コプラナーPCBの非ダイオキシン毒性の識別によるダイオキシン耐容摂取量の設定のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301294A
報告書区分
総括
研究課題名
コプラナーPCBの非ダイオキシン毒性の識別によるダイオキシン耐容摂取量の設定のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
遠山 千春(独立行政法人 国立環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 前田秀一郎(山梨大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
39,360,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類(ダイオキシン、ジベンゾフラン及びコプラナーPCB)の耐容一日摂取量は、2,3,7,8-四塩素化ジベンゾパラジオキシン(以下、TCDDと略す)特有の毒性の観点から29種類の異性体を対象に設定されている。このうち、12種類のコプラナーPCBの各異性体には、TCDDの毒性を1としたときに、相対毒性として、0.1 から 0.00001までの値(毒性等価係数)が付与されている。これら PCB は、TCDD 毒性に加えて、非 TCDD としての毒性を併せもっているが、これら異性体の非 TCDD 毒性にはこれまで十分な注意が払われてこなかった。本研究は、コプラナーPCBが有するTCDD 毒性と非 TCDD 毒性を動物実験により、識別することにより、ダイオキシン類とPCBの毒性の基本的知見の充実のみならず、ダイオキシン類の耐容摂取量の設定のための情報の獲得を目的としている。
研究方法
TCDD毒性は、Ah受容体(AhR)を介した毒性であることが広く認められている。AhRの構造が違うためにTCDD感受性が異なるマウスやラットに、TCDD、コプラナーPCB異性体(PCB114,118,126)を曝露することによって、生殖機能、甲状腺ホルモン、レチノイド代謝、学習機能に対する影響を指標として、毒性の現れ方を検討し、TCDD毒性と非TCDD毒性とを識別することを試みた。さらに、DNAマイクロアレイを用いて、雄性生殖器遅延、甲状腺ホルモン・レチノイド代謝、学習機能の変化が生じる条件下で、遺伝子の網羅的解析を行い、標的遺伝子の候補の検出をした。
結果と考察
新生仔マウス精巣の器官培養系を用いてPCB126が精子形成やステロイド合成系に及ぼす直接影響について検討した。その結果、PCB126 は生殖細胞およびセルトリ細胞の増殖能には直接的影響を与えないことが示された。しかしながら、テストステロン合成酵素P450sccのmRNA発現を減少させ、P450c17 のmRNA の発現は増加を示した。PCB代謝物によるエストロゲン様作用と考えられる。
コプラナーPCB126とTCDDの周産期曝露がオペラント学習行動に及ぼす影響について調べた。影響を概観すると、学習行動試験に対して、TCDDとPCB126共に逆U字の毒性パターンを示した。PCB126の影響は、現在のTEFに同等、あるいは若干弱めの影響であった。しかし、最高用量曝露では、TCDDとは異なる影響が特定の学習行動において見られたことから、PCB126は学習行動に対して、TCDD様毒性と同時に非TCDD様毒性も示す可能性が示唆された。
コプラナーPCBの甲状腺ホルモンおよびレチノイド代謝への影響がAhR 依存性か否かを調べるために、PCB118(TEF:0.0001)とPCB114(TEF:0.0005)の投与実験を行った結果、PCB118投与マウスでのみAhRの活性化を伴わずに甲状腺ホルモンおよび血清レチノールレベルの低下が認められた。さらに、血中におけるT4及びレチノールの輸送に関与するタンパクであるtransthyretin(TTR)の関与があるか否かを調べるために、TTR欠損マウス(TTR-/-)とその野生型(TTR+/+)マウスに対してPCB118およびPCB114投与実験を行った結果、PCB118だけは甲状腺ホルモンレベルおよび血清中Retinol量を低下させたことから、その作用に対してTTRの関与が認められた。
生殖器影響を引き起こすAhR依存性の遺伝子を探索するため、マイクロアレイ解析を行ったところ、GD13のマウス胎仔ではGD17胎仔とは異なるTCDD応答性遺伝子群を発現していることがわかった。GD17胎仔へのTCDD曝露は上記前立腺の発育遅延を起こさないことが報告されており、GD13で検出した遺伝子の中にAhR-ダイオキシン依存性の原因遺伝子がある可能性が示唆された。
コプラナーPCBによる甲状腺機能及びレチノイド代謝系に対する影響の指標となる遺伝子を検索するため、PCB118あるいはPCB114を曝露したマウスの肝における遺伝子発現を網羅的遺伝子解析により検討した。コプラナーPCBの中でも甲状腺ホルモンおよびレチノイド代謝撹乱に対する毒性機構がAhR非依存評価がなされてきた。本実験結果により、甲状腺ホルモン系に対するコプラナーPCBの影響は、毒性機構がAhRを介する場合と、AhRには関係なくTTRを介する場合があることが明らかになっ性であると考えられるPCB118曝露特異的に顕著に発現誘導される遺伝子を同定した。
TCDDへの周産期曝露による胎仔の脳内遺伝子発現変化を検索し、TCDD投与により1.5倍以上に増加するmRNAを、雄で8種類、雌で12種類、0.6倍以下に減少するmRNAを雄で49種類、雌で33種類見出した。今後、PCB曝露によるTCDD応答遺伝子の発現について検証し、比較することが可能となった。
結論
これまでダイオキシン類およびPCB類の毒性は、AhRとの親和性やAhRを介した酵素の誘導能などに主に基づくTEFを指標としてた。また、生殖器、脳機能への影響でも、コプラナーPCBの非 TCDD様毒性の存在を強く示唆する結果を得た。生殖器、甲状腺ホルモン系、脳における網羅的遺伝子発現解析を行った。今後これらの成果を活用し、コプラナーPCBとTCDDの発現プロフィールを比較検討することが可能となった。今後さらにデータを蓄積し、総合評価に結びつける。

公開日・更新日

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