健康で豊かな水環境を創造するための新しい水管理システムの可能性―その戦略的構築と支援技術開発(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200301369A
報告書区分
総括
研究課題名
健康で豊かな水環境を創造するための新しい水管理システムの可能性―その戦略的構築と支援技術開発(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山本 和夫(東京大学環境安全研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大瀧雅寛(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
  • 岡部聡(北海道大学大学院工学研究科)
  • 浦瀬太郎(東京工業大学大学院理工学研究科)
  • 亀屋隆志(横浜国立大学大学院工学研究院)
  • 高梨啓和(鹿児島大学工学部)
  • 長岡裕(武蔵工業大学工学部)
  • 伊藤禎彦(京都大学大学院工学研究科)
  • 遠藤銀朗(東北学院大学工学部)
  • 尾崎博明(大阪産業大学工学部)
  • 津野洋(京都大学大学院工学研究科)
  • 松井佳彦(岐阜大学工学部)
  • 湯浅晶(岐阜大学流域科学研究センター)
  • 渡辺義公(北海道大学大学院工学研究科)
  • 小越真佐司(下水道事業団)
  • 福士謙介(東京大学環境安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
17,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地球及び地域(コミュニティ)の持続可能性(Sustainability)は、3Es(Economy, Environment, Equity)が同時に機能して初めて成り立つと考えられている。しかし、水という公の財産を管理する社会技術として、従来の水技術開発にはこのような考えは欠如していた。また、「持続可能性」を支える経済産業構造として、メンテナンス産業の重要性を挙げたい。付加価値を生む財やサービスの生産のみの経済産業構造から、付加価値を再生するメンテナンスを中心とした経済産業構造への転換がわが国の熟成期を迎えた社会構造において迫られている。高度成長期の大量消費社会から、循環型社会への転換においても、長寿命製品とそのメンテナンスの確立が不可欠である。このような視点で、従来の水システムを構成する技術群を見直すと、効率を優先するあまりスケールメリットを追求したような大量生産型の価値観に基づく技術開発の結果として実現してきたものが多く、必ずしも地球環境時代における持続可能な維持管理のあるべき姿とは言えない。また、このような集中管理型のシステムでは、コミュニティの求める水環境と自治体が与えるそれとの間には大きな隔たりができることも考えられる。水管理を自主的に行うことによりコミュニティが自ら定めるリスクや快適さを実現することが可能となるだけではなく、自主的に管理することから地域水環境に対するオーナーシップを体感し、水環境管理に関する教育程度の向上が期待できる。また、これらの活動に対する産業需要も創出可能である。
本研究は上に述べる研究目的を達成するため、平成14年度には理想的な水システムのあり方の模索を行うと同時に現存する水浄化要素技術の高度化を研究し、15年度は14年度に提案されたコミュニティレベルの自律的水管理手法を実現するための水浄化技術・評価技術の開発と高度化を実践してきた。
研究方法
平成14年度に行われた研究活動を元に研究班構成を1)総括班、2)水システム間インターフェース技術の開発班、3)リスク評価・モニタリングの研究班の三班に分け、研究活動を推進してゆく
1)水システム総合開発斑(総括斑)
個別浄水技術、管理技術、モニタリング技術などを総合的に判断し、研究グループ内外の連携・調整や助言、開発された諸技術の検証などを行う母体として総括斑というべき「水システム総合開発斑」を設置する。この斑は総括班会議、幹事会議などを通じ、水システムのあり方を論議し、研究班の進捗状況の管理や方向・結果に関する助言、研究グループ間の調整・連携、外部有識者による研究の評価企画などが総括班の役割である。
2)水システム間インターフェース技術開発班
この研究班では、コミュニティレベルの自律的水管理システム間のインターフェース技術の確立に関する研究を行う。コミュニティレベルの自律的水管理システムでは、たとえば、一般市民も参加できる維持管理、多様な入力に対応したシステム、多様な要求される出力に対応したシステム、いままでの大規模な循環系では見過ごされていたリスク因子に対応する多様な技術を開発する必要がある。また、エネルギー消費の増加やコストの増加をこうしたコミュニティレベルの自律的水管理システムは生じる可能性があるが、その程度をある範囲に抑える必要がある。この研究項目では、こうした要求にこたえる技術開発のために、重要な要素を占める微生物関連リスクの低減に大きな役割を果たす膜分離技術を中心に、他に光触媒、オゾン処理、タンパク質結合による浮上分離などの物理化学処理を中心として計画研究を構成した。
