神経変性疾患の根本的治療の実現をめざした新規モデル動物での先端的治療法の開発と確立

文献情報

文献番号
200500775A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患の根本的治療の実現をめざした新規モデル動物での先端的治療法の開発と確立
課題番号
H15-こころ-023
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
和田 圭司(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第4部)
研究分担者(所属機関)
  • 北條 浩彦(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子工学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで難治性とされていた神経変性疾患(パーキンソン病とハンチントン病など)の根本的治療法を動物モデルを用いて開発し確立する。
研究方法
(1)パーキンソン病: 病因となる脱ユビキチン化酵素UCH-L1のI93M変異体を細胞に導入し不溶性亢進の動態を解析した。(2)ハンチントン病: RNAiを用いたstructure based knockdownにより原因遺伝子産物の除去を行い蛋白質の凝集・不溶化防止と神経変性・神経機能不全の補正をモデルマウスで行った。 (3)成体脳由来神経系前駆細胞に高発現するG蛋白質共役型受容体(GPCR)を同定し、その作用機序を細胞・個体で解析した。(倫理面への配慮)動物を使用する研究計画はすべて国立精神・神経センター神経研究所動物実験倫理問題検討委員会で審議され承認を受けた。
結果と考察
結果
(1)パーキンソン病: UCH-L1の変異原性獲得がリソソームにおけるUCH-L1の不溶性亢進を誘導し、パーキンソン病関連蛋白質の蓄積を誘導することを見出した。 (2) 昨年度ハンチントン病原因遺伝子に対して開発したsiRNAの配列を元にshRNA発現プラスミドを開発し、さらに当該プラスミドがモデル動物の病態の進行抑制に有効であることを見出した。shRNA発現プラスミドを脳内投与されたモデルマウスは対照に比べ発症時期が遅れ、延命するなど臨床的に進行が遅くなった。その延命効果は昨年度報告したsiRNAの効果を上回った。 (3)神経幹細胞:成体脳由来神経系前駆細胞に最も高発現するG蛋白質共役型受容体群を同定し、さらにその運動性・接着性をvivoで制御するGPCRリガンドを同定した。
考察
ハンチントン病のRNAi法を用いた治療についてはモデルマウスでその成果が確認できたことは画期的である。将来のヒトへの応用を視野に入れることができるようになった点で本研究は非常に優れた学術的意義があったものと考える。パーキンソン病についてもUCH-L1の凝集機序の解明が進んだ点が一番に評価できる。パーキンソン病の発症機序の根幹部分を明らかにすることに貢献する成果であった。神経幹細胞の賦活化に関するGPCRリガンドの網羅的同定とその作用の発見は神経幹細胞の動態制御を可能にする薬物開発に貢献する。
結論
ハンチントン病原因遺伝子に対するshRNAを開発し、モデル動物個体においてその効果を確認した。UCH-L1の凝集性が亢進する機序を見出した。神経幹細胞の動態を制御するG蛋白質共役型受容体リガンドを同定した。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500775B
報告書区分
総合
研究課題名
神経変性疾患の根本的治療の実現をめざした新規モデル動物での先端的治療法の開発と確立
課題番号
H15-こころ-023
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
和田 圭司(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第4部)
研究分担者(所属機関)
  • 北條 浩彦(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子工学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経変性疾患(パーキンソン病とハンチントン病など)の根本的治療法を動物モデルを用いて開発し確立する。
研究方法
(1)パーキンソン病: 病因となる脱ユビキチン化酵素UCH-L1のI93M変異体を発現するトランスジェニックマウスを作成し解析を行った。また、同変異体を細胞に導入しその動態を解析した。(2)ハンチントン病: RNAiを用いたstructure based knockdownにより原因遺伝子産物の除去を行い蛋白質の凝集・不溶化防止と神経変性・神経機能不全の補正をモデルマウスで行った。 (3)成体・胎仔脳由来神経系前駆細胞に高発現するG蛋白質共役型受容体(GPCR)を同定し、その作用機序を細胞・個体で解析した。(倫理面への配慮)動物を使用する研究計画はすべて国立精神・神経センター神経研究所動物実験倫理問題検討委員会で審議され承認を受けた。
結果と考察
結果
