地域・職域での糖尿病予防教育の長期効果に関する無作為割付介入研究

文献情報

文献番号
200301348A
報告書区分
総括
研究課題名
地域・職域での糖尿病予防教育の長期効果に関する無作為割付介入研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岡山 明(国立循環器病センター予防検診部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木一幸(岩手医科大学医学部内科学第一講座)
  • 日高秀樹(三洋電機連合健康保険組合保健医療センター)
  • 上島弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学教室)
  • 島本和明(札幌医科大学医学部内科学第二講座)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学講座)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学公衆衛生学講座)
  • 板井一好(岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
10,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は急速な増加傾向にあるが、長期予防に関する研究はきわめて不十分である。本研究は無作為割付介入研究の手法を用いて糖尿病予防健康教育の長期効果継続の要因を明らかにするものである。初年度の平成15度は基本プロトコールの作成、参加施設募集、指導用教材の整備、および6ヶ月の重点指導を行うと共に、長期フォロー体制を整備した。
研究方法
糖尿病予防効果を明らかにするための介入デザインおよび、介入期間、血液検査の管理方法について検討した。糖尿病予防効果と肥満との関連を解析し、肥満指導の基準および指導方法を整備した。さらに糖尿病に効果的な運動を行うための教材の整備を行った。自己管理の指標として自己血糖測定の有効性を検討し指導のタイミングとそろえた、測定管理方法を確立した。研究に協力を依頼するため、各都道府県、市町村および企業に研究の趣旨と参加条件を示した研究参加申込書を送付し、平成14年11月、平成15年2月に研究参加を検討中の施設に対する説明会を実施した。更に研究に参加を表明した施設に対して平成15年3月、5、8,10月および平成16年1月に実務研修会を実施し計164名の参加者を得た。
結果と考察
1.基本プロトコール
年間の糖尿病発症率を10%として、放置した場合4年間の追跡によって40%が糖尿病を発症するものとした。適切なフォローによって糖尿病の発症率が30%軽減されるものとして標本数を計算したところ1群の標本数が303名となった。40%改善するとすると1群165名となった。そこで安全を見込んで対象者を1群250名とし総計500名の対象者を募集することとした。
2.指導用教材の開発
(1)教材の基本的な構成
知識のポイントは栄養、運動、肥満の3つのポイントにわたる。肉類と魚類を比較させエネルギー摂取が主に脂肪の量で決定しており、肉の種類を変えたり、「肉から魚へ」変化させることで、量を減らすことなくエネルギー摂取が減少可能であることを示した。食品一回摂取量あたりの脂肪とエネルギーとの関連を示した教材は同じ量の菓子類を摂取した場合であっても、脂肪の多いお菓子と脂肪の少ないお菓子ではエネルギー摂取が大きく異なることをわかりやすく示し、「洋菓子より和菓子」の考え方を説明した。支援用の教材は食事の選択を促す教材として4日間の食事記録用紙、2週間のヘルシーライフ手帳を用いることとした。更に運動では歩数計を用いて、日々の運動状況を、エネルギー摂取状況と比較しながら把握可能となるよう配慮した。また対象者がビデオをみながら効果的な運動を行えるものとした。更に血糖を自分で測定することで自己管理意識を高めるため自己採血キットを導入し、定期的な測定を行うことで、血糖値と食事の内容や運動の状況との関連を把握できるようにした。
(2)栄養指導の方法
エネルギー摂取制限を行う場合、摂取量の減少は指導上の困難が大きいと考えられるため、指導方針を2段階に行うことが望ましいと考えられた。第1の方針は脂肪の摂取量の減少を計ることである。指導者は脂肪の多い食品から脂肪の少ない食品への転換を促す要指導する。具体的には肉から魚や大豆製品への変更、油脂の多いパン・麺類から少ないパン麺類への変更、脂肪の多いお菓子から少ない菓子への変更を促す。第2の方針は摂取量そのものの制限を行う。摂取量の制限は、実行に困難を伴うことが多いので、指導の際には対象者の意欲を十分考慮して、目標を設定する必要がある。これらの指導ポイントを効率よく指導するには栄養のアセスメントが重要となる。従来我々が開発した栄養アセスメント法は、エネルギーや脂肪摂取量が比較的正確に測定できる反面、調査者の技量によっては正確度が不十分な可能性が考えられた。そこで、調査者の負担を軽減して、指導ポイントに沿って、エネルギーや糖質、脂質の摂取量を把握可能な調査票と調査用キットを開発し指導ポイントが容易に示されるよう配慮した。本研究ではアセスメントの結果から得たエネルギー摂取量と現在のBMIを比較して、BMIを適正に保つためのエネルギーを求めた。更にこのエネルギー摂取をバランスよく保つための主要栄養素の値を計算から求めるとともに、寄与する食品の割合を計算から求めた。