3)リスク評価・モニタリング研究班
本研究班はコミュニティレベル水管理システムを実質的かつ効率的に運用していくための基本となる評価・管理手法の検討を目的とする。本研究で個別の水管理システムが持続型となるためには、コミュニティレベルで個別の評価・管理運用が可能である自律型を目指す必要があり、そのためには個別の基準策定及び基準履行が可能となるような実質的かつ実行可能な評価・管理手法、およびその明確化された手順の提案が必須のものである。これらの目的を達成するためには研究者毎で別個に行われてきた水質管理・評価手法の統合化を目指す必要があり、かつ達成度の高い個々の研究が有機的に結びつく必要がある。本研究において本班を設定する理由はそこにある。本班では上記の点に鑑み、次の点に焦点を当て、それを遂行するための研究を設定する。
1. 利用者の安全性・生活環境の健全化を実質的に確保するために、統合型水質評価法を提案し、利用者参加型の評価・管理運用のための情報発信手法の検討を行う。またそのための必要基礎研究としてシステム内の総合リスク評価のための流域研究を行う。
2. 上記の項目の達成のために必要な水質評価・管理手法の手順化およびその簡易化を目的とする。またこれらの手法を水システム間インターフェース技術の開発班の研究と連携させて応用発展させる。
以上の目的を達成するため、1)コミュニティにおける水質健全度のモニタリング評価と市民向け情報発信手法の検討。2)Ames試験変異原性試験による小規模水システムの安全性評価の計画研究を設定する。しかし本計画研究ではリスク評価の定量化に関しては充実しているものの、コスト-ベネフィットを含めた最適リスク管理手法およびリスクコミュニケーションについての研究は総括班研究者と共同で実施する。
結果と考察
平成14年度は本研究の主任研究者・分担研究者と関連する分野の民間企業の研究者の参加の下、将来の水システムのあり方およびそれを支える高度水処理技術の今後の展望についてワークショップ形式を重ねてきた。具体的には、分散型、あるいは地球環境配慮型の新しい水道システムの可能性及び循環型下水処理システムの可能性と微生物リスクや変異原性を含めたリスク評価の問題、新しい循環型水システムに組み込むための新しい膜分離技術の可能性、微生物の2次増殖を指標とした浄水プロセスの評価等をトピックスとして取り上げてきた。平成15年1月には環境工学委員会40周年記念シンポジウムにおいて「健康で豊かな水環境を創造するための新しい水システムの可能性」と題したパネルディスカッションを行い14年度研究の成果として提唱された「コミュニティレベルの自律的水管理システム」の可能性をさらに深く論議した。一方、この思想を実現するためには現存の要素技術を超える物を開発する必要がある。14年度は当初の計画によるとその技術開発の準備期間として位置づけられており、15年度以降において遂行される「コミュニティレベルの自律的水管理システムを支える要素技術の開発」の本格的な活動のため様々測定装置の立ち上げや基礎データの収集を行った。メンブレン研究分野においては山本主任研究者、長岡、浦瀬分担研究者などが今までのメンブレン技術の適用範囲を超越した領域を開拓する先進的な研究を行った、たとえば、近年海水淡水化の需要増により価格が下がっているナノろ過膜と活性汚泥を組み合わせ、単一のプロセスで高度な浄化効果を期待できるナノメンブレンバイオリアクターを提案し小規模かつ高効率な浄化プロセスを開発している。一方、システム評価の手法のひとつとして採択した高度バイオアッセイによる水質評価も高梨分担研究者などにより実施されている。この手法は未知の汚染物質を生物を用いて見知する手法であり、近年格段の進歩を遂げている。
結論
平成15年度は本研究グループとして「コミュニティレベルの自律的水管理」を標榜し、総合的なシステムの成り立ちを模索すると同時に、新しいシステムに対応する技術群の開発にも力を入れてきた。技術的な研究内容は基本的には高度に水を浄化するプロセスの開発と水を高感度かつ多角的に評価する方法の開発の二つに分類される。高度処理の分野は主にメンブレンによる高度処理、吸着による高度有害物質除去技術、そして小規模循環型水利用では問題となりやすい病原微生物を不活化させる高度な消毒技術の開発にターゲットを絞っている。一方、水の評価面ではバイオアッセイを主な評価ツールとして開発を進めている。

公開日・更新日

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