(1)パーキンソン病:I93M-UCH-L1発現トランスじェニックマウスは対照マウスに比べ顕著な加齢依存的黒質ドパミン産生ニューロン死を呈した。またUCH-L1の変異原性獲得がリソソームにおけるUCH-L1の不溶性亢進を誘導し、パーキンソン病関連蛋白質の蓄積を誘導することを見出した。 (2) ハンチントン病原因遺伝子に対してsiRNA、shRNA発現プラスミドを開発し、これらの投与がモデル動物の病態の進行抑制に有効であることを見出した。(3)神経幹細胞:成体・胎仔脳由来神経系前駆細胞に最も高発現するG蛋白質共役型受容体群を同定し、さらにその運動性・接着性をvivoで制御するGPCRリガンドを同定した。
考察
ハンチントン病のRNAi法を用いた治療についてはモデルマウスでその成果が確認できたことは画期的である。将来のヒトへの応用を視野に入れることができるようになった点で本研究は非常に優れた学術的意義があったものと考える。パーキンソン病についてもパーキンソン病に類似した病理学変化を呈するモデルマウスが作成でき、またUCH-L1の凝集機序の解明が進んだ点が一番に評価できる。パーキンソン病研究の発展に世界的に貢献する成果であった。神経幹細胞の賦活化に関するGPCRリガンドの網羅的同定とその作用の発見は神経幹細胞の動態制御を可能にする薬物開発に貢献する。
結論
ハンチントン病に対してRNAiが有効な治療法であることを動物で確認した。パーキンソン病のモデルマウスを開発し、発症機序の一端を明らかにした。神経幹細胞の動態を制御するG蛋白質共役型受容体リガンドを同定した。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500775C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)ハンチントン病研究ではモデルマウスでRNAiによる治療の効果が確認できた。将来ヒトでの応用を視野に入れることができるようになった点で非常に優れた学術的意義があったと考える。2)パーキンソン病研究ではヒト病理に類似した変化を呈するモデルマウスが作成でき、またUCH-L1の凝集機序の解明が進んだ。3)神経幹細胞の賦活化に関するGPCRリガンドの網羅的同定に成功した。これは神経幹細胞の動態制御を可能にする薬物開発に貢献する。
臨床的観点からの成果
神経変性疾患の根本的治療を実現するためには標的分子特異的遺伝子発現制御法、神経機能不全修復法、神経再生療法などをまずモデル動物において確立することが要求される。本研究ではいずれの治療法に対しても将来ヒトで実用化する上で基盤となる重要な成果を上げた。
ガイドライン等の開発
該当せず
その他行政的観点からの成果
モデル動物を主体にした件であるが、いずれの成果も神経難病と称される神経変性疾患が決して不治の病でなく、根本的治療が将来可能になる展望性を大いに示すものであった点で行政に貢献した。
その他のインパクト
特許出願を4件行った。国際会議での招待講演が3件、国内会議での招待講演が7件であった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishikawa, K., Li, H., Kawamura, R., et al.
Alterations of structure and hydrolase activity of parkinsonism-associated human ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 variants.
Biochem. Biophys. Res. Comm. , 304 , 176-183  (2003)
原著論文2
Osaka, H., Wang, Y.L., Takada, K., et al.
Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1 binds to and stabilizes monoubiquitin in neurons.
Hum. Mol. Genet. , 12 , 1945-1958  (2003)
原著論文3
Harada, T., Harada, C., Wang, Y.L., et al.
Role of ubiquitin carboxy terminal hydrolase-L1 in neural cell apoptosis induced by ischemic retinal injury in vivo.
Am. J. Pathol. , 164 , 59-64  (2004)
原著論文4
Castegna, A., Thongboonkerd, V., Klein, J., et al.
Proteomic Analysis of the Brain Proteins in the Gracile Axonal Dystrophy (gad) Mouse, a Syndrome That Emanates from Dysfunctional Ubitquitin Carboxyl-Terminal Hydrolase L-1, Reveals Oxidation of Key Proteins.
