scattering.
Biochem Biophys Res Commun. , 339 , 717-725  (2006)
原著論文2
Sakurai, M., Ayukawa, K., Setsuie, R., et al.
Ubiquitin C-terminal hydrolase L1 regulates the morphology of neural progenitor cells and modulates their differentiation.
J. Cell Sci. , 119 , 162-171  (2006)
原著論文3
Sano, Y., Furuta, A., Setsuie, R., et al.
Photoreceptor cell apoptosis in the retinal degeneration of Uchl3 deficient mice.
Am. J. Pathol. , 169 , 132-141  (2006)
原著論文4
Sato, A., Arimura, Y., Manago, Y., et al.
Parkin potentiates ATP-induced currents due to activation of P2X receptors in PC12 cells.
J. Cell. Physiol. , 209 , 172-182  (2006)
原著論文5
Kabuta, T., Suzuki, Y. and Wada, K.
Degradation of amyotrophic lateral sclerosis-linked mutant SOD1 proteins by macroautophagy and the proteasome.
J. Biol. Chem. , 281 , 30524-30533  (2006)
原著論文6
Setsuie, R., Wang, Y.L., Mochizuki, H., et al.
Dopaminergic neuronal loss in transgenic mice expressing the Parkinson’s disease-associated UCH-L1 I93M mutant.
Neurochem. Int. , 50 , 119-129  (2007)
原著論文7
Setsuie, R. Wada, K.
The functions of UCH-L1 and its relation to neurodegenerative diseases.
Neurochem. Int. , 52 , 105-111  (2007)
原著論文8
Hirayama, K., Aoki, S., Nishikawa, K., et al.
Identification of novel chemical inhibitors for ubiquitin C-terminal hydrolase-L3 by virtual screening.
Bioorgan. Med. Chem , 15 , 6810-6818  (2007)
原著論文9
Ohashi, H., Nishikawa, K., Ayukawa, K., et al.
Alpha 1-adrenoceptor agonists protect against stress-induced death of neural progenitor cells.
Eur. J. Pharmacol. , 573 , 20-28  (2007)
原著論文10
Sakurai, M., Sekiguchi, M., Zushida, K., et al.
Reduction of memory in passive avoidance learning, exploratory behavior and synaptic plasticity in mice with a spontaneous deletion in the ubiquitin C-terminal hydrolase L1 gene.
Eur. J. Neurosci , 27 , 691-701  (2008)
原著論文11
Kabuta, T., Setsuie, R., Mitsui, T., et al.
Aberrant molecular properties shared by carbonyl-modified UCH-L1 and familial Parkinson's disease-associated mutant UCH-L1.
Hum. Mol. Genet.  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-