外傷性中枢神経障害のリハビリテーションにおける科学的解析法と治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200500764A
報告書区分
総括
研究課題名
外傷性中枢神経障害のリハビリテーションにおける科学的解析法と治療法の確立に関する研究
課題番号
H15-こころ-013
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 壽(大阪大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋津 岳士(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 田中 裕(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 鍬方 安行(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 塩崎 忠彦(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 田崎 修(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 種子田 護(近畿大学医学部脳神経外科 )
  • 吉峰 俊樹(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 畑澤 順(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 池尻 義隆(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 森 泰丈(大阪大学大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
『重症頭部外傷急性期から慢性期への移行期に生じている病態を解明すること』、『病態に即して意識回復を積極的に促進する移行期での治療法を開発すること』、『長期的な脳機能回復を積極的に促進するために早期から慢性期にかけて一貫した治療法(リハビリテーションを含む)を開発すること』が本研究の目的である。
研究方法
主に、1. 意識障害患者での下肢に対する早期リハビリテーションの効果の検討、2. 長期植物状態からの回復過程の解明、3. 長期植物状態からの意識回復・非回復を決定する因子の解明、4. 損傷した中枢神経の年単位での長期的な回復過程の解明、5. 長期植物状態からの回復予知法・回復促進法の開発、6. 意識回復例での高次脳機能障害の回復機構の解明と回復促進法の開発、に関する臨床研究を行った。
結果と考察
1.意識障害患者の下肢筋肉(6例10肢)に1週間の電気刺激(発症後1週~2週の間)を加えることにより、下肢総ての部位で、この期間の筋萎縮を平均1%に留めることに成功した。さらに、長期(第1週~第6週)にわたり電気刺激を加えた場合(2例4肢)も、下肢総ての部位で4%以内の萎縮に留めることに成功した。2.重症頭部外傷受傷1ヶ月後に植物状態を呈していても、37例中21例(57%)が受傷から1年以内に意識を回復し、1例が受傷から2年後に意識を回復した。3.1年以内に意識の回復した患者では、受傷1ヶ月後の髄液中IL-1β濃度が意識回復の遷延している患者に対して有意に低かった。4.意識が回復した後も摂食≫排泄≧整容の順番で、年単位で緩徐に改善していくことが判明した。5.Hybrid PETを用いて、脳ブドウ糖代謝を指標として頭部外傷後の脳機能障害を解析することが可能であることが明らかになった。6.受傷1ヶ月後の時点では、48例中41例(85%)もの高頻度で何らかの高次脳機能障害(特に記銘力障害)が生じていた。
結論
今回の研究により、重症頭部外傷後の慢性期治療(リハビリテーションを含む)に、以下に示す明確な方向性を示すことができた。1.急性期治療が終了した時点で植物状態を呈していても、今後は意識が回復することを前提として慢性期治療施設でも積極的に治療・看護する必要がある。2.意識障害患者では、下肢に対するリハビリテーションを受傷早期から積極的に開始する必要がある。3.科学的根拠に基づいて早期から計画的にリハビリテーション(例えば下肢筋肉に対する電気刺激)を施行すれば、下肢の廃用性萎縮を十分に予防できる可能性が高い。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500764B
報告書区分
総合
研究課題名
外傷性中枢神経障害のリハビリテーションにおける科学的解析法と治療法の確立に関する研究
課題番号
H15-こころ-013
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 壽(大阪大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋津 岳士(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 田中 裕(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 鍬方 安行(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 塩崎 忠彦(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 田崎 修(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 種子田 護(近畿大学医学部脳神経外科学)
  • 吉峰 俊樹(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 畑澤 順(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 池尻 義隆(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 森 泰丈(大阪大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、『重症頭部外傷急性期から慢性期への移行期に生じている病態を解明すること』、『病態に即して意識回復を積極的に促進する移行期での治療法を開発すること』、『長期的な脳機能回復を積極的に促進するために早期から慢性期にかけて一貫した治療法(リハビリテーションを含む)を開発すること』、である。
研究方法
1. 長期植物状態からの回復過程の解明、2. 損傷した中枢神経の年単位での長期的な回復過程の解明、3. 長期植物状態からの意識回復・非回復を決定する因子の解明、4. 長期植物状態からの回復予知法・回復促進法の開発、5. 意識障害患者での下肢に対する早期リハビリテーションの効果の検討、6. 意識回復例での高次脳機能障害の回復機構の解明と回復促進法の開発、に関する臨床研究を行った。
結果と考察