J. Neurochem. , 88 , 1540-1546  (2004)
原著論文5
Hohjoh H.
Enhancement of RNAi activity by improved siRNA duplexes.
FEBS Lett. , 557 , 193-198  (2004)
原著論文6
Omi K., Tokunaga K., Hohjoh H., et al.
Long-lasting RNAi activity in mammalian neurons.
FEBS Lett. , 558 , 89-95  (2004)
原著論文7
Bonin, M., Poths, S., Osaka, H., et al.
Microarray expression analysis of gad mice implicates involvement of Parkinson’s disease associated UCH-L1 in multiple metabolic pathways.
Mol. Brain Res. , 126 , 88-97  (2004)
原著論文8
Wang, Y.L., Takeda, A., Osaka, H., et al.
Accumulation of b- and g-synucleins in the ubiquitin C-terminal hydrolase L1 deficient gad mouse.
Brain Res. , 1019 , 1-9  (2004)
原著論文9
Kwon, J., Wang, Y.L., Setsuie, R., et al.
Two closely related ubiquitin C-terminal hydrolase isozymes function as reciprocal modulators of germ cell apoptosis in cryptorchid testes.
Am. J. Pathol. , 165 , 1367-1374  (2004)
原著論文10
Mi, W., Beirowski, B., Gillingwater, T.H., Adalbert, R., et al.
The slow Wallerian degeneration gene, WldS, inhibits axonal spheroid pathology in gracile axonal dystrophy mice.
Brain , 128 , 405-416  (2005)
原著論文11
Manago, Y., Kanahori, Y., Shimada, A.. et al.
Potentiation of ATP-induced currents due to the activation of P2X receptors by ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1.
J. Neurochem. , 92 , 1061-1072  (2005)
原著論文12
Sago N., Omi K., Tamura Y., et al.
RNAi induction and activation in mammalian muscle cells where Dicer and eIF2C translation initiation factors are barely expressed.
BBRC , 319 , 50-57  (2004)
原著論文13
Ohnishi Y., Tokunaga K., Hohjoh H.
Influence of assembly of siRNA elements into RNA-induced silencing complex by fork-siRNA duplex carrying nucleotide mismatches at the 3’- or 5’-end of the sense-stranded siRNA element.
BBRC , 329 , 516-521  (2005)
原著論文14
Kwon, J., Mochida, K., Wang, Y.L., et al.
Ubiquitin C-terminal hydrolase L1 is essential for the early apoptotic wave of germinal cells and for sperm quality control during spermatogenesis.
Biol. Reprod. , 73 , 29-35  (2005)
原著論文15
Wang, Y.L., Liu, W., Wada, E., et al.
Clinico-pathological rescue of a model mouse of Huntington’s disease by siRNA.
Neurosci. Res. , 53 , 241-249  (2005)
原著論文16
Wang, Y.L., Liu, W., Sun, Y.J., et al.
Overexpression of ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 arrests spermatogenesis in transgenic mice.
Mol. Reprod. Dev. , 73 , 40-49  (2006)
原著論文17
Naito S, Mochizuki H, Yasuda T., et al.
Characterization of multimetric variants of ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 in water by small-angle neutron scattering.
Biochem Biophys Res Commun. , 339 , 717-725  (2006)
原著論文18
Sakurai, M., Ayukawa, K., Setsuie, R., et al.
Ubiquitin C-terminal hydrolase L1 regulates the morphology of neural progenitor cells and modulates their differentiation.
J. Cell Sci. , 119 (1) , 162-171  (2006)
原著論文19
Kwon, J., Sekiguchi, S., Wang, Y.L., et al.
The region-specific functions of two ubiquitin C-terminal hydrolase isozymes along the epididymis.
Exp. Anim. , 55 (1) , 35-43  (2006)
原著論文20
北條浩彦
RNAi効果の評価法?本当にRNAiが起こっているのか?
バイオテクノロジージャーナル , 1 , 51-57  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-