霊長類を用いたアルツハイマー病に対する経口治療薬の開発とその臨床応用の試み

文献情報

文献番号
200500355A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類を用いたアルツハイマー病に対する経口治療薬の開発とその臨床応用の試み
課題番号
H16-痴呆・骨折-001
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 和佳子(国立長寿医療センター 老年病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 樹理(京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)
  • 辻本 賀英(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 直井 信(財団法人国際岐阜バイオ研究所 脳科学研究部門)
  • 駒野 宏人(国立長寿医療センター アルツハイマ-研究部)
  • 新田 淳美(名古屋大学大学院医学研究科 医療薬学、医学部附属病院薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究【痴呆・骨折臨床研究(若手医師・協力者活用に要する研究を含む)】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題ではアルツハイマー病(AD)に対し簡便に施行でき、安全性の高い治療法として、神経保護薬開発を目的として研究を行った。具体的には経口投与可能な神経保護薬候補であるpropargylamine化合物(PA)が疾病の進行を遅延させることを証明するため、以下の研究を行った。PAがin vivo、in vitroで神経栄養因子を誘導し、amyloid beta protein (Abeta)の生成を低下させることが申請者らにより報告されている。しかし、その作用機序および作用点は解明されていない。PAの作用点を明らかにすることで、神経細胞死の制御に関する新たな知見が得られるとともに新薬開発が可能となることが期待される。一方、経口投与可能な薬剤により脳内の神経栄養因子を誘導できれば、ADのみならず老化に伴う神経変性疾患一般に対する治療薬として使用が可能である。本研究はAD患者の治療にむけたきわめて重要な試みであり、医療行政、薬剤開発など厚生労働行政に対して大きな貢献をなすことが期待される。
研究方法
1)神経変性疾患における細胞死にはミトコンドリアの膜透過性亢進(mitochondrial permeability transition, MPT)が主要な役割を果たしていると考えられている。PAの作用点をMPT関連分子を中心に探索した。2)オスニホンザルに対し、PAの中で最もin vitro の神経保護活性が高かったrasagilineを毎日1回4週間投与した。投与前および投与後経時的に脳脊髄液(CSF)および血清を採取し、神経栄養因子であるBDNFおよびGDNFとAbeta 1-40、 1-42をEIA法で測定した。
結果と考察
PA 誘導体はA型モノアミン酸化酵素の基質結合部位とは異な部位に結合し、直接MPTを調節していることを証明した。rasagiline投与を受けたニホンザルでは、一定の投与量の範囲内でのみCSF中の神経栄養因子の顕著な増加とAbeta 1-42/1-40比の有意な低下を認めた。
結論
PAの作用機序が明らかとなり、今後新しい神経保護薬をデザインすることが可能となった。ニホンザルを用いた動物実験で、CSF中の神経栄養因子およびAbeta 1-42/1-40比がPAの神経保護作用のマーカーとなりうることが示された。

