出生率回復の条件に関する人口学的研究

文献情報

文献番号
200500008A
報告書区分
総括
研究課題名
出生率回復の条件に関する人口学的研究
課題番号
H15-政策-015
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
河野 稠果(麗澤大学大学院国際経済研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 速水融(麗澤大学国際経済学部)
  • 黒須里美(麗澤大学外国語学部)
  • 金子隆一(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
7,370,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は二つの視点から出生率の回復の条件を明らかにしようとする。第1は歴史的視点に立って、1930年代の欧米諸国における人口置換水準以下の低出生率からの回復の経験を学ぶことであり、第2は人口統計学的分析方法・モデルを用いて出生力変動のメカニズム・要因を明らかにし、出生率回復の条件を探ろうとするものである。
研究方法
A.歴史的研究
主として文献と統計に基づく人口・社会経済的分析、および人口・家族政策の研究である。今年度はフランス、イギリス、そしてアメリカ東海岸の人口専門機関・大学を訪問し主要な人口研究者とインタービューを行なった。
B.現代日本の出生力計量分析
希望子ども数実現を阻害する人口学的、社会経済的要因を考え、それが緩和された場合のシミュレーション分析研究等を行った。
結果と考察
(1)人口・家族政策の効果は一般に正の方向に働くが小さい。結婚・出産のタイミングを促進する効果はあっても、完結出生児数を増加させる効果はほとんど認められなかった。
(2)ジェンダーに十分配慮した社会制度と政策の実施が出生率回復に重要である。現在合計出生率1.6以上の先進国は女性や子どもにやさしい政策を行っている。
(3)江戸時代後半東北二本松藩では出産の経済的支援と堕胎・間引きの禁止を行い、人口減少が止まり増加に転じた。
(4)日本および東アジア諸国の近年の超少子化の状況・背景には欧米諸国とは共通の部分と異なるところがあり、総合的な観察・研究が必要である。例えば、日本も東アジア諸国も過去に出生抑制政策を行った時期があり、欧米では全くみられない歴史的経験である。
(5)シミュレーション分析を行い、日本の高学歴化が加齢による女性の妊孕力の衰退と高キャリアによる機会費用増加の結果に伴って出生率を縮小させる効果を計量した。
結論
日本の場合調整(コーホート)合計出生率は現在1.45前後で、期間合計出生率1.29より幾分高く、晩婚・晩産化が止まればそこまで回復できる余地がある。ただし、初婚年齢が高くなりすぎると回復はむずかしくなる。さらに北欧の経験に従い、適切な育児・就業両立支援策や女性と子どもにやさしい社会制度の実現によって、1.7~1.8の水準まで上昇する可能性もある。強い経済回復と結びつくときに特に有効である。

公開日・更新日

公開日
2006-05-19
更新日
-

文献情報

文献番号
200500008B
報告書区分
総合
研究課題名
出生率回復の条件に関する人口学的研究
課題番号
H15-政策-015
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
河野 稠果(麗澤大学大学院国際経済研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 速水融(麗澤大学国際経済学部)
  • 黒須里美(麗澤大学外国語学部)
  • 金子隆一(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は二つの視点から出生率の回復の条件を明らかにしようとする。第1は歴史的視点に立って、1930年代の欧米諸国における人口置換水準以下の低出生率からの回復の経験を学ぶことであり、第2は人口統計学的分析方法・モデルを用いて出生力変動のメカニズム・要因を明らかにし、出生率回復の条件を探ろうとするものである。
研究方法
A.歴史的研究
主として文献と政府統計に基づく人口・社会経済的背景、および人口・家族政策に関する分析である。さらに欧米の人口専門機関・大学を訪問し、著名な研究者とインタビューを行った。
B.現代日本の出生力計量分析
第1は、人口構造的要因と出生率との関係を厳密に定量化する作業である。第2は、出生変動のメカニズムに関する既存の理論・仮説の検証を行った。第3として、希望子ども数実現を阻害する人口学的、社会経済的要因を考え、それらが緩和された場合のシミュレーション分析を行った。
結果と考察
(1)北・西ヨーロッパにおける1940・50年代の出生率回復は、経済不況・戦争によって延期された結婚・出産のキャッチアップ、経済の回復、政策的効果によるが、中でも経済の回復は大きな要因である。
(2)人口・家族政策の効果は一般に正の方向に働くが小さく、各国の社会・文化的背景の違いが大きい。北欧諸国等の近年の出生率上昇は、概して延期された出生率の回復である。
(3)経済の向上とジェンダーに十分配慮した政策の実施が出生率回復に必要である。現在合計出生率が1.6以上の先進国は女性や子どもにやさしい政策を行なっている。
(4)1970年代から始まった少子化過程前半では年齢構造変化の影響が大きく、後半では晩婚・非婚化の要因が圧倒的であった。しかし80年代の終わりから夫婦の意図的な出生行動変化が大きくなった。
(5)シミュレーション分析を行い、晩婚化・非婚化が加齢による女性妊孕力の衰退に伴って出生率を縮小させる効果を分析した。女性の高学歴化の効果も小さくない。出生率回復の条件として、機会費用の減少と女性の第1子出産の早期化が重要である。
結論
日本の場合調整合計出生率は期間合計出生率に比べ幾分高く、晩婚・晩産化が止まれば現在値より回復できる余地がある。さらに北欧の経験に従い、育児・就業両立支援策や女性と子どもにやさしい社会制度の実現によってそれ以上上昇する可能性もある。

公開日・更新日

公開日
2006-04-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1) 20世紀に欧米において1930年代に出生率が置換水準以下に低下し、後に回復したケースが一度あるが、それがなぜ起きたのかを解明し、さらに北・西ヨーロッパが現在日本より出生率がかなり高いところから、国際比較研究を通じて日本の出生率回復の条件を探ることに貢献した。
2) 人口統計学の視点から過去における出生率変動のメカニズムについて定量モデル化を構築しシミュレーション分析を行ったが、これに関連して分担研究者金子隆一は米国人口学会等で成果を発表し、国際的にそのモデルの精緻性を評価された。
臨床的観点からの成果
該当しない。
ガイドライン等の開発
なし。
その他行政的観点からの成果
なし。
その他のインパクト
1) 日本経済新聞朝刊2006年2月17日「経済教室」人口減少と生きる: 低出生率 先進国での構造化(河野稠果)
2) 公開シンポジュウム2005年11月19日上智大学比較文明学会シンポジュウム「人口減少時代をいかに迎えるか(河野稠果)
3) 厚生労働所政策科学推進事業公開シンポジュウム2006年2月24日「少子高齢化とどう向き合うか」出生率回復の条件に関する人口学的研究、東京都千代田区大手町JAビル(河野稠果)

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
黒須里美
ドイツ・スイスにおける出生率変動の経験と現在
麗澤大学紀要  , 81  (2005)
原著論文2
別府志海
初婚行動におけるイースタリン仮説の検証
恩賜財団母子教育会『政策科学推進研究事業研究業績報告書』平成16年度  (2005)
原著論文3
別府志海
期間出生率のタイミング効果と無子割合の分析
恩賜財団母子教育会『政策科学推進研究事業研究業績報告書』平成16年度  (2005)
原著論文4
別府志海
日本及び東アジア諸国における超低出生率とタイミング効果の分析
恩賜財団母子教育会『政策科学推進研究事業研究業績報告書』平成17年度  (2006)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-