(3)運動指導用教材
運動を始めた初期は食欲が亢進することが多いので、当初から食事制限を併用することは本人の意志を十分確認した上で行うことが望ましい。むしろ運動が定着した時期(1ヶ月程度)を見計らい体重の減少を目標と定めるべきである。定期的な運動は効果があっても持続することは困難である。むしろ短期的な運動として定期的な運動メニューを使用し、運動習慣を長期に維持する目的では普段の身体活動度を増やすアドバイスが効果的と考えられる。そこで本研究班では、定期的な運動で持続しやすいものとして、ウォーキング、ダンベル体操、セラバンド体操を導入することとした。運動のポイントをまとめ短時間にポイントを説明可能なビデオを作成し、指導ポイントを対象者が把握しやすいよう配慮した。
(4)減量指導法
どのような対象に減量指導を行うのが効果的かを検討するため、6ヶ月の健康教育の前後でBMIレベル別にHbA1cの改善効果を検討した結果、BMIが大きい対象のみでなく、やせでない対象にも減量指導を拡張する必要があると考えられる。また、減量効果は肥満の有無にかかわらず同じと考えられた。また男女でも同様であった。以上の点から、体重減少を促す対象はBMIが22kg/㎡を下回らないもの全員を対象とすることとした。
(5)研究実施マニュアルの作成
各施設のスクリーニングおよび指導スケジュールを把握して円滑な実施体制を確保するため、研究事務局を岩手医科大学内に置くこととした。円滑な研究実施のため研究実施マニュアルを作成した。各施設はこのマニュアルに沿って対象者を募集し、指導するものとした。マニュアルには指導時期に必要な帳票類を整備し、コピーするのみで使用可能なよう配慮した。
3.参加施設の現状
実務研修会は平成14年度および15年度計5回実施した。地域職域別では当初市町村などの地域が多かったが、日本産業衛生学会などでの展示により、職域施設の参加が得られ最終的には職域から26施設が研修会に参加した。実務研修会では、糖尿病予防のための基本的な考え方、本研究班で開発した教育教材の使いこなし、対象者の特性の効果的な把握方法の習得を目指した。更に研究のための実施手順について実務マニュアルに沿って検討し細部の訂正と確認を行った。本研究班では実務研修会に参加しない指導者の指導は認めないこととしたことから、希望に応じ追加研修を各地で実施した。
4.研究実施状況
平成16年3月現在研究に参加している施設は43カ所となった。平成16年度に参加予定施設は12カ所である。現在男性が201名、女性が140名で計341名であった。
5.長期フォローアップ教材
教科指導終了後5年間無理のない形で糖尿病を効果的に予防するための取り組みとして以下の方針の下に教材を作成した。対象者には本文書を綴じ込んだファイルを渡し、今後送るものは全てここに綴じるよう依頼した。栄養・運動・体重管理が重要となるので6ヶ月指導の際に別紙の目標設定シートに基づいて今後の目標を立てる。原則として4ヶ月を単位として目標設定と評価を行う。評価シートは食事・運動・肥満・血糖測定4つの項目からなる。本人の意欲や客観的な状況に応じて目標を設定し、目標設定により、「チャレンジコース」、「基本コース」、「着実コース」の3種類とする。どのコースでも選択できるものは同じだが、項目の数が異なる。4ヶ月毎に記録済みシートを所属センターまたはサポートセンターより返却する。一定の点数が獲得した時点で参加者の継続意欲を高めるものを進呈するシステムを構築した。
結論
糖尿病予防の長期効果を検証するための研究班の初年度として、研究プロトコールの検証、研究実施マニュアルの作成、参加施設の募集、指導用教材の開発をおこなった。本研究では参加施設の募集を平成14年10月から継続的に実施した。参加意志を表明した施設に対する実務研修会の受講者は124名に達した。平成16年3月現在参加を確定した施設数は43カ所であり、すでに対象者で341名の参加を得ている。さらに平成16年度には12施設の参加を見込んでいる。本研究で必要とする500名に対し、ほぼデザイン通りの参加者を得ることが出来る予定である。平成16年度は当初計画どおりすべての参加施設で6ヶ月間の集中指導を終了し、長期支援効果に関する研究に移行する予定である。

公開日・更新日

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