医療安全防止対策の経済評価に関する研究

文献情報

文献番号
200634059A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全防止対策の経済評価に関する研究
課題番号
H17-医療-一般-028
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
今村 知明(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 井出 博生(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医療安全・医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報開示が医事紛争抑制のための適切な対策であるといわれているが、この対策に対するエビデンスは明確ではない。本研究では、分娩事故、胸部大動脈瘤の誤診を題材として、医療事故における医師の責任に関する患者と認識を明らかにすることと、訴訟等の紛争解決手段の選択要因を明らかにすることを目的とした。
研究方法
先行研究から医療事故の情報開示に関連した因子を抽出し、それらをランダムに組み合わせたシナリオを回答者に提示した。回答者はシナリオを読んだ後に、2つの質問(医師等の責任、紛争解決手段の選択)と属性や経験を尋ねる質問に回答した。調査はインターネット上で行い、調査対象者は約23万人の登録者から、層化無作為抽出した。分娩事故のケースでは、30代男女の1620人、胸部大動脈瘤の場合、40-50代男女660人に案内を送信した。統計的な分析として、χ二乗検定とロジスティック回帰分析を行った。
結果と考察
分娩事故では441人、胸部大動脈瘤では220人から回答を得た。事故後に情報開示を受けたシナリオを読んだ群(開示群)と受けなかった(非開示群)に分けると、いずれのケースでも非開示群の方が開示群よりも有意に多く「有責」であると回答した。また、開示群内では開示時期を事故の直後か1週間後かに分けて書かれたシナリオを提示したが、両者の間には有意な差はなかった。
ロジスティック回帰分析の結果、分娩事故の場合、回答者に紛争による解決を選択させていた因子は「説明者」(主治医)、「婚姻状態」、「医療への信頼」であった。胸部大動脈瘤破裂の場合には「説明者」(医療安全の責任者)、「性別」、「教育歴」、「病歴」、「医療事故歴」であった。
これらの結果から、情報開示自体が紛争抑制に有効であるということが示唆された。また、情報開示の効果は事故の直後にだけ高いわけではなく、事故からしばらく時間が経過した後でも有効であるということも示唆された。ロジスティック回帰分析の結果、シナリオ中の因子では「説明者」のみが有意であったが、分娩事故と胸部大動脈瘤では異なった結果であった。シナリオ中の因子よりも回答者の属性等による相対危険度の方が有意かつ大きく、これは被害者の属性別に適切な情報開示方法がありうるということを示している。
結論
今後、紛争抑制の方法についても検討が行われるべきである。本研究では2つの事例を取り扱ったが、他の医療事故事例についても検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2007-06-27
更新日
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