精神分裂病の発症脆弱性の解明および その客観的な診断方法の確立

文献情報

文献番号
200400728A
報告書区分
総括
研究課題名
精神分裂病の発症脆弱性の解明および その客観的な診断方法の確立
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 洋夫(東北大学大学院医学系研究科(精神神経学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 曽良一郎(東北大学大学院医学系研究科(精神・神経生物学分野))
  • 谷内一彦(東北大学大学院医学系研究科(細胞薬理学分野))
  • 川島隆太(東北大学未来科学技術共同研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 昨年度までの臨床研究で、統合失調症(旧 精神分裂病)の脆弱性における前頭葉機能の重要性が明らかになったので、近赤外線分光法(NIRS)を用いて前頭葉機能の評価方法と治療反応性を検討する。基礎研究では、脆弱性の神経ネットワークと神経伝達物質(ドパミン[DA]、ノルエピネフリン[NE]、ヒスタミン[H])の両面から病態解明をすすめる。
研究方法
 精神生理学研究では、「心の理論」課題として物語創造課題を用い前頭葉皮質の血流変化をNIRSで計測した。分子遺伝学研究では、NEとDAの相互作用を中心にプレパルス・インヒビション(PPI)を用いて検討した。神経薬理学研究では、社会的隔離ストレスモデルを用いて発症脆弱性に関するストレスの役割について検討した。神経心理学研究では、事象関連機能的MRIで、抽象概念的な報酬と罰の事象を体験する際の脳活動を特に文脈との関連で検討した。これらの研究は十分な倫理的配慮のもとで行われた。
結果と考察
 精神生理学研究により、患者群では左内側前頭前野の血流変化が有意に減少しており、自己の心理状況を基に他者の心理状況を推測するような記憶の利用・操作に障害があり、それが第2世代抗精神病薬で改善されることを示した。分子遺伝学研究により、NEトランスポーター(NET)阻害が、DAトランスポーター(DAT)ノックアウト(KO)マウスにおける前頭前野皮質の細胞外DA濃度を上昇させることから、DAT-KOマウスの認知機能の改善には前頭前野皮質でのNET阻害が有効であり、DAとNE神経系の相互作用が示唆された。神経薬理学研究により、社会的隔離マウスでは自発運動量が減少しPPIを低下させ、さらにメタアンフェタミンの逆耐性モデルではPPIがさらに抑制され、H1拮抗作用がストレスによる精神障害の発現を抑えることが示唆された。神経心理学研究により、帯状回前部、前頭前野内側面、右前頭前野背外側部の活動が文脈と深く関連し、これらの領域が新しい環境に適応する時などに重要な働きを担うと考察した。
結論
 統合失調症の脆弱性に関して、PPIを用いた基礎研究で複数のモノアミン系神経伝達物質が関与すること、NIRSを用いた臨床研究で意味処理や記憶処理の障害が関与することを示し、前頭葉を中心とした神経ネットワークの障害が重要でそれが治療反応性にも関係することを示した。今後は、PPI簡便法とNIRSの本格的な臨床応用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2005-04-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200400728B
報告書区分
総合
研究課題名
精神分裂病の発症脆弱性の解明および その客観的な診断方法の確立
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 洋夫(東北大学大学院医学系研究科(精神神経学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 曽良一郎(東北大学大学院医学系研究科(精神・神経生物学分野))
  • 谷内一彦(東北大学大学院医学系研究科(細胞薬理学分野))
  • 川島隆太(東北大学未来科学技術共同研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 統合失調症(旧 精神分裂病)の発病や慢性化の基盤となる脆弱性の神経機構をトランスレーショナル研究によって解明し、早期治療、予後予測のための臨床指標を開発する。このため、(1)神経伝達を制御する遺伝子の欠損マウスを用い分子生物学的基盤を明らかにする。(2)脆弱性の中核となる認知機能に関わる神経ネットワークと神経伝達物質を神経心理学、神経薬理学の手法で特定する。(3)患者を対象に、精神生理学の手法を用いて予後や薬物反応性に関わり、一般臨床に導入できる臨床指標を開発する。
研究方法
 精神生理学研究では、患者を対象に事象関連電位と近赤外線分光法(NIRS)により潜在記憶や社会認知を評価した。神経薬理学的研究では、ヒスタミンのノックアウト(KO)マウスや社会的隔離ストレスモデルを用いて脆弱性におけるヒスタミン神経系の役割を検討し、患者でのヒスタミン受容体の変化も調べた。神経心理学研究では、健常者を対象に機能的MRIにより潜在記憶や社会認知に関連する神経ネットワークを検討した。分子遺伝学研究では、モノアミンKOマウスを用いドパミン(DA)異常によるプレパルス・インヒビション(PPI)障害に対するセロトニン(5-HT)やノルエピネフリン(NE)の影響を検討した。これらの研究は十分な倫理的配慮のもとで行われた。
結果と考察
 精神生理学研究により、疾病重症度を規定する反復プライミングの減弱が左前頭前野を中心とした神経ネットワーク異常によって起こること、さらに治療反応性の指標としてNIRSによる前頭葉機能評価が重要であることを示した。神経薬理学的研究により、H1拮抗作用がストレスによる精神症状の発現を抑制し、患者ではH1受容体が前頭葉で低下していることを明らかにした。神経心理学研究により、反復プライミングや社会認知に前頭葉を中心とした神経ネットワークが関与することを示し、臨床研究の妥当性を検証した。分子遺伝学研究により、DA神経伝達異常による感覚運動情報制御障害が5-HTとNEによって調整されることを明らかにした。
結論
 統合失調症の病態解明と治療に役立つ指標の開発を目指してトランスレーショナル研究が行われた。これにより、複数の神経系が病態に関係していることを明らかにし、臨床研究につながる新たな研究の架け橋を築いた。さらに脆弱性の臨床指標を明らかにし、特に重症化や治療反応性の評価にPPIとNIRSが役立つことを指摘した。

公開日・更新日

公開日
2005-04-28
更新日
-