家庭用品における製品表示と理解度との関連及び誤使用・被害事故との関連の検証に関する研究

文献情報

文献番号
200301301A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭用品における製品表示と理解度との関連及び誤使用・被害事故との関連の検証に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(財団法人日本中毒情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 波多野弥生(財団法人日本中毒情報センター)
  • 真殿かおり(財団法人日本中毒情報センター)
  • 荒木浩之(財団法人日本中毒情報センター)
  • 島田祐子(財団法人日本中毒情報センター)
  • 遠藤容子(財団法人日本中毒情報センター)
  • 前野良人(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 飯塚富士子(財団法人日本中毒情報センター)
  • 黒木由美子(財団法人日本中毒情報センター)
  • 鹿庭正昭(国立医薬品食品衛生研究所療品部)
  • 中島晴信(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
26,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、家庭用化学製品に含まれる化学物質に起因する中毒や、家庭用ゴム・プラスチック、繊維製品、抗菌製品等に起因する慢性的な健康被害について、発生状況や原因製品-原因化学物質の関連性等を明らかにし、製品表示内容から消費者がこれらの健康被害を予測できるかという観点から、現在の表示内容を分析することである。
最終目的は、得られた結果から家庭用品の表示内容を評価するシステムを構築することと、単なる表示内容のガイドラインではなく、製品表示の作成手順を含むシステムを開発することである。
研究方法
上記研究目的に沿って、今年度は下記の調査・研究を行う。
1.消費者の製品表示理解度に関するアンケート調査
2.製品表示作成者の危険認識度に関するアンケート調査
3.家庭用化学製品による誤使用・被害事故の実態調査
4.誤使用による被害事故発生商品の製品表示、記載内容の分析と各種関係法律、自主基準等の調査
5.洗剤・洗浄剤に起因する誤使用・被害事故に関する詳細調査
6.家庭用殺虫剤・防虫剤・園芸用品に起因する誤使用・被害事故に関する詳細調査
7.乾燥剤類・化粧品・家庭用雑貨等の誤使用・被害事故に関する詳細調査
8.家庭用品の誤使用・被害事故の発生状況、原因物質と臨床症状、重症度の検討
9.家庭用ゴム・プラスチック・繊維製品に起因するアレルギー性接触皮膚炎等の慢性的な健康障害に関する原因究明及び発生防止のための情報提供手段としての製品表示の評価に関する研究
10.抗菌製品による健康障害の原因究明と防止のための製品表示法の評価に関する研究
結果と考察
1.消費者の製品表示理解度に関するアンケート調査:私立薬科大学卒業者800名を対象に、スプレー型殺虫剤とポット洗浄剤について前年度と同様のアンケート調査を実施した。消費者は製品表示が健康被害事故防止に役立つと考えているが、現在の製品表示ではまだ十分な情報を得ていないことが判明した。改善策として、健康被害事故の症状、事故防止の具体的な情報を記載することが考えられた。
2. 製品表示作成者の危険認識度に関するアンケート調査:洗浄剤・漂白剤等安全対策協議会に所属の67社にアンケート調査を行い32社から回答を得た。1)一般的な健康被害事故事例は31社が認識していたが、自社製品で同様の事故が発生する可能性があると考えたのは10社、死亡する場合もあると考えたのは8社のみであった。2)製品表示を作成する資料としてはMSDSが最も多く利用され、日本中毒情報センター(JPIC)からの事故発生状況の報告が製品表示の作成に役立つと29社が考えた。3)JPICから事故発生状況の報告が迅速に行えるように、業者名から該当製品による事故事例が検索できるデータベースを構築した。
3. 家庭用化学製品による誤使用・被害事故の実態調査:2001~2002年にJPICで受信した事例52,803件について、受信時に電話で聴取した内容をもとに、事故発生因子として製品の「成分」「剤型」「容器」「使用方法」「使用場所」を分類し、事故発生状況との関連について検討を行った。事故は製品の用途だけでなく、以上のさまざまな因子が複合的に作用した結果、発生していることが明らかとなった。特に問題となる事故発生因子について、予想される状況と対策上必要な項目をリスト化した。この方法で、多様な製品に網羅性高く対応可能である。
