小児アレルギー性鼻炎の成人への移行を阻止するための治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200631007A
報告書区分
総括
研究課題名
小児アレルギー性鼻炎の成人への移行を阻止するための治療法の確立に関する研究
課題番号
H16-免疫-一般-009
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 美孝(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 花澤 豊行(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 堀口 茂俊(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 河野 陽一(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 増山 敬祐(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
  • 大久保 公裕(日本医科大学 医学部)
  • 石川 和夫(秋田大学 医学部)
  • 中山 俊憲(千葉大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
増加する小児アレルギー性鼻炎の成人への移行を阻止する治療法の確立
研究方法
小児アレルギー性鼻炎の現状ならびに長期経過に関する疫学調査,喘息などの他の小児アレルギー疾患との相互関連の耳鼻科・小児科の合同調査,一旦形成されたTh2細胞のメモリー機能の維持機構の解明,小児への舌下減感作療法,プロバイオティクススを用いた治療の有効性、安全性、作用機序を明らかにするための臨床試験の実施
結果と考察
(1)2006年は関東地方ではスギ・ヒノキ花粉飛散が昨年の1/10を少量飛散であったが成人と比較すると小児の感作率減少は少なく、また発症率の減少は明らかではなかった。
(2)喘息合併のなかったアトピー性皮膚炎患児のうち2年間の経過を追うと喘息の発症が5名/18名に認められたが、発症した5例全例にアレルギー性鼻炎の発症が先行していた。
(3)小児アレルギー性鼻炎患児57名に1~2年間の舌下免疫療法を行ったが有害事象はgrade 2を超える重篤なものは認められなかった。安全性が高いことが確認された為プラセボを対象とした二重盲検試験を小児ハウスダスト通年性アレルギー性鼻炎、スギ花粉症患者を対象に開始した。作用機序を明らかにする目的で67名の成人スギ花粉症患者を対象とした二重盲検試験では、Cry j特異的IgG4抗体はプラセボ群に比較して実薬群で有意に高値を呈し、またCry j特異的IL-4産生T細胞、IL-5産生T細胞クローンサイズがスギ花粉飛散シーズン前後でプラセボ群では約1.7倍増加したが、実薬群ではこの増加が認められず抑制されていた。
(4)乳酸菌粉末食品の摂取の有効性を通年性アレルギー性鼻炎患者67名、スギ花粉症患者27名でそれぞれプラセボを対象とした二重盲検試験で検討を行ったところ鼻症状スコア,QOLスコアが乳酸菌粉末摂取群で改善傾向がありプラセボ群と有意差がみられた時期も確認された。バイオマーカーの検討では群間で有意差を認めたものはなかった。
結論
(1)小児アレルギー性鼻炎において十分量の抗原回避の意義は高い。
(2)小児においてもアレルギー性鼻炎は喘息発症の危険因子と考えられ鼻炎への早期治療介入による喘息発症抑制が期待される。
(3)スギ花粉エキス、ハウスダストエキスを用いた舌下免疫療法は小児でも安全性が高く現在進行中の小児での二重盲検試験での有効性の証明が期待される。
(4)スギ舌下免疫療法のバイオマーカーとして初めてCry j特異的IgG4の上昇、Cry j特異的Th2細胞クローンサイズの増加抑制作用が示された。
(5)乳酸菌粉末食品摂取のアレルギー性鼻炎に対する有効性が期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-07-13
更新日
-

