文献情報
文献番号
200301332A
報告書区分
総括
研究課題名
構造・過程・結果のアプローチからの保健所機能の総合評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大井田 隆(日本大学医学部公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
地域保健法施行後、保健所は機能強化が求められているが、機能強化を推進するためにはその評価手法を開発する必要がある。しかしこれまでの研究では、地域住民の健康水準などの結果がほとんど把握されておらず、保健所機能の質の側面である構造、過程、結果が総合的・包括的に評価されていない。本研究は、地域保健法において明示された保健所機能を、構造・過程・結果のアプローチから把握し、それらの関係性を包括的に分析し、保健所機能を総合的に評価するための方法論を開発することを目的とした。
研究方法
①全国の都道府県、市区町村、保健所を対象とした平成14年度調査の自由回答を用いて、保健所機能(情報機能、調査研究機能、研修機能、健康危機管理機能、健康日本21推進機能、企画調整機能)の構造・過程・結果の因果関係を質的に分析し、保健所機能強化が結果(地域保健サービスの質の向上、地域住民の健康水準の向上など)に至るまでの因果モデルを構築した。②全国の591保健所を対象とした平成14年度調査のデータを用いて、保健所機能の構造(統計解析ソフトの保有、ホームページの開設、年報・業務報告の次年度事業への反映、調査研究の公表、調査研究による施策提言の取得、研修のための施設・設備の充足、健康危機に対する実地訓練の主催・参加、健康危機活動マニュアルの作成、管内市町村の健康日本21地方計画の策定・中間評価への支援、保健所主催の会議への参加機関・団体など)と、機能強化による効果(保健所・市町村の円滑な運営、地域保健サービスの質の向上、地域住民の健康水準の向上など)に対する認識との相関を分析した。③平成13~15年度の各年度、全国の保健所を対象に実施した調査のデータを用いて、健康危機管理機能の整備状況(実地訓練の主催・参加状況、活動マニュアルの作成状況、職員の24時間勤務体制、情報の一元的な集約体制、被災住民への保健活動の実施体制、PTSDなどのメンタルヘルス対策の実施体制)の時系列分析を行った。
結果と考察
①保健所機能の効果に関するシステムモデルとして、保健所システムの構築、保健所システムのアウトプットの向上、衛生行政システム(保健所、市町村、他の行政部門)の構築、衛生行政システムのアウトプットの向上、健康志向システム(衛生行政システム、地域住民)の構築、健康志向システムのアウトプットの向上、社会システムの構築、の7段階で構成され、それぞれが原因と結果の連鎖構造をもつ因果モデルが構築された。全ての保健所機能の効果は「保健所システムの構築」から「衛生行政システムのアウトプットの向上」まで及んでいた。さらに調査研究機能の効果は「健康志向システムの構築」まで、情報機能の効果は「健康志向システムのアウトプットの向上」まで、健康日本21推進機能の効果は「社会システムの構築」まで及んでいた。また健康危機管理機能の効果は「健康志向システムの構築」に及ばないにも関わらず、「健康志向システムのアウトプットの向上」に及んでいた。そして情報機能は保健所機能の基盤であり、それを強化することによって他の保健所機能も強化され、それらを介した間接的な効果を及ぼしていた。②情報機能に関しては、県型・都市型保健所ともに、ハード面(コンピューターやホームページの設置)よりもソフト面(住民の生活習慣データの把握・整理・解析、地方衛生研究所との協力体制、年報・業務報告の次年度事業への反映)の整備の方が効果につながると認識していた。調査研究機能に関しては、県型保健所では、調査研究の実施・公表・施策への反映といった実績の大きい保健所の方が機能強化の効果が大きいと認識していたが、都市型保健所
では相関がみられなかった。研修機能に関しては、県型保健所では、ハード面(施設・会場、プレゼンテーション機器)よりもソフト面(研修の目標設定・評価システムの構築)の整備の方が効果につながると認識していたが、都市型保健所では相関がみられなかった。健康危機管理機能に関しては、県型・都市型保健所ともに、構造と機能強化の効果に対する認識との相関はみられなかった。健康日本21推進機能に関しては、県型保健所では、管内市町村の健康日本21地方計画の策定・評価への支援を積極的に推進していくことが機能強化の効果につながると認識していた。