食品中の有害物質等の評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301208A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の有害物質等の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松田 りえ子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松田りえ子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 小西良子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 米谷民雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 堀伸二郎(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質のヒトへの曝露の90%以上が食事を介していると考えられており、食品中の有害化学物質の分布状態を明らかにし、健康影響リスクを正しく評価することは、食品衛生における基本課題である。日常食の汚染物質摂取量調査研究と汚染物モニタリング調査研究で、食品中の汚染物の存在状況を平均化した見方と個別な見方から、長期間継続して調査しており、他に例を見ない重要なデータとなる。また、個々の食品の汚染状況と平均的に摂取する汚染物量の2つの側面が検討されていることも、安全性の全体評価のために重要である。食品中に含まれる化学物質による重篤な健康影響の例である、 L-トリプトファン製品の摂取により発生した好酸球増多筋肉痛症(EMS)ならびにアニリンで変性されたナタネ油の摂取により発生した有毒油症(TOS)の原因や症状について文献調査し、それにより国民の安全な食生活に寄与することを目的とした。発ガン性が明らかにされているかび毒であるアフラトキシンの規制は食品衛生上重要である。パツリンはおもにリンゴジュースを汚染するカビ毒で、Codex委員会において規制値が設定されており、我が国でも平成16年6月からリンゴ果汁における規格基準が施行される。オクラトキシンは穀類、ワイン、ビール、ドライフルーツ等に汚染し、近い将来Codex委員会において規制値が設定される予定であるかび毒である。本年度はこれらの試験法の開発とバリデーションをおこない、公定試験法として生かされ、かび毒のリスク評価に資することを目的とした。水銀、PCBは食品衛生上重要な汚染物であるが、現在の公定法においては、PCBの各異性体を分離定量できない、メチル水銀のような有機水銀と無機水銀が区別されないといった問題点がある。本研究では、PCB及び水銀濃度測定について、抽出、精製、分析等における技術的検討を行うと共に、施設整備、機器及び試薬等の整備・管理等、測定の信頼性の確保に関する手法の確立を目的とした。
研究方法
1.日常食の汚染物質摂取量調査研究では、国民栄養調査の結果に基づいて全国10カ所でマーケットバスケット方式によるトータルダイエット試料を調製し、その重金属、農薬等の汚染物濃度を測定して、我が国における食事からの汚染物摂取量を推定した。汚染物モニタリング調査では、全国46カ所の地方衛生研究所から食品中の汚染物分析データを収集しデータベースに追加した。このうち、FAO/WHO食品及び試料汚染物モニタリング計画に対応するデータを、WHOに送付した。2.必須アミノ酸製品等による健康影響に関する調査研究では、2002~2003年度の間に発表されたEMSおよびTOSに関する論文を検索し、内容を精査しとりまとめた。3.かび毒試験法の改良に関する研究では、リンゴジュース試料を用いたパツリンの試験法のバリデーションを行った。オクラトキシンAの試験法のバリデーションは、生コーヒー、コーングリッツ、小麦玄麦、干しぶどうを試料として行った。4.PCB試験法の開発に関する研究では、魚を試料として、従来法より精密なキャピラリーカラムGC/MS法で分析し、結果を比較した。パックドカラムをキャピラリーカラムに変更して高感度、高精度のメチル水銀の測定法を開発した。さらに、日本で食用とされている6種類の魚類34試料中の水銀およびメチル水銀濃度を測定した。
結果と考察
1。汚染物質摂取量調査の結果、総HCH及び総DDTには大きな変化は認められなかった。有機リン系農薬3種類については、マラチオン及びMEPが検出された。ま
