効果的な健康づくり対策のための地域の環境評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301341A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的な健康づくり対策のための地域の環境評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
川久保 清(共立女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 李廷秀(東京大学)
  • 下光輝一(東京医科大学)
  • 砂川博史(萩健康福祉センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健康日本21」における健康づくり対策として重視されているのは、地域・職域の健康づくり支援環境の評価とそれに基づいた政策的・環境対策である。本研究は、運動・栄養・休養・喫煙に関する健康づくり支援環境を政策と規制、情報・教育、物理的環境、住民行動の把握の面から評価する調査票を作成し、地域・職域を評価し、介入のための指標を作成することを目的とした。平成13年度は、文献研究と職域調査から健康づくり支援環境評価項目を明らかにし、平成14年度の地域における健康づくり支援環境評価票作成の基礎とした。平成14年度は、住民の健康づくり(身体活動・運動、たばこ、ストレス(休養・こころの健康づくり)、アルコール、栄養・食事)のための支援環境を地域保健担当者側から評価する調査票を作成し、全国市町村の実態調査を行うことにより、地域が備えるべき環境的条件を明らかにすることを目的とした。平成15年度は、住民側の地域環境評価調査票を作成し、住民個々人の健康行動との関連を検討することを目的とした。また、住民側の調査を異なる地域でおこなうことにより、地域によって住民側の環境の認識が異なるかどうかについても検討した。住民の生活習慣を身体活動・運動、たばこ、ストレス(休養・こころの健康づくり)、アルコール、栄養・食事として、それぞれの支援環境を政策・規制、情報・教育、物理的環境、の面から、住民自信が評価する調査票を作成し、住民自身の健康行動との関連を検討した。本研究の結果は、これから健康づくりに取り組む地域にとって、どのような環境問題に取り組むことで、住民の健康づくりに寄与できるのかについて明らかにすることができる。調査票の作成及び分析評価については、身体活動・運動を川久保主任研究者、たばこを李 廷秀分担研究者、ストレス・アルコールを下光輝一分担研究者、栄養・食事(食生活)を砂川博史分担研究者が担当した。
研究方法
住民に対する健康づくり支援環境についての調査票は、平成14年度調査の市町村保健担当者向け調査票を参考にし、住民側に聞く形式に変換して作成した。身体活動・運動分野の環境評価項目として、ウオーキング以外の運動環境についての質問項目10項目、ウオーキングについての周辺環境についての質問項目22項目を設定した。たばこ分野の環境評価項目は15項目、栄養・食事(食生活)に関する評価項目は12項目、アルコールに関しては12項目、ストレスに関しては7項目設定した。各項目については、「全くそう思わない」の0から、「全くそう思う」の5の数字を丸印で囲む回答形式とした。調査対象者自身の健康行動に関しては、運動習慣については、ウオーキング以外の運動やスポーツについて行っているかどうかを「はい、いいえ」で回答する形式とした。ウオーキングについては、週に歩く時間を回答する形式とした。たばこに関しては、現在たばこを吸っているかどうかを「はい、いいえ、やめた」で回答する形式とした。食生活については、「食生活に気をつけている」、「三食きちんと食べるようにしている」の設問を設定した。飲酒については、お酒を飲むかどうかと1日の平均飲酒量を調査した。ストレス関連では、ストレスを感じているかどうか、睡眠によって休養が十分とれているかどうか、等4問設定した。調査対象地域は東北地方のA市、中国地方B市、東京都C区とした。対象者は、A市では、市民健康づくりシンポジウム参加者213人及び市の職員138人とした。B市では市役所職員104人とし、配布回収した。C区では平成11~15年に開催された5回の12週間ウオーキングセミナー参加経験者53
5人に郵送調査し、回答のあった238人を調査対象とした。分析は、回答者を健康行動によって層別し、各群別に環境評価の回答結果を比較する方法で行った。同様の検討を調査した3地域毎に行い、結果が地域によって差があるかどうかの検討を行った。
結果と考察