1.受傷1ヶ月後に植物状態を呈していた重症頭部外傷患者37例のうち、21例(57%)が受傷から1年以内に意識を回復した。うち、3例が社会復帰を遂げた。2.意識が回復した後も摂食≫排泄≧整容の順番で、年単位で緩徐に改善していくことが判明した。さらに、受傷から3年経過しても発語の認められなかった7例のうち6例が受傷から3年~5年の間に発語が可能になった。3.1年以内に意識の回復した患者では、受傷1ヶ月後の髄液中IL-1β濃度が意識回復の遷延している患者に対して有意に低かった。4.受傷後2~3週後に脳血流量が増加する症例は機能予後が良いことを明らかにした。5.6週間の経過で下肢総ての筋肉が来院時の60~70%にまで断面積が減少していた。意識障害患者の下肢筋肉(6例10肢)に1週間の電気刺激(発症後1週~2週の間)を加えることにより、下肢総ての部位で、この期間の筋萎縮を平均1%に留めることに成功した。6.受傷1ヶ月後の時点では48例中41例(85%)もの高頻度で何らかの高次脳機能障害(特に記銘力障害)が生じていた。
結論
今回の研究により、重症頭部外傷後の慢性期治療(リハビリテーションを含む)に、以下に示す3つの明確な方向性を示すことができた。1.急性期治療が終了した時点で植物状態を呈していても、今後は意識が回復することを前提として慢性期治療施設でも積極的に治療・看護する必要がある。2.意識障害患者では、下肢に対するリハビリテーションを受傷早期から積極的に開始する必要がある。3.科学的根拠に基づいて早期から計画的にリハビリテーション(例えば下肢筋肉に対する電気刺激)を施行すれば、下肢の廃用性萎縮を十分に予防できる可能性が高い。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500764C

成果

専門的・学術的観点からの成果
重症頭部外傷の慢性期病態に関しては打つ手がないと放置され、今まで研究が進んでいない。今回の研究により、重症頭部外傷後の慢性期治療に、以下に示す明確な方向性を示した。1.今後は意識が回復することを前提として慢性期治療施設でも積極的に治療・看護する必要があること。2.意識障害患者では、下肢に対するリハビリテーションを受傷早期から積極的に開始する必要があること。3.科学的根拠に基づいて早期から計画的にリハビリテーションを施行すれば、下肢の廃用性萎縮を十分に予防できる可能性が高いこと。
臨床的観点からの成果
意識障害患者の下肢廃用性萎縮に関する研究は患者のQOL向上に直結するので、行政的意義は非常に大きい。我々が用いている機器は、消費者団体によって安全性も確立されており、小型軽量(約180g)で使いやすい上に、比較的安価(1台5?6万円)で購入できる。この研究に成功すれば、患者家族が自宅の『ベッドサイド』で、『比較的安価な装置』を用いて、『簡便な方法』で、下肢の廃用性萎縮を予防する事が可能となり、下肢の筋力維持に関しては急性期から家庭まで一貫したリハビリテーションを行うことが可能となる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
現時点では、交通事故による高度意識障害患者に対しては、症状固定(受傷後約1年)と判断されると障害程度に応じた保険金が一括で支払われる仕組みになっているが、一度に大金が支払われるために患者家族の間でしばしば諍いが生じている。しかし、我々の研究結果から年単位で回復が認められことが判明したので、「1年間に必要な金額だけを定期的に支払う仕組みにしたほうが良い」との意見が損害補償協会等で聞かれるようになった。
その他のインパクト
1.2005年3月25日の朝日新聞朝刊(全国版)やインターネット版朝日新聞に、『電気刺激によって下肢筋肉の萎縮が予防できる』という記事で掲載された。2.2004年12月26日の讀賣新聞に『1ヶ月以上植物状態でも6割回復』という記事で掲載された。その記事を基にした特集『植物状態でも諦めない・・・社会復帰を果たした男性の場合』が2005年3月1日夕方6時の関西テレビで放映された。3.2003年2月12日の讀賣新聞に『頭部大けがで昏睡・植物状態 3人に2人意識戻る』という記事で掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
153件
その他論文(英文等)
109件
学会発表(国内学会)
124件
学会発表(国際学会等)
26件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiozaki T, Hayakata T, Tasaki O, et al.
Cerebrospinal fluid concentrations of anti-inflammatory mediators in early-phase severe traumatic brain injury.
Shock , 23 (5) , 406-410  (2005)
原著論文2
Inoue Y, Shiozaki T, Tasaki O,et al.
Changes in cerebral blood flow from the acute to the chronic phase of severe head injury.
Journal of Neurotrauma , 22 (12) , 1411-1418  (2005)
原著論文3
Hayakata T, Shiozaki T, Tasaki O,et al.
Changes in CSF S100B and cytokine concentrations in early-phase severe traumatic brain injury
Shock , 22 (2) , 102-107  (2004)
原著論文4
Shiozaki T, Nakajima Y, Taneda M,et al.
Efficacy of moderate hypothermia in patients with severe head injury and intracranial hypertension refractory to mild hypothermia.
Journal of Neurosurgery , 99 (1) , 47-51  (2003)
原著論文5
Hashiguchi N, Shiozaki T, Ogura H, et al.
Mild hypothermia reduces expression of Heat Shock Protein 60 in leukocytes from severely head-injured patients
Journal of Trauma , 55 (6) , 1054-1060  (2003)
原著論文6
Yoshiya K, Tanaka H, Kasai K,et al.
Profile of gene expression in the subventricular zone after traumatic brain injury.
Journal of Neurotrauma , 20 (11) , 1147-1162  (2003)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-