福祉資金貸付制度の効果と課題に関する研究

文献情報

文献番号
200500015A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉資金貸付制度の効果と課題に関する研究
課題番号
H16-政策-004
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
青木 紀(北海道大学大学院教育学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田美香(北海道医療大学看護福祉学部)
  • 六波羅詩朗(国際医療福祉大学医療福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 「格差社会」の固定化傾向は子どもたちの教育に影響を与え、就学援助受給世帯や授業料免除・滞納の増加傾向はその現れである。こうした背景の下、本研究では低所得世帯に対する教育費援助施策のあり方に注目したが、先行研究では育英会奨学金の分析以外には皆無であった。そこで日本学生支援機構の奨学金貸付とは別の、補完的位置にある福祉サイドの修学資金、すなわち生活福祉資金貸付制度(以下、生活資金)と母子及び寡婦福祉資金貸付制度(以下、母子資金)における修学貸付資金に焦点を当て、その効果と課題を検証し政策充実に寄与することを目的とした。
研究方法
 平成15年度には、北海道を対象に生活資金のアンケート調査を終え、16年度には北海道を対象に母子資金のアンケート調査を実施し(有効分析票622)、17年度にはその分析を行ったうえで、アンケート対象者の中からインタビュー調査も行った。また、全国母子自立支援員に対するアンケート調査も実施した(有効分析票96)。加えて、これまでの調査が北海道が中心であったことから、サンプリングの偏りを解消すべく、長野県を対象に生活資金アンケート調査(有効分析票81)とインタビュー調査も実施した。なお個人保護情報には十分な配慮を行った。
結果と考察
 両資金とも利用者世帯の年収の低さが、教育費調達のための複数ローンを組ませていた。また、借り入れ効果を「卒業」で見ると、約9割近くが「卒業」「在学中」となっていた。就職した場合の常勤・正規雇用の割合は、生活資金では高校で約6割、大学で8割であった。母子資金では、高校・大学ともにあまり差がなく約8割であった。さらに、償還を「滞納」で見ると、生活資金の高校利用、母子資金の高校利用では、地域差はあるが、高いところでは4割が滞納していた。運用面では、保証人問題や手続きのための時間の確保と、母子自立支援員が積極的に対応できない支援者側の課題も浮き彫りとなった。
結論
 様々な課題を孕みつつも、この制度がなければ、不利な位置にある子どもや若者の不利は増幅するであろう。とくに効果という点では、大学の場合には就職も正規雇用が多く、その専門を生かしている場合も多い。しかし一方で、返還に伴う「大変さ」や、その後の利用者の自立の困難さを考えると、若者の間の不平等を消し去るものではない。そこには、就労問題などの構造的問題も横たわっている。また一部の要援助世帯には、単に資金の貸し付けだけではないサポートが求められているが、そのサポートが功を奏するものになるかどうかは、母子自立支援員などの支援者の雇用・労働条件整備が必要となる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200500015B
報告書区分
総合
研究課題名
福祉資金貸付制度の効果と課題に関する研究
課題番号
H16-政策-004
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
青木 紀(北海道大学大学院教育学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 美香(北海道医療大学 看護福祉学部)
  • 六波羅 詩朗(国政医療福祉大学 医療福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 「格差社会」の固定化傾向は子どもたちの教育に影響を与え、就学援助受給世帯や授業料免除・滞納の増加傾向はその現れである。こうした背景の下、本研究では低所得世帯に対する教育費援助施策のあり方に注目したが、先行研究では育英会奨学金の分析以外には皆無であった。そこで日本学生支援機構の奨学金貸付とは別の、補完的位置にある福祉サイドの修学資金、すなわち、生活福祉資金貸付制度(以下、生活資金)と母子及び寡婦福祉資金貸付制度(以下、母子資金)における修学貸付資金に焦点を当て、その効果と課題を検証し政策充実に寄与することを目的とした。
研究方法
 平成15年度には、北海道を対象に生活資金のアンケート調査を終え、16年度には北海道を対象に母子資金のアンケート調査を実施し(有効分析票622)、17年度にはその分析を行った上で、アンケート対象者の中からインタビュー調査も行った。また、全国母子自立支援員に対するアンケート調査も実施した(有効分析票96)。加えて、これまでの調査が北海道が中心であったことから、サンプリングの偏りを解消すべく、長野県を対象に生活資金アンケート調査(有効分析票81)とインタビュー調査も実施した。なお、個人保護情報には十分な配慮を行った。
結果と考察
 両資金とも、利用者世帯の年収の低さが、教育費調達のための複数のローンを組ませていた。また、借り入れ効果を「卒業」で見ると、約9割が「卒業」「在学中」となっていた。就職した場合の常勤・正規雇用の割合は、生活資金では高校で約6割、大学で8割であった。母子資金では、高校・大学ともにあまり差がなく約8割であった。さらに、償還を「滞納」で見ると、生活・母子資金の高校利用では、地域差はあるが、高いところでは4割が滞納していた。運用面では、保証人問題や手続きのための時間の確保と、母子自立支援員が積極的に対応できない支援者側の課題も浮き彫りとなった。
結論
 様々な課題を孕みつつも、この制度がなければ、不利な位置にある子どもや若者の不利は増幅するであろう。とくに効果では、大学の場合には就職も正規雇用が多く、その専門を生かしている場合も多い。しかし一方で、返還に伴う困難さや、その後の自立の困難さを考えると、若者の間の不平等を消し去るものではない。そこには就労問題などの構造的問題が横たわっている。また一部の要援助世帯には、単に資金の貸し付けだけではないサポートも求められているが、その援助機能を十分に発揮するためにも、母子自立支援員などの支援者の雇用・労働条件整備が必要となる。さらに将来的には、公立高校の教育費の無償化も考慮していかなければならない。