身体活動・運動領域については、週1回以上の運動習慣の有無によって、環境評価の点数を比較した。運動の促進要因としての環境評価点数については、運動習慣有り群の方が評価点数が高かった。学校施設のスポーツ開放については、両群で差がなかった。阻害要因については、忙しい、疲れているなどは運動無し群の方が高い点数であった。地域別に検討した結果、地方都市であるA市とB市は似た結果であり、都心のC区では、運動促進要因の環境に関してはすべて有意差がないが、評価点数は高い結果であった。都心のC区ではこれらの要因が満たされているが、運動習慣に結びついていないことが推察された。普段1週間に歩く時間が210分以上とそれ未満に分けて比較した。よく歩くものは歩道への近接性の評価が高かった。かし、歩道の幅、安全性、清潔感、などの評価は差がなかった。歩道そのものの状態より近接性が歩く時間と関連していることが推察された。地域別の検討では、対象人数が少なくなることもあり、有意差がある項目は少なくなった(川久保)。喫煙領域については、分析対象全体では喫煙者が10.9%、男女別では、男性の27.7%、女性の2.7%が現在喫煙中であった。喫煙対策として、「歩きたばこ・ポイ捨て禁止条例の実施」については、実施すべきだと回答した人の割合は全体の84.4%と高く、非喫煙者では89.4%が実施すべきだと回答したのに対し、喫煙者では54.1%が実施すべきだと回答し、喫煙者と非喫煙者の回答に有意な差が認められた。「歩きたばこ・ポイ捨てに対する罰則」についても同様であった。「歩道に灰皿の設置」をすべきか否かについては、全体の59.9%が設置すべきでないと回答し、喫煙者の38.2%、非喫煙者の62.9%は設置すべきでないと回答した。「たばこ自販機の撤去」については、全体の43.4%が撤去すべきであると回答し、喫煙者では6.7%、非喫煙者では49.4%が撤去すべきだと回答した。「たばこ税の増税」を実施すべきか否かについては、全体の50.8%が実施すべきだと回答し、喫煙者では増税を実施すべきとした回答は6.6%にすぎなかったが、非喫煙者では58.2%が増税すべきだと回答した。「公共施設の完全禁煙」の実施については、全体では73.4%が実施すべきだと回答し、喫煙者の23.7%、非喫煙者の80.0%が実施すべきだと回答した。「喫煙者に対する公的禁煙指導・教育」の実施については、全体の65.3%が実施すべきだと回答し、喫煙者の24.0%、非喫煙者の70.7%は実施すべきだと回答した。「喫煙者に対する禁煙補助用品の無償配付」については、全体の35.4%が配布すべきだと回答し、喫煙者の30.6%、非喫煙者の36.1%が配布すべきだと回答し、喫煙状況別の差はみられなかった。この傾向は、A市、B市、C区でも同様であった。「小・中学校におけるたばこ教育」を実施すべきとしたのは全体の85.3%、喫煙者では67.1%、非喫煙者の87.8%が実施すべきだと回答した(李)。アルコール対策について「今後実施されるべきだと思いますか」(必要度)は全般的に高評価であった。多くの項目で、年齢、性による有意差が認められた、性と対象により評価が異なることが認められた。ストレスに関しては、「ストレスを感じている」と回答したものは男性72.9%、女性68.8%で、性による差は認められなかった。ストレス対策に関しての必要度はすべての調査項目で低い評価であった。特に「ストレスについての相談窓口がある」は男性、女性、全対象群で2以下であったが、「相談窓口利用のための広報」はすべての対象群で3以上であった(下光)。栄養・食事(食生活)領域に関して、「食生活に気をつけている」に対しては、4・5点を示す肯定的答が70%を超え、「三食きちんと食べる」については80%を超えた。食生活改善について必要と思うかに関して、「食品の安全性に関する情報」については、肯定的志向が87%、「学校での食の教育」で
は75%の肯定的回答率があった。一方、「市町村栄養士による栄養相談サービス」には肯定的回答は50%弱で、「食生活改善推進員による栄養指導」では、40%足らずであった。「ヘルシーメニュー提供店を増やす」が肯定的回答率53%を得たが、「食品を選ぶときに栄養成分表示を参考にする」、「飲食店を選ぶときにヘルシーメニュ等の有無を参考にする」、「栄養成分等の表示をしている飲食店を増やす」は何れも50%未満の必要度であった。特に、飲食店の選択の基準に、ヘルシーメニューや栄養成分表示を置くという志向は、40%未満であった。食生活に気をつけたり、特別の関心や配慮がある人たちは、各項目への関心度や肯定的態度が大きい傾向があった。また、女性の方が関心度や肯定的態度が高かった。肥満度による層別の解析では、有意差はなかった(砂川)。
結論
住民の健康づくりにとって重要な支援環境について検討する目的で、住民の健康行動に関連のある環境因子を検討した。本研究により住民の健康行動と関連のある地域の環境評価指標を、身体活動・運動、喫煙、ストレス、アルコール、栄養・食事領域毎に示すことができた。今後は、地域毎にここで示された項目に介入を行って住民の健康行動への影響を評価していく必要がある。

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