4. 誤使用・被害事故発生商品の製品表示、記載内容の分析調査:収集した各種家庭用化学製品のうち220製品について、表示内容を基本項目、注意項目、事故発生時の対処法、他に分類し、登録した。その中で誤使用・被害事故に関わる項目に適切なキーワードを付与した。製品の表示内容を評価するシステムの作成を念頭に、表示内容を蓄積する「製品表示データベース」を作成した。さらに、登録した製品の中から、換気不良による事故が発生している製品群113製品を対象に、登録した製品表示情報、キーワードをもとに注意事項、事故が起こった場合の対処法について製品表示の実態を検討した。
5.誤使用・被害事故に関する詳細調査:2002年または2003年以降のJPIC受信事例について事故状況と有用な製品表示を問うアンケート調査とJPICの受信記録の分析、試買商品の表示内容の分析を行った。
1)カビとり用洗浄剤(39件):使用者の製品表示の認知度は記載場所に影響される傾向にあることがわかった。
2)ポット用洗浄剤(19件):8割が、洗浄中であることを周知していないために起こったものであり、周知徹底を行うことにより、事故の発生を抑制しうることが示唆された。
3)洗浄剤類4製品群の表示項目、表示内容の分析:カビ取り用洗浄剤と台所用合成洗剤は、家庭用品品質表示法に則っているため表示項目は同じであったが、表示内容や表示方法には違いが認められた。一方、メガネクリーナー、ジュエリークリーナーの製品表示は問題が多く、日本語の表示すらない商品もあった。
4)防虫剤(113件):8割以上の使用者は成分により応急処置が異なることを知らないこと、事故発生時に成分不明の製品があることから、応急処置と最小包装単位への成分の表示が必要である。
5)義歯洗浄剤(34件):現状の製品表示は、使用者の7割が使用前に読む必要性を感じていないこと、表現方法が不適切なため必要な表示を認知できなかった事例があることが判明した。
6. 家庭用品の誤使用・被害事故の発生状況、原因物質と臨床症状、重症度の検討:漂白剤類に起因する中毒について、2003年に医療機関からJPICに照会のあった105症例の健康被害状況を検討した。希釈液の摂取と原液の少量摂取は問題ないが,原液を一定量以上摂取した場合は重症度が増す。
7. 家庭用ゴム・プラスチック・繊維製品、抗菌製品を検討対象とした研究:慢性的な健康被害について、家庭用繊維製品と抗菌製品を対象に、消費者へのアンケート調査、MSDSと製品表示のチェック、文献調査等により、消費者の製品表示の理解度、健康被害の発生状況、原因究明、原因製品と化学物質に関する情報伝達の現状等について調査した。健康被害は繊維による刺激性皮膚炎、繊維加工剤によるアレルギー性接触皮膚炎(ACD)が主要なものであった。繊維加工剤のMSDSでは、皮膚感作性が記載されていたが、当該繊維製品の製品表示に繊維加工剤の成分表示、症状、緊急の対処法等が記載されていない等、ACD発生防止策は講じられていなかった。繊維製品製造メーカーと抗菌製品の関連会社のMSDSには健康被害情報とリスク評価の結果がないという現状から、製品に表示される消費者の情報不足は否めない事が判明した。
結論
家庭用化学製品に含まれる化学物質に起因する中毒や、繊維製品、抗菌製品等に起因する慢性的な健康被害について、発生状況や原因製品-原因化学物質の関連性等を明らかにし、製品表示内容から消費者がこれらの健康被害を予測できるかという観点から、種々の調査・研究を行った。その結果、以下のことが判明した。家庭用化学製品による事故は、用途だけでなく、「成分」「剤型」「容器」「使用方法」「使用場所」等の種々の要因が複合的に作用した結果発生している。健康被害事故防止の観点からみた現状の製品表示は、表示項目自体が不足しているものが多く、表示内容、表示方法にも統一性がない。また、MSDS等に掲載されている有害性情報が表示に十分に活用されていない。消費者は製品表示が健康被害事故防止に役立つと考えているが、製品表示の表示内容が不足していること、表現方法や表示場所が不適切であることが原因となって、現在の製品表示からは十分な情報を得ていない。製品表示作成者の危険認識度や社会的責任意識は低く、製品表示の作成に利用可能な個別製品の事故発生状況を把握できる資料はないことから、日本中毒情報センターが事故の発生状況を報告することで危険認識度を高められる可能性がある。
また、製品の表示内容を評価するシステムの作成を念頭に、表示内容を蓄積する「製品表示データベース」を作成した。さらに日本中毒情報センターから事故発生状況の報告が迅速に行えるように、業者名から当該製品による事故事例を検索できる「事例検索データベース」を構築した。
今後の課題は、判明した事故発生要因と製品の表示項目・表示内容の分析結果を照合し、当該製品に必要な表示項目を明らかにし、具体的な表示文と効果的な表示表現方法、表示場所を提案し、製品表示の作成手順を含むシステムを開発することと、表示内容を評価するシステムを構築することである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-