文献情報

文献番号
200631007B
報告書区分
総合
研究課題名
小児アレルギー性鼻炎の成人への移行を阻止するための治療法の確立に関する研究
課題番号
H16-免疫-一般-009
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 美孝(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 花澤 豊行(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 堀口 茂俊(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 河野 陽一(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 増山 敬祐(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
  • 大久保 公裕(日本医科大学 医学部)
  • 石川 和夫(秋田大学 医学部)
  • 中山 俊憲(千葉大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
増加する小児アレルギー性鼻炎の成人への移行を阻止する治療法の確立
研究方法
小児アレルギー性鼻炎の現状ならびに長期経過に関する疫学調査,喘息などの他の小児アレルギー疾患との相互関連の耳鼻科・小児科の合同調査,小児期に罹患頻度が高い上気道感染や小児期に活発に増殖する扁桃のアレルギー性鼻炎に及ぼす影響のretrospectiveな検討,一旦形成されたTh2細胞のメモリー機能の維持機構の解明,小児への負担が少ない舌下減感作療法,プロバイオティクススを用いた治療の有効性、安全性、その作用機序を明らかにするための臨床試験の実施
結果と考察
(1)小児での感作、アレルギー性鼻炎の有症率が増加している。
(2)50歳代、60歳代でのスギ花粉特異的IgE抗体価、発症率の低下は明らかではなく、小児での感作の増加は長期にわたり発症者が増加することを危惧させる。
(3)小児喘息のみならず、アトピー性皮膚炎にも高い頻度でアレルギー性鼻炎の合併がみられる。
(4)小児喘息にアレルギー性鼻炎が先行することも少なくない。
(5)小児アレルギー性鼻炎患児は、多くは改善が無いまま成人へ移行している。
(6)小児期に多く発生する上気道感染は喘息のみならず、アレルギー性鼻炎の増悪因子である。
(7)抗原特異的免疫療法(減感作療法)は小児で有効性が高く、終了後も効果は長期にわたり(17年以上)持続する。
(8)一旦形成されたIgE産生は長期に持続するが、この抑制にはTh2細胞のメモリー機構の解明が重要である。
(9)日本特有のスギ花粉エキス、ハウスダストエキスを用いた舌下免疫療法は小児に対してもtolerableであり施行可能である。
(10)小児舌下免疫療法の有効性が期待され、二重盲検試験が進行している。
(11)スギ舌下免疫療法のバイオマーカー、作用機序として成人での試験からCry j特異的IgG4抗体の上昇、Cry j特異的Th2細胞クローンの抑制がみられた。
(12)プロバイオティクスの代表である乳酸菌は、安全でありアレルギー性鼻炎に対する有用性が期待される。
結論
小児のアレルゲン感作、アレルギー性鼻炎有症率の増加がみられる。小児アレルギー性鼻炎患児の多くは改善がないまま成人に移行しており、単に対症療法により症状のコントロールをはかるのみではなく、成人への移行を阻止することが重要であり、今回の研究成果を基にさらに発展させていくことが必要である。

