医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究

文献情報

文献番号
200400154A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民医療費が急騰を続けるなか、予防への期待が高まっている。すなわち、疾病予防や健康増進を通じて生活習慣病の発生(悪化)を予防できれば、国民医療費も減るのではないかという期待である。この期待は論理的に妥当なものだが、それを実証した研究は少ない。本研究の目的は、予防を基調とする保健医療が医療経済に及ぼす効果を実証的に示して、新しい保健医療の在り方を提言することである。
研究方法
第1に、宮城県大崎保健所管内の国民健康保険加入者全員約5万人を対象に、基本健診結果(高血圧・高血糖・肥満)と医療費との関連などを解析した。第2に、平成5年より町ぐるみで健康づくり運動を展開し、今では医療費が減少している福島県西会津町について、その過程を実証的に解明した。第3に、糖尿病で受療中の約3千人を対象に、糖尿病の合併症が医療費に及ぼす影響を解析した。
 なお本研究では、東北大学医学部倫理委員会の承認のもと、対象者からの同意取得や個人情報の厳重な保管などで適正な措置を講じており、倫理面の問題は存在しない。
結果と考察
肥満・高血圧・高血糖のない者に比べて、その1つを有する者の医療費は各々1.05倍、1.30倍、1.42倍であったが、3項目が集積した群の医療費は1.99倍になった。西会津町では、町ぐるみで健康づくりを展開するなかで、栄養や運動習慣で大きな改善があり、この10年間で脳卒中既往歴の頻度が半減した。糖尿病患者の医療費は、循環器疾患の合併で1.93倍、腎症の合併で1.74倍、網膜症の合併で1.68倍になった。糖尿病患者の医療費総額のうち36%が、これら合併症によるものであった。
 健診後に適切な事後指導や治療を行うこと、とくに早期のうちに適切な生活習慣指導・疾患管理を行って他疾患の合併を予防することの費用対効果が示唆された。
結論
予防を基調とする保健医療が医療経済に及ぼす効果を実証的に示すために、生活習慣や動脈硬化危険因子が医療費に及ぼす影響、町ぐるみの健康づくりの進展とともに医療費が減少している事例、糖尿病医療費における合併症の影響を解析した。これらの知見はすべて、生活習慣病の予防と管理を通じて医療費を節減できる余地が大きいことを示唆している。今後さらに予防を基調とする保健医療の費用対効果を検討して、「健康フロンティア戦略」や医療保険制度改革に向けた政策提言を試みる所存である。

公開日・更新日

公開日
2005-04-08
更新日
-