公開日・更新日

公開日
2006-04-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-10-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200500355B
報告書区分
総合
研究課題名
霊長類を用いたアルツハイマー病に対する経口治療薬の開発とその臨床応用の試み
課題番号
H16-痴呆・骨折-001
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 和佳子(国立長寿医療センター 老年病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 樹理(京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)
  • 辻本 賀英(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 直井 信(財団法人国際岐阜バイオ研究所 脳科学研究部門)
  • 駒野 宏人(国立長寿医療センター アルツハイマ-研究部)
  • 新田 淳美(名古屋大学大学院医学研究科 医療薬学、医学部附属病院薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究【痴呆・骨折臨床研究(若手医師・協力者活用に要する研究を含む)】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢化社会を迎える日本にとって、アルツハイマー病(AD)等の認知症は老人医療および介護保健において大きな問題となっており、本疾患の進行を遅延させ、あるいは回復させることは厚生労働行政に対して大きな貢献をなす。ADの新たな治療法として必要な要件は、多数の患者に簡便に施行でき、安全性の高いものであることである。さらに今後10年以内の実用化が望まれる。そのため本研究課題では経口投与可能でヒトに対する安全性が確認されている薬剤であるpropargylamine化合物(PA)が本来の酵素阻害作用とは独立した神経保護作用をもつことを証明するための研究を行った。PAは申請者らが中心となって研究を進めてきた神経保護薬候補であり、in vivo、in vitroで神経保護作用をもつことを報告してきた。
研究方法
本研究課題では2年の期間内で1)細胞および動物モデルを用いた基礎実験を行い、PAの作用機序を明らかとする。2)ニホンザルにPA投与を行い、その安全性を確認するとともにPAの神経保護作用を臨床的に評価する方法論を確立する。という2点に焦点を絞り研究を行った。
結果と考察
神経保護活性を示すPAはA型モノアミン酸化酵素(MAO-A)の基質結合部位とは異な部位に結合し、ミトコンドリア由来のシグナルカスケードの下流でストレス関連転写因子の活性化を介して神経保護に働く蛋白質(Bcl-2、抗酸化酵素、神経栄養因子など)のレベルを増加させた。PAによる神経保護作用はin vivo でもin vitroでも狭いtherapeutic windowを示し、さらにニホンザルのCSF中神経栄養因子(BDNF GDNF NT-3 NGF)値が投与後顕著に増加した。
結論
PAの作用機序の研究を介して、神経細胞死におけるミトコンドリアシグナル活性化にMAO-Aが関与しているとの新しい知見が得られた。今後、PAのMAO-Aとの結合活性を用いて神経保護薬の活性を定量的に検討する方法を確立し、新しい神経保護薬をデザインすることが可能である。ニホンザルを用いた動物実験で、CSF中の神経栄養因子がPAの神経保護作用のマーカーとなりうることが示された。今後これらのマーカーを用いて世界で初めての神経保護薬としてのPAの臨床治験を開始する予定である。

公開日・更新日

公開日
2006-04-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-10-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500355C

