労働者を取り巻く環境の変化を踏まえた今後の労働衛生管理体制のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200500997A
報告書区分
総括
研究課題名
労働者を取り巻く環境の変化を踏まえた今後の労働衛生管理体制のあり方に関する研究
課題番号
H16-労働-001
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 栄二(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 派遣・パートなど非正規労働者の増加に見られる雇用の多様化を中心にした近年の労働環境の変化の実情を把握し、そこから生ずる問題を整理して、それらに対応した労働衛生管理体制を提示する。
研究方法
 派遣業協会による全国調査結果からその概況を把握した。某事業所で雇用形態、就業時間の多様化の実態を調べた。また派遣に多い年代の女性における聞き取り調査をした。次に非正規労働の健康影響について、従来の研究をレビューし、事業所における横断的、縦断的研究で実証的に調べた。多様な雇用関係における健康保護や安全配慮義務について判例から法律的考え方を整理し、最後に現状を把握や改善のためのツール開発を試みた。
結果と考察
 派遣業協会の全国調査や事業所の調査で、雇用形態、就業時間の多様化がすすんでいる実態を具体的に示した。また派遣労働者の聞き取り調査では、正規職員に比べて健康診断を受けてないことなど、その管理の未整備が明らかになった。 
 非正規労働の健康影響についての従来の研究では欧米から少数報告はあるが、研究対象・方法によってかならずしも結果は一致せず、特にわが国ではその種の研究はほとんどなかった。事業所での実証的調査では非正規労働者では業務の負荷が多く、心理的健康度に問題を持つ割合が高く、メンタル関連事由で受診が多かった。
 雇用の多様化に関連した健康障害の判例を見ると、名目の契約よりも実質的な労働実態が重視されており、あるべき方向性や制度の参考になる。実際に各事業所が派遣、請負、パート等の雇用の多様化の現状を把握し、その責任関係を明確化するとともに、改善策の立案を助けるための評価シートを開発し、ホームページ上に公開した。これが広く使われ、各事業所が現状を把握するとともに、改善の方策を立てることが望まれる。
結論
 今日雇用の多様化が急速にすすんでいるが、その現状把握は不十分で健康そのほかに及ぼす影響はほとんど調べられていない。そこでこの分野の調査研究を早急に進めるとともに、当面、労働の実態に即した形での労務管理の整備により実態に即し、派遣先(元方)へ管理の軸を移すことが必要である。またこうした状況下での産業保健活動は契約関係や職種を超えた総括管理のための体制が作られなければならない。その目的のために労働安全衛生マネジメントシステムの推進が有効であろう。

公開日・更新日

公開日
2006-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200500997B
報告書区分
総合
研究課題名
労働者を取り巻く環境の変化を踏まえた今後の労働衛生管理体制のあり方に関する研究
課題番号
H16-労働-001
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 栄二(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 森 晃爾(産業医科大学 産業医実務研修センター)
  • 山田 誠二(松下産業衛生科学センター)
  • 栗原 伸公(神戸女子大学 家政学部)
  • 錦谷 まりこ(帝京大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 パート、嘱託、派遣など非正社員の増加に見られる雇用の多様化の実情を把握し、それによる問題を整理して、それらに対応した労働衛生管理体制を提示する。
研究方法
 既存全国調査や派遣業界での調査の二次解析から雇用の多様化の現状やその労働衛生管理について情報を集め、新聞記事データからも事例を収集した。実地調査としては、さまざまな規模の事業所の産業医や衛生管理担当者、人事担当者から聞き取りをした。また、派遣経験女性の面接調査を行った。不安定な雇用形態の健康影響について文献レビューを行い、就業形態と健康状態の関連の事例調査と、任期制契約による健康状態や受診状況への影響を断面及び縦断的に調べた。さらに判例から、この問題の枠組みを考察した。用いた聴き取り調査票を発展させ、責任体制の明確化や改善を促すためのツールの開発を試みた。
結果と考察
 個々の企業はもとより全国レベルで、雇用の多様化と非正社員の増加が進行し、それが職場内だけでなく労働者の生活や生涯にまで影響している事が示された。しかし事業所では、人事把握や労務管理がそれに応ずる体制となっておらず、結果として健康教育、健康障害防止、健康管理、問題発生後の対応等々安全衛生面での問題が存在した。非正規労働の健康影響の研究は、海外で少数報告があるが必ずしも結果は一致せず、わが国の研究は殆ど無かった。事業所での断面・縦断研究では、非正規労働者では業務の負荷が多く、心理的健康度が低く、メンタル関連事由で事業所内診療所の受診が多かった。関連した裁判事例の分析では名目の契約よりも実質的な労働実態が重視されており参考になる。研究で用いた調査票を発展させた評価シートは多様な雇用形態の労働者個々に対する責任体制を明確にし、改善を促すための道具となると考えられ、インターネットで公開し、広範な利用の便に供した。
結論
 今日わが国では雇用の多様化が急速にすすんでいるが、その現状把握は不十分であり、この問題についての調査研究を早急に進める必要がある。当面、労働の実質に即した形での労務管理の整備により、派遣先へ管理の軸を移す事が必要であろう。またこうした状況下での産業保健活動では契約関係や職種を超えた総括管理のための体制が作られなければならない。その目的のために労働安全衛生マネジメントシステムの推進が求められる。

