ダイオキシン類標的組織における障害性発現機構の解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301309A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類標的組織における障害性発現機構の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山田 英之(九州大学大学院 薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 手塚雅勝(日本大学 薬学部)
  • 石田卓巳(九州大学大学院 薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、現在、地球規模で注目されている環境汚染物質であり、ヒトを含む生体への影響が懸念されているのは周知の事実である。本研究では、ダイオキシン類の毒性と heat shock protein 70 (HSP70) の発現量との間に何らかの関連性があるものと仮定し、HSP70 の誘導剤である geranylgeranylacetone (GGA) を用い、TCDD による口蓋裂および水腎症の発生に対する効果について検討を行った。また、HSP70 発現変動と TCDD 毒性軽減との関連性について更なる情報を得るため、HSP70 誘導剤[carbenoxolone (CBX) および curcumin] および HSP70 発現抑制剤(quercetin)を用い、TCDD の毒性に対する影響を検討した。
一方、TCDD の長期曝露により肺の扁平上皮ガンの発生が報告されており、arylhydrocarbon receptor (AhR) との関連性が注目されている。そこで本研究では、肺ガン由来細胞の増殖におけるダイオキシン類および AhR 活性化の影響を検討した。
研究方法
1)TCDD の催奇形性におよぼす GGA の影響: 妊娠 12 日目の C57BL/6J マウスに GGA を 200 mg/kg 経口投与し、同日に TCDD を 10 _g/kg 単回経口投与した。その後、同量の GGA を連続投与したのち、妊娠 18 日目に胎仔を摘出し、腎臓と口蓋の組織像を観察した。2)HSP70 発現変動と TCDD 毒性軽減との関連性: 5 週令の C57BL/6J 系雄性マウスに CBX を 100 mg/kg 経口投与し、その 30 分後に TCDD 100 _g/kg を単回経口投与した。この日を投与 0 日目として、同量の CBX を 14 日間連続経口投与した。次に、5 週令 C57BL/6J 系雄性マウスに、curcumin を 100 mg/kg 経口投与し、その 2 時間後に TCDD を 200 _g/kg もしくは 100 _g/kg 単回経口投与した。投与翌日より同量の curcumin を連続経口投与し、毒性指標を観察した。さらに、quercetin による TCDD 毒性への影響について検討するため、5 週令 C57BL/6J 系雄性マウスに、quercetin を 100 mg/kg 経口投与し、その 6 時間後に TCDD を 100 _g/kg あるいは 10 _g/kg 単回経口投与した。この日を投与初日として、翌日より同量の quercetin を連続経口投与し、毒性指標を観察した。次に、CBX、curcumin および quercetin による TCDD 毒性の修飾機構を明らかにするため、HSP70 mRNA 発現量、AhR の機能的変化および TCDD による酸化的ストレスとの関連性を、それぞれ半定量的 reverse transcriptional-polymerase chain reaction (RT-PCR) 法、ethoxyresorufin O-deethylase (EROD) 活性および肝臓における thiobarbituric acid reactive substances(TBARS)値を用いて検討した。3)肺由来細胞の増殖におけるダイオキシン類ならびに AhR の活性化の影響: エンハンサー部分に E2F 結合部位を含むルシフェラーゼ遺伝子を E2F, AhR ならびに AhR nuclear translocator (Arnt) の結合ベクターとともに A549 細胞中にトランスフェクションし、共存下におけるルシフェラーゼ活性の変化を観察した。また、E2F、AhR ならびに Arnt を過剰発現させ免疫沈降を行い、それらの相互作用について検討を行った。
結果と考察
1)TCDD の催奇形性におよぼす GGA の影響: 妊娠した C57BL/6J 系雌性マウスに GGA および TCDD を投与した結果、GGA は、TCDD による口蓋裂や水腎症の要因と考えられる腎盂の拡張に対して効果を示さないことが明らかとなった。2)HSP70 発現変動と TCDD 毒性軽減との関連性: C57BL/6J 系雄性マウスを用いて検討した結果、CBX の併用により、TCDD による体重増加抑制および致死性が増強されることが明らかとなった。また、この毒性増強機構に AhR の活性化は関与しないことが示唆された。一方、curcumin および quercetin を併用した場合、TCDD による体重増加抑制が軽減される傾向にあることが明らかとなった。また、この機構について、HSP70 mRNA の発現変動、AhR 活性化および酸化的ストレスの発生といった観点から検討を行ったが、いずれの指標においてもその機構を説明するには不十分であった。3)肺由来細胞の増殖におけるダイオキシン類ならびに AhR の活性化の影響: E2F, AhR ならびに Arnt 発現 A549 細胞中におけるルシフェラーゼ活性の変化を観察した結果、AhR および Arnt の共存化においてのみ細胞周期制御に関わる転写因子 E2F 依存的なルシフェラーゼ活性の上昇が観察された。また、E2F の存在は、AhR/Arnt の転写活性を低下させ、さらに、E2F、AhR ならびに Arnt を過剰発現させた細胞の抽出液を用いて免疫沈降を行った結果、E2F と AhR/Arnt の共沈が認められた。
結論
本研究の結果、GGA は、TCDD による口蓋裂や腎盂拡張に対して効果を示さないことが明らかとなった。また、GGA と同様、HSP70 の誘導剤である CBX では、TCDD による体重増加抑制および致死性が増強され、さらに、HSP70 の誘導剤である curcumin およびHSP70 発現抑制剤である qu
ercetin では、TCDD による体重増加抑制が軽減される傾向にあることが明らかとなった。ダイオキシンの毒性軽減(傾向)効果が観察されたcurcumin や quercetin は、植物性食品や嗜好品に多く含まれる。従って、ダイオキシン類曝露による中毒症状に対する予防という観点から、毎日の食事を通じて摂取することが可能であるこれら栄養素の摂取は、有効な手段の一つと考えられる。本研究では、この毒性軽減および毒性増強機構を明らかにすることは出来なかったが、本成果から引き継がれる新たな取り組みが、ダイオキシン類による健康障害に対する治療法および予防法の確立に寄与するものと期待される。
また、A549 細胞において、AhR および Arnt の共存化においてのみ E2F 依存的なルシフェラーゼ活性の上昇が観察された。また、E2F の存在は、AhR/Arnt の XRE 配列に対する転写活性を低下させることが明らかとなった。さらに、E2F、AhR ならびに Arnt を過剰発現させ免疫沈降を行った結果、E2F と AhR/Arnt の共沈が認められた。以上の結果から、E2F は AhR/Arnt と複合体を形成したのち、転写活性を上昇させることが示された。これらの結果は、ダイオキシンの発ガンプロモーター作用の機構の一部を説明できるものと考えられる。

公開日・更新日

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