企画調整機能に関しては、県型・都市型保健所ともに、保健所主催の会議に幅広い分野の関係者が参加し、幅広い分野の関係者の会議に保健所が参加することが効果につながると認識していたが、自治会・町内会、一般住民の会議への参加と機能強化の効果に対する認識との相関はみられなかった。③健康危機に対応するための実地訓練の主催は17%から37%に、関係機関・団体の実地訓練への参加は28%から56%に、健康危機発生時の情報の一元的な集約体制の整備は61%から86%に、被災住民への対人保健活動の実施体制の整備は56%から69%に増加しており、体制整備が進展していた。一方、健康危機発生時の活動マニュアルを作成している保健所は増加したが、感染症・食中毒の集団発生以外の内容は3~5割と半数以下であり、特に都市型保健所では、爆発・火災・原子力・化学物質などによる事故、廃棄物・処理場・工場などからの有害物質による汚染、自然災害に伴う健康被害は1~3割と少なく、今後はマニュアル作成を推進するための情報提供や教育研修などの方策を検討する必要がある。また健康危機発生時の被害状況に応じた職員の24時間勤務体制の整備は5~6割で大きな変化はみられず、PTSDなどのメンタルヘルス対策の実施体制の整備は29%から41%に増加したものの半数以下であり、今後のさらなる機能強化が必要である。
では相関がみられなかった。研修機能に関しては、県型保健所では、ハード面(施設・会場、プレゼンテーション機器)よりもソフト面(研修の目標設定・評価システムの構築)の整備の方が効果につながると認識していたが、都市型保健所では相関がみられなかった。健康危機管理機能に関しては、県型・都市型保健所ともに、構造と機能強化の効果に対する認識との相関はみられなかった。健康日本21推進機能に関しては、県型保健所では、管内市町村の健康日本21地方計画の策定・評価への支援を積極的に推進していくことが機能強化の効果につながると認識していた。企画調整機能に関しては、県型・都市型保健所ともに、保健所主催の会議に幅広い分野の関係者が参加し、幅広い分野の関係者の会議に保健所が参加することが効果につながると認識していたが、自治会・町内会、一般住民の会議への参加と機能強化の効果に対する認識との相関はみられなかった。③健康危機に対応するための実地訓練の主催は17%から37%に、関係機関・団体の実地訓練への参加は28%から56%に、健康危機発生時の情報の一元的な集約体制の整備は61%から86%に、被災住民への対人保健活動の実施体制の整備は56%から69%に増加しており、体制整備が進展していた。一方、健康危機発生時の活動マニュアルを作成している保健所は増加したが、感染症・食中毒の集団発生以外の内容は3~5割と半数以下であり、特に都市型保健所では、爆発・火災・原子力・化学物質などによる事故、廃棄物・処理場・工場などからの有害物質による汚染、自然災害に伴う健康被害は1~3割と少なく、今後はマニュアル作成を推進するための情報提供や教育研修などの方策を検討する必要がある。また健康危機発生時の被害状況に応じた職員の24時間勤務体制の整備は5~6割で大きな変化はみられず、PTSDなどのメンタルヘルス対策の実施体制の整備は29%から41%に増加したものの半数以下であり、今後のさらなる機能強化が必要である。
結論
①保健所機能の効果は、保健所システムの構築→アウトプットの向上、衛生行政システムの構築→アウトプットの向上、健康志向システムの構築→アウトプットの向上、社会システムの構築、の段階で構成され、研修機能、企画調整機能は衛生行政システムのアウトプットの向上まで、調査研究機能は健康志向システムの構築まで、情報機能、健康危機管理機能は健康志向システムのアウトプットの向上まで、健康日本21推進機能は社会システムの構築まで、効果が及んでいた。また情報機能は他の保健所機能の強化を介した間接的な効果も及ぼしていた。②保健所は情報機能、企画調整機能の「構造」の整備が機能強化の効果につながると認識していたが、健康危機管理機能の「構造」の影響はほとんどみられなかった。また県型保健所と都市型保健所の間で、目指すべき「結果」や整備すべき「構造」に対する認識が異なっていた。③平成13~15年度の間、健康危機に対応するための実地訓練の主催・参加、健康危機発生時の情報の一元的な集約体制の整備、被災住民への対人保健活動の実施体制の整備は推進されていた。しかし感染症・食中毒の集団発生以外の健康危機発生時の活動マニュアルの作成、健康危機発生時の被害状況に応じた職員の24時間勤務体制の整備、PTSDなどのメンタルヘルス対策の実施体制の整備は十分に推進されていなかった。
公開日・更新日
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