公開日・更新日

公開日
2006-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500997C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現在、我国の労働衛生においては、社会・産業構造に対応して多様な雇用・就業形態が生じた状況下での労働衛生管理が必要とされる。そのため定年雇用制を前提にした従来の健康管理体制では、現場の多くの労働者の健康管理が困難になっている。本研究では、こうした現状と問題点を提示したが、この種の研究や実状調査は極めて不足している。本研究を契機に、こうした問題に対するう関心が高まるとともに、これに続く多くの研究が行われ、問題の分析と把握の深化が期待される。
臨床的観点からの成果
個々の職域レベルで、労働者の健康管理が困難な状況に対する産業保健活動のあり方として、従来の健康管理だけでなく、総括管理の重要性が指摘された。この点は今後現場の産業医やそのほかの産業保健専門職への教育啓蒙に生かしていくことができよう。
また、雇用・就業の多様化は従来の法令遵守型ではなく、事業所の実情に応じた自主的な活動、継続的な活動を重視する、労働安全衛生マネジメントシステムが有効であり、その推進が望まれることが指摘された。
この点も個々の職域産業保健の活動現場で直ちに生かしていけることである。
ガイドライン等の開発
本研究で調査に用いた評価シートを発展させ、各事業所が派遣、請負、パート等の雇用の多様化の現状を把握し、その責任関係を明確化するとともに、改善策の立案を助けるための評価シートを開発し、ホームページ上に公開した。このシートが広範に用いられることにより、各事業所が現状を把握するとともに、改善の方策を立てることが期待される。
その他行政的観点からの成果
法律面から雇用制度を分析した結果、多様な雇用関係や就業状態の実態に即し、労働者の健康管理が困難な状況下において労働者の健康保持のために、現在の名目的雇用契約関係を重視した職域健康管理体制は有効性の高い制度に改変される必要があることが示された。これに従った法的制度的整備が進むことが期待される。
その他のインパクト
今回の研究成果を踏まえ、多様な雇用形態に即した産業保健活動の問題点とその対応策について、18年5月の産業衛生学会総会シンポジウムで提言を行う予定である。こうした成果の活用や提供は異なる雇用・就業形態間での統一の動きに安全衛生管理面での対応を示すことになり、それにより労働衛生管理体制内容を充実させることは、非正規や正規の雇用に関わらず、多くの労働者とその家族を含めた国民全体の保健・医療・福祉の向上に貢献することが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishikitani M, Nakao M, Karita K et al.
Influence of overtime work, sleep duration, and perceived job characteristics on the physical and mental status of software engineers.
Industrial Health , 43 , 623-629  (2005)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-