成果

専門的・学術的観点からの成果
経口投与可能な神経保護薬であるpropagylamine化合物 (PA) についてその作用機序と作用点を明らかとした。特にミトコンドリアにおける膜透過性と転写因子活性化について報告した。PAはストレス関連転写因子の活性化を介して神経細胞保護タンパク質を増加させることを証明した。PAさらに、霊長類(ニホンザル)にPA を投与し、脳脊髄液中の神経保護タンパク質が増加することを世界に先駆けて証明した。
臨床的観点からの成果
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)等の認知症に対する現在の治療法は対症療法にしか過ぎず、疾患の進行を抑制することはできない。ADにおける神経変性の機序は不明であるが、種々のモデルにてBCL-2、GDNFなどPAによって増加するタンパク質が細胞死を抑制することが示されている。PAの一部は既に酵素阻害剤として既に臨床使用されており、安全性と脳内移行性は確認されている。PAは近未来的に使用が可能な神経保護薬と考えられる。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
57件
学会発表(国際学会等)
39件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakagawa T., Shimizu S., Watanabe T., et al.
Cyclophilin D-dependent mitochondrial permeability transition regulates some necrotic but not apoptotic cell death.
Nature  (2005)
原著論文2
Shimizu S., Kanaseki T., Mizushima N. et al.
Role of Bcl-2 family proteins in a non-apoptotic programmed cell death dependent on autophagy genes.
Nature cell biology , 6 (12) , 1221-1228  (2004)
原著論文3
Shiraishi H., Sai X., Wang H-Q., et al.
PEN-2 enhances gamma-cleavage after presenilin heterodimer formation.
J. Neurochem. , 90 , 1402-1413  (2004)
原著論文4
Nitta A., Nishioka H., Fukumitsu H., et al.
Hydrophobic dipeptide Leu-Ile protects against neuronal death by inducing brain-derived neurotrophic factor and glial cell line-derived neurotrophic factor synthesis.
J. Neurosci. Res. , 78 , 250-258  (2004)
原著論文5
Maruyama W., Nitta A., Shamoto-Nagai M., et al.
N-Propargyl-1(R)-aminoindan, rasagiline, increases glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) in neuroblastoma cells through activation of NFkappaB transcription factor.
Neurochem. Int. , 44 , 393-400  (2004)
原著論文6
Maruyama W., Akao Y., Naoi M., et al.
Neuroprotection of rasagiline and related propargylamines is mediated by suppression of mitochondrial death signal and induction of antiapoptotic genes.
Oxidative stress, inflammation and Health. , 609-630  (2005)
原著論文7
Yi H., Akao Y., Maruyama W., et al.
Type A monoamine oxidase is the target of an endgenous dopaminergic neurotoxin, N-methyl(R)salsolinol, leading to apoptosis in SH-SY5Y cells.
J. Neurochem. , 96 , 541-549  (2006)
原著論文8
Yi H., Maruyama W., Akao Y. et al.
N-Propargylamine protects SH-SY5Y cells from apoptosis induced by an endogenous neurotoxin, N-methyl(R)salsolinol, through stabilization of mitochondrial membrane and induction of anti-apoptotic Bcl-2.
J. Neural Transm. , 113 , 21-32  (2006)
原著論文9
Shiraishi H., Marutani T., Wang H-Q. et al.
Reconstitution of gamma-secretase by trancated presenilin (PS) fragments revealed that PS C-terminal transmembrane domain is critical for formation of gamma-secretae complex.
Gene to cells , 11 , 83-93  (2006)
原著論文10
Hashimoto M., Nitta A., Fukumitsu H., et al.
Inflammation-induced GDNF improves locomotor function after spinal cord injury.
Neuroreport , 16 (2) , 99-102  (2005)
原著論文11
Cen X., Nitta A., Ohya S., et al.
An analogue of dipeptide-like structure of FK506 increases GDNF expression through CREB activated by Hsp90/Akt signaling pathway
J. Neurosci  (2006)
原著論文12
Maruyama W., Yi H., Takahashi T., et al.
Neuroprotective function of R(-)-1-(benzofuran-2-yl)-2-propylaminopentane, [R-(-)-BPAP], against apoptosis induced by N-methyl(R)salsolinol, an endogenous dopaminergic neurotoxin, in human dopaminergic neuroblastoma SH-SY5Y cells
Life Sci , 75 , 107-117  (2004)
原著論文13
Shamoto-Nagai M., Maruyama W., Akao Y., et al.
Neuromelanin inhibits enzymatic activity of 26S proteasome in human dopaminergic SH-SY5Y cells.
J. Neural Transm. , 111 , 1253-1265  (2004)
原著論文14
Matsumoto K., Akao Y., Yi H. et al.
Overexpression of amyloid precursor protein induces susceptability of oxidative stress in human neuroblastoma SH-SY5Y cells.
J. Neural Transm. , 113 , 125-135  (2006)
原著論文15
Shamoto-Nagai M., Maruyama W., Yi H., et al.
Neuromelanin induces oxidative stress in mitochondria through release of iron; mechanism behanid the inhibition of 26S proteasome.
J Neural Transm.  (2006)
原著論文16
Napo M., Maruyama W., Shamoto-Nagai M., et al.
Oxidative stress in mitochondria: the involvement in neurodegenerative diseases
Oxidative stress, inflammation and Health. , 424-444  (2005)
原著論文17
Naoi M., Maruyama W.
Monoamine oxidase and the inhibitors: involvement in cell death and survival of neurons
Monoamine oxidase inhibitors and their role in neurotrnasmission , 178-193  (2004)
原著論文18
Naoi M., Maruyama W. Shamoto-Nagai M. et al.
Oxidative stress and mitochondria
Molecular Neurobiology , 31 , 1-13  (2005)
原著論文19
Maruyama W., Shamoto-Nagai M., Akao Y., et al.
The effect of neuromelanin on the proteasome activity in human dopaminergic SH-SY5Y cells.
J. Neural Transm.  (2006)
原著論文20
Yan Y., Nitta A., Mizoguchi H., et al.
Relapse of methamphetamine-seeking behavior in C57B/6J mice demonstrated by a reinstatement procedure involving intravenous self administration.
Behav. Brain Res.  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-