国民のニーズに適合した地域保健行政組織の構造・機能・マンパワーのあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301387A
報告書区分
総括
研究課題名
国民のニーズに適合した地域保健行政組織の構造・機能・マンパワーのあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
林 謙治(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根智史(国立保健医療科学院公衆衛生政策部)
  • 兵井伸行(国立保健医療科学院人材育成部)
  • 武村真治(国立保健医療科学院公衆衛生政策部)
  • 須藤紀子(国立保健医療科学院生涯保健部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
19,420,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
行財政改革、地方分権、規制緩和などの推進により、保健所や市町村などの地域保健行政組織のあり方が模索されている。しかしこれまでの研究では、個々の組織の実態が把握されているに過ぎず、システム全体としての地域保健行政組織の構造・機能・マンパワーのあり方に関する知見は全く得られていない。本研究は、わが国および諸外国の地域保健行政組織の構造・機能・マンパワーの実態を把握し、国民にとって必要なサービスの量・質・内容の観点からそれらを評価し、効果的かつ効率的な地域保健行政組織及び地域保健システムのあり方を検討することを目的とする。
研究方法
今年度は、以下の4つの研究を実施した。①わが国の保健所及び市町村の組織体制と活動実績の評価的側面である「パフォーマンス」の実態を把握することを目的として、全国の保健所を設置する80政令市・特別区、保健所を設置しない3,124市町村、都道府県が設置する438県型保健所、政令市・特別区が設置する138都市型保健所を対象に、平成16年1月、郵送により自記式調査票を配布・回収した。調査項目は、マンパワー、情報の収集・整理・活用、調査・分析・研究、健康危機管理、健康政策開発、健康日本21地方計画の策定・推進、関係機関・団体との連携などのパフォーマンスであった。②諸外国の地域保健行政組織の組織体系や機能の実態と今後の動向を把握することを目的として、ドイツ連邦共和国および韓国の実態(国・地方自治体レベルの保健衛生組織の名称、組織数、組織の管轄人口、組織の所掌事務、組織の責任者の資格要件の有無とその根拠など)を調査した。ドイツについては、研究協力者の講演、インターネットなどの国内での情報収集、韓国については現地訪問調査を実施した。③わが国における地域保健行政従事者のリーダーシップ開発のあり方を検討することを目的として、新しい時代に求められる保健所の役割と保健所長のリーダーシップをテーマにシンポジウムを開催し、そのあり方を検討した。またアメリカの州や郡の保健衛生部局長に対するリーダーシップ研修をおこなっているPublic Health Leadership Institute(PHLI)を訪問し、公衆衛生分野におけるリーダーシップの研修内容について調査を実施した。④地域保健におけるニーズやニーズアセスメントの概念を明確にすることを目的として、ヘルスプロモーション、コミュニティヘルス、ソーシャルマーケティングなどをキーワードとした海外の文献をレビューした。
結果と考察
①アメリカで開発されたTurockのパフォーマンス指標を用いて測定した結果、市町村のパフォーマンスは全体的に低く、政令市・特別区は高かった。県型保健所は地域住民に関連するパフォーマンス(住民に関する情報の収集・把握、住民団体との連携など)が低かった。地域保健行政組織のCore Functionのうち、Policy Development機能は一連のプロセスとして推進されていなかった。また政令市・特別区、保健所はAssessment機能の中でも健康危機管理に関する情報の収集・分析を独立した機能として認識していた。②わが国の保健所に相当する組織として、ドイツ連邦共和国では州の責任のもとで公衆衛生事務所が設置されていた。また韓国では、市・道では保健環境研究院、市・郡・区では保健所が設置され、必要に応じて、複数の保健支所が邑・面・洞レベルに設置されていた。また両国ともに、保健衛生組織の専門職員に対する資格要件は法的に明記されていた。ド
イツ連邦共和国の公衆衛生事務所は、健康危機管理、食品衛生、精神保健、保健医療サービスの質の保証などを所管しているが、従来州政府が所管していた予防接種、結核や他の集団検診、健康教育やカウンセリングなどが疾病保険の対象に含まれ、健康増進や予防が公衆衛生サービスから消えることによって、人々にとってより見えにくく規模の小さなものになっていた。韓国では、保健所は診療所の機能を持っていた。また両国ともに、サービスの質や効率を向上させるために、専門職員のcompetency、特にマネジメント、コミュニケーションスキル、リーダーシップなどが求められていた。③保健所長のリーダーシップとしては、特にマネジメント能力が重視されており、PHLIの研修内容をみても、地域におけるパートナーシップの構築や交渉術、コミュニケーションなど、組織の内外における連絡調整能力を養成するものが多かった。リーダーシップの開発には、事例研究や臨地実習など受講生が能動的に考え、応用力を身につけるようなものが有効であることから、わが国の地域保健行政従事者の研修にこれらを積極的に取り入れていくとともに、事例の蓄積による事例集の作成やテキストの開発、PHLIで使用されているようなリーダーシップ開発のための新しいツールの導入などが求められる。④healthに関連したニーズといった場合、そこには健康問題の定義が含まれるが、それは決して無色透明のものではなく、何らかの価値観を含んだものであるため、地域住民、保健医療従事者、政策決定者それぞれの価値観が反映されたニーズが存在する。またニーズアセスメントは、最終的に何らかの意思決定に関わるもの、つまり、意思決定をも含むプロセスとして認識されなければならず、捉えられたニーズと実際の事業計画・制度改革をつなげるロジカルなモデルが必要となる。
結論
保健所や市町村などの地域保健行政組織のパフォーマンスの改善、保健所長のリーダーシップの向上のために、アメリカで開発されたツールを適用することは有効である。今後は、他の諸外国における取り組みのわが国への適用可能性を検討するとともに、わが国の制度、社会、文化の特性を考慮した独自のツールを開発する必要がある。さらに健康関連ニーズの把握方法、及びパフォーマンスやリーダーシップの向上がニーズとその充足度に及ぼす影響に関する理論的・実証的研究を推進する必要がある。

公開日・更新日

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