公開日・更新日

公開日
2007-07-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200631007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児アレルギー性鼻炎の成人への移行阻止の取り組みの重要性を疫学調査と平均20年に及ぶ長期経過の検討から明らかにしその対応に向けてTh2細胞のメモリー維持機能の解明,自然経過を改善し得る免疫療法の作用機序の検討を行った。動物実験からTh2サイトカイン遺伝子座のクロマチンリモデリング機構,メチル基転移酵素MLLの関与を明らかにしヒトでの検討について取組みが進んでいる。一方免疫療法として期待されるスギエキス舌下投与の有効性,特異的Th2クローンサイズやIgG4抗体といったバイオマーカーを明らかにした。
臨床的観点からの成果
小児アレルギー性鼻炎の増加の実態を明らかにし、その多くが改善のないまま成人に移行しており、単に対症療法による治療ではなく成人への移行の阻止をはかることの重要性を明らかにした。また、アレルギー性鼻炎が小児喘息に先行することが少なくないこと、その意味から鼻炎の治療への早期介入の重要性、他の小児アレルギー疾患との関連の正確な検討から総合的な小児アレルギー疾患に対する対応が必要であることを示した。小児アレルギー疾患の自然経過を変えることが期待される免疫治療の実際と意義も明らかにした。
ガイドライン等の開発
小児アレルギー性鼻炎の増加が指摘されているが、近年の疫学調査は少なく、長期の経過や、小児期に罹患頻度の高い上気道感染や小児期に活発に増殖する扁桃の影響は不明である。現行の鼻アレルギー診療ガイドラインでの小児アレルギー性鼻炎に関する記載は少ない。今回の班研究の結果を、今後のガイドラインの改訂作業に活かしたい。また、ガイドラインで高く推奨されている抗原特異的免疫療法が小児においても有用性は高く、かつその効果が長期に続くことを示し、今後の本免疫治療の普及に役立たせたい。
その他行政的観点からの成果
2006年に厚生労働省発表のアレルギー疾患対策指針においてアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の推進が述べられている。今回の班研究で多くが成人に移行してしまう小児アレルギー性鼻炎に対して抗原特異的免疫療法が高い有用性を持つことが明らかになった。従来の皮下投与に代わり患者負担の軽減をはかることが出来る舌下投与法が小児でも十分にtolerableであることが示され二重盲検試験に進んでいる。普及の為には不可欠な作用機序の研究も初めて特異的Th2細胞クローンサイズやIgG4抗体の変化を示すことができた。
その他のインパクト
小児のアレルギー性鼻炎の増加、自然改善が少ないこと、扁桃摘出の影響、舌下免疫療法、プロバイオティクスの研究についてNHK、朝日新聞はじめ多くのマスコミで取り上げられた。また、研究成果は、アレルギー性鼻炎の検診を行った山梨県北杜市、千葉県南房総市丸山町、千葉市において厚生労働省班研究の報告会として一般市民を対象に公開講座を開催した。一般医療従事者を対象に、千葉市美浜区、中央区で厚生労働省班研究として講演会、勉強会を開催した。また、研究成果は千葉大学耳鼻咽喉科ホームページに掲載準備を進めている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
38件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の安全性、有用性を示し、厚生労働省アレルギー疾患対策指針の中の舌下免疫療法の推進に反映した。
その他成果(普及・啓発活動)
4件
本班研究の後援下に2007年2月山梨県北杜市で市民講座・相談会,2004年10月千葉市で耳鼻科,小児科医の小児アレルギー疾患治療ジョイント会議,2006年11月幕張で舌下免疫治療研究者合同会議を行った

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Inami M, Yamashita M, Tenda Y, et al.
CD28 costimulation controls histone hyperacetylation of the interleukin 5 gene locus in developing th2 cells
The Journal of biological chemistry , 279 (22) , 23123-23133  (2004)
原著論文2
Ishikawa E, Motohashi S, Ishikawa A, et al.
Dendritic cell maturation by CD11c- T cells and Valpha24+ natural killer T-cell activation by alpha-galactosylceramide
International journal of cancer , 117 (2) , 265-273  (2005)
原著論文3
Kimura MY, Hosokawa H, Yamashita M, et al.
Regulation of T helper type 2 cell differentiation by murine Schnurri-2
The Journal of experimental medicine , 201 (3) , 397-408  (2005)
原著論文4
Gotoh M, Okubo K.
Sublingual immunotherapy for Japanese cedar pollinosis
Allergology international , 54 (1) , 167-171  (2005)
原著論文5
Yamashita M, Hirahara K, Shinnakasu R, et al.
Crucial role of MLL for the maintenance of memory T helper type 2 cell responses
Immunity , 24 (5) , 611-622  (2006)
原著論文6
Hasegawa A, Miki T, Hosokawa H, et al.
Impaired GATA3-dependent chromatin remodeling and Th2 cell differentiation leading to attenuated allergic airway inflammation in aging mice
The Journal of Immunology , 176 (4) , 2546-2554  (2006)
原著論文7
岡本美孝,米倉修二,清水惠也,他
小児アレルギー性鼻炎の疫学調査の問題点
日本小児耳鼻咽喉科学会誌 , 27 (3) , 284-288  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-