雇用と年金の接続に係わる研究(副題:働くことへの意識の違いが労働供給と年金受給の選択に与える影響に関する日独比較分析)

文献情報

文献番号
200601025A
報告書区分
総括
研究課題名
雇用と年金の接続に係わる研究(副題:働くことへの意識の違いが労働供給と年金受給の選択に与える影響に関する日独比較分析)
課題番号
H17-政策-一般-016
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
高木 朋代(敬愛大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
1,853,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、勤労観の違いが働き続けるのか(労働供給)、引退するのか(年金受給)の選択決定に与える影響を、ドイツおよび諸外国との国際比較によって明らかにし、雇用と年金の接続における企業のマネジメントについて考察することを目的とする。
研究方法
 本年度は日独を代表する企業にヒアリング調査を行うとともに、日本企業及び外資企業で働く外国籍従業員を含む中高年層を対象にサーベイ調査を実施した。
結果と考察
 前年度の調査から得られた仮説を軸として、本年度は従業員が労働参加過程から徐々に組織/職務コミットメントを強調する組織の中に埋め込まれていくプロセスを分析し、次のような示唆を得た。標準的な日本の労働者はこれまでに受けてきた人的資源管理の効果として、職場での協力体制や経営理念を重視し、組織との一体化を強めていき、その結果、引退年齢を迎えてもなお「企業メンバーとして自分」のイメージを持ち続けるようになる。こうした傾向からは、一般的に懸念されるような年金と雇用の空白期間よりも、自分と自分が所属する組織との関係こそが当該者にとっての重要課題である場合が多い。一方ドイツおよび諸外国企業の場合、新規事業への積極的進出や差別化戦略を志向する経営スタイルの下で、人材の内部育成よりも中途採用を重視し、従業員自身も転職志向が強く、早くに引退していく傾向がある。その背後には、他社でも通用する汎用性の高い能力の習得や仕事の完遂を職場の人間関係維持よりも重視する勤労観がある。
 ここから分かることは、日本の労働者の意識はドイツおよび諸外国の労働者よりも、より強く職場関係に埋め込まれており、職場に身をおき働くことに自らの存在価値を見出す意識が形成されているということである。よって諸外国の労働者以上に、日本の労働者にとって定年退職は単に職業からの引退を意味するのではなく、社会における自分の存在意義を問う重い問題であると推察される。そのために日本の高年齢者の場合には、年金制度や企業の高年齢者雇用制度のあり方によって、必ずしも高年齢者の就業か引退かの選択が一律に決定付けられるのではなく、日本企業の人的資源管理の成果として個々の従業員の中に醸成された特有の勤労観が媒介変数となり、就業か引退かの選択決定を左右しているものと考えられる。
結論
 今後日本において雇用と年金の接続が円滑に進むためには、高年齢者の雇用促進のための法整備や年金や雇用制度の設計を行うことも重要だが、他国に比して極めて高い従来企業での継続就業意欲と日本特有の勤労観を念頭に入れ、企業内部の雇用と引退のマネジメントのあり方に着目する必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2007-05-10
更新日
-