痴呆高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究

文献情報

文献番号
200500320A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究
課題番号
H15-長寿-032
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(愛媛大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 直人(高知大学医学部)
  • 荒井 由美子(国立長寿医療センター研究所)
  • 博野 信次(神戸学院大学人文学部)
  • 野村 美千江(愛媛県立医療技術大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
11,207,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦において、少なく見積もっても30万人に上ると考えられる認知症の運転免許保有者が将来的に起こす事故を未然に防止するためには、患者の運転行動に不安をもった家族などがまず訪れる、かかりつけ医の診療などでも簡便に施行できる評価基準が必要である。安全に運転できる群、明らかに安全に運転できない群と、危険が予想される精査が必要な群をスクリーニングし、明らかに安全に運転できない、事故の危険性が極めて高い群を臨床の現場で決定できるような評価基準の作成を目的とした。
研究方法
愛媛大学と高知大学の専門外来の診療録データベースから、初診時に運転を続けていたアルツハイマー病患者(AD)を抽出し、発症後に事故、違反歴のある群とない群に分けて神経心理学的検査のプロフィールを比較した。
結果と考察
事故、違反歴、なんらかの運転上の問題があった者は26名(男:女=21:5、年齢=73.4±9.1)、事故、違反歴がなかった者は23名(男:女=15:8、年齢=70.0±7.8)であった。CDRとMMSEの「場所の見当識」「Serial-7」を比較すると、問題「あり」群を陽性と検出する能力、即ち感度が最も高かったのは”CDR≧2”という基準である。また、問題「なし」群を陰性と検出する能力、即ち特異度が最も高かったのは、”「場所の見当識」、「Serial-7」ともに失点があり、かつCDRが1以上”という基準であった。これらより、“CDR≧2”または、“「場所の見当識」、「Serial-7」ともに失点があり、かつCDRが1”は即時中止を勧める基準として、残りのADは免許センターなどでのドライビングシミュレーターをはじめとした実際の運転行動の詳細な評価を受けることを勧める基準として、用いることができると考えられる。
結論
運転中止は、対象者の社会的孤立を招く原因ともなり、その基準は十分な妥当性を持つ必要があり、設定は慎重に行われる必要がある。欧米では、一定の基準が示され、認知症患者の運転中止に関するシステムが整ってはいるものの、それらの基準の妥当性も確立されているわけではない。実際に運転上の問題を有する群と、家族から見ても問題の認められない比較的安全な運転が保たれていると考えられる群を比較検討した研究はほとんどなく、今回の研究は、今後本邦のみならず世界における高齢者、特に認知症患者の運転問題を議論するうえで有用な指標となりうると考える。

公開日・更新日

公開日
2006-04-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200500320B
報告書区分
総合
研究課題名
痴呆高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究
課題番号
H15-長寿-032
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(愛媛大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 直人(高知大学医学部)
  • 荒井 由美子(国立長寿医療センター研究所)
  • 博野 信次(神戸学院大学人文学部)
  • 野村 美千江(愛媛県立医療技術大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症患者の運転実態を把握し、さらには認知症高齢ドライバーの運転が危険となる状態もしくは中断を勧告すべき要因について明らかにし、運転中止に伴う介護者の介護負担を軽減し、わが国における認知症患者の運転に関するガイドラインづくりに資料を提供する。
研究方法
1)高齢者の運転実態と認知症患者の運転に関する意識調査、2)文献を用いた問題点の整理と諸外国の認知症の運転に関する制度についての検討、3)認知症患者の運転実態調査、4)現在の日本のシステムの問題点の把握と今後の課題、5)認知症ドライバーと介護家族の介護負担の評価と援助のあり方の検討、6)認知症の原因別による運転技能の評価と健常高齢者の運転技能との比較、7)認知症の運転中止基準の検討、から構成される。
結果と考察
高齢者の意識調査では、認知症患者の運転中止に対しては9割以上が賛同していた。一方、認知症患者の運転免許が中止または取り消しとなりうることを知っている者は2割前後と少なかった。また、山間部では、仕事を自動車運転に依存している高齢者が多かった。
初期認知症患者で車の運転中止を勧告された例に対する継続的支援の結果、運転中止までには長期間を要すること、その間に交通事故を発生させていること、家族の依存や生活上の必要性が大きい場合は、事故の発生回数や医師の勧告に関わらず、運転中止が難しいことが明らかになった。
認知症患者がその経過中に、事故のリスクが増大することは繰り返し報告されており、いずれかの段階で運転を中止することが求められるが、認知症の診断のみに基づくのではなく、個々の患者の運転能力の評価を行うことが必要である。患者の運転技能は、一般臨床現場で行われる認知機能評価や全般的重症度の評価のみでは、特に、軽度の患者やピック病などの行動異常が主要な症状である認知症では予測することはほとんど不可能であり、最終的には妥当性の高い実地運転機能評価法により判断されなくてはならない。
アルツハイマー病に関しては、事故群と非事故群の検討から、“CDR≧2”または、“「場所の見当識」、「Serial-7」ともに失点があり、かつCDRが1”であれば即時中止を勧める、”それ以外であれば実際の運転行動の詳細な評価を受けて最終決定をすることが妥当である。
結論
認知症の自動車運転の中止に関するシステムが確立と中止を余儀なくされた認知症高齢者やその家族に対する支援が、同時に一日も早く実現するために、本報告書のデータが活用されることになれば幸いである。

公開日・更新日

公開日
2006-04-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500320C