公開日・更新日

公開日
2006-04-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 生活福祉資金制度と母子及び寡婦福祉資金制度の修学資金に関わる現状分析を通し、その効果と問題点を考察した。その結果、これらの資金は、日本学生支援機構奨学金の補完的意味をもっており、中でも中等教育・高等教育修学援助は大きな意味をもっている。しかし、もともと「家族依存」度の高い日本の教育費制度の中では、なお不利を是正し、不平等をなくすまでの効果を果たしているとはいえない。さらに制度の効果的運用のためにもソーシャルワークの充実が求められる。
臨床的観点からの成果
 制度の運用においては、このような資金を合理的に利用して目標を遂行できない世帯も少なくない。こうした家族に対しては、貸付「制度」の充実だけではなく、資金貸し付けの手続きから返済計画をも含めた運用面において、子どもと家族に対する効果的なソーシャルワークが求められている。
ガイドライン等の開発
特になし 
その他行政的観点からの成果
 上記に述べたソーシャルワークの充実を図っていくにも、例えば現行の母子自立支援員は非常勤職が中心であり、積極的な援助をしたくともできない状態にある。援助者の労働・雇用条件の改善が必要である。また、日本の教育費負担における「家族依存主義」のもとでは、こうした貸付制度も子どもや若者たちの不平等を是正することにはならない。高校進学率が9割を超えている現状にあっては、将来的には公立高校の無償化も考慮していかなければならないであろう。 
その他のインパクト
 NHKテレビ「日本のこれから:格差社会」、およびHTBテレビ「イチオシ:格差社会」において取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
鳥山まどか・岩田美香
母子寡婦福祉資金(修学資金)貸付制度の現状と課題に関する調査結果
教育福祉研究 ,  (11) , 43-66  (2005)
原著論文2
鳥山まどか・岩田美香
母子寡婦福祉資金(修学資金)貸付制度の現状と課題に関する調査結果報告
母子寡婦福祉資金(修学資金)貸付制度の現状と課題に関する調査結果報告書(北海道大学大学院教育福祉分野) , 1-49  (2005)
原著論文3
岩田美香・鳥山まどか
母子福祉資金貸付制度に関する母子自立支援員への調査結果報告
教育福祉研究 ,  (12) , 141-187  (2006)
原著論文4
鳥山まどか
貧困・低所得世帯への教育費支援―生活福祉資金貸付制度を中心に―
社会福祉学 , 46 (1) , 40-50  (2005)
原著論文5
鳥山まどか・岩田美香
生活福祉資金(修学資金)貸付制度の現状と課題に関する調査結果
教育福祉研究 ,  (12) , 123-140  (2006)
原著論文6
青木紀
貧困・低所得家族の教育戦略から何が見えるか―教育社会学の課題―
北海道大学大学院教育学研究家紀要 ,  (97) , 105-126  (2005)
原著論文7
青木紀
子どもの発達を豊かにする生活・教育保証の方向―ライフチャンスの平等―
総合社会福祉研究 ,  (28) , 15-21  (2006)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-