た、クロルピリホスメチルが高率で検出された。金属類は例年と同程度の値であった。汚染物モニタリング調査では、226、830件のデータを収集した。検査数を基本とした汚染物検出率は2。8%、試料数を基本とした検出率は20。0 %であった。農薬・動物薬等の意図的汚染物のみに限定すると、検査数を基本とした検出率は1。32 %であり、試料数を基準とした検出率は11。1%であった。汚染物の検出率の高い食品は、魚類(PCB等環境汚染物)、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類であった。農薬の検出率は、最も高いメタミドホスでも8%程度で、大部分は2%以下であった。2。1989年のEMS症例の14%はL-トリプトファン製品摂取歴が証明されていない。これら症例は、関連例に比べ、予後は良いとされている。EMS患者総数の14%がL-トリプトファン摂取と無関係に発症しているという事実はあまり認識されておらず、興味が持たれる。1981-1995年の間にTOSを発症し生存している全患者を対象にした予後決定因子が調べられている。 40歳以下の女性患者の生存期間が最も短く、合併疾患発症危険率(相対危険率、RR)も高かった。35-65才のTOS患者1、862人を調査し、標準化発生危険率(SPR)を高血圧1。35、喫煙1。27、高コレステロール血症1。10と算出した。これらSPRの値は最重症TOS患者で有意に高値を示している。TOS患者89人を、非発症TOS患者638人と比較調査し、各odds比が算出されている。神経障害のodds比は一般人口のodds比より有意に高く、手根管症候群が神経障害を有するTOS患者に好発するとの結論を下している。患者の機能、身体ならびに精神障害に関して、運動関連障害の多発が示唆され、これら障害は加齢と共に増大し、若年男性に頻発する行動障害を除き、女性に頻発していた。3。パツリンの試験法のコラボレーションスタディの結果、AOAC995。10法を基礎とした抽出精製法を公定法に採用した。なお、測定においては276nmの他に290nmでの検出も検討した。その結果290nmでは不純物の吸収がほとんどなくなるため、良好なピークが得られた。この成果は、平成16年6月から施行されるパツリンの告示法の試験法となる。4。アルカリ分解、フロリジルカラム精製/キャピラリーカラムーGC/MSによるPCB異性体分析法を確立した。確立した分析法により、長期冷凍保存試料中のPCBs異性体分析を実施した。80年代と90年代のPCBsの一日摂取量は2。8μg/日および1。4μg/日となりPCBs汚染の低下傾向が認められ、高塩素化物主体の汚染傾向が強まっていることが示唆された。イワシを用いて総水銀の添加回収実験(n=5)を行った結果、総水銀の回収率は94。4%であった。6種類の魚類34試料中の総水銀濃度は銀ダラ 0。04-0。47mg/kg、アラスカメヌケ0。11-0。49mg/kg、本メヌケ0。26-0。56mg/kg、キンメダイ0。34-1。1mg/kg、トチザメ0。33-0。69mg/kg、シロザメ0。05-0。1mg/kgであった。メチル水銀濃度は、銀ダラ0。03-0。37mg/kg、アラスカメヌケ0。08-0。31mg/kg、本メヌケ0。17-0。45、キンメダイ0。27-0。83mg/kg、トチザメ0。30-0。61mg/kg、シロザメ0。04-0。08mg/kgであった。 ULBONHR-Thermon-Hgキャピラリーカラムは、メチル水銀測定に適用できることが明らかになった。魚類34試料についてのパックドカラム法及びキャピラリーカラム法によるメチル水銀の定量値の相関係数はR2= 0。991でキャピラリー法は従来法(公定法)とよく一致した。この結果は、食品中のメチル水銀測定においてキャピラリーカラム-ECD-GCの可能性を示唆するものである。
結論
1。日常食の汚染物質摂取量調査研究の結果、食品中有機塩素系農薬、PCB、有害金属等の摂取量は、例年通りであり、特に増加した汚染物は見られなかった。汚染物モニタリング調査においては46機関からのデータを収集しデータベース化するとともに、一部をWHOに送付し、国際的調査に協力した。これらのデータから、我が国における。食品の化学汚染状況が明らかとなり、食品の安全性保証の基礎的データとなった。2。EMS患者の14%がL-トリプトファンやミネラル油摂取に無関係であることはあまり知られておらず、おおまかな症状の一致は見ら
れるものの、これらが同一疾患か否かは興味が持たれる。有毒油の摂取に伴う健康への影響は、女性、とりわけ40才以下に強く現れる。心血管系疾患や手根管症候群、運動機能障害や神経障害もTOS被害者に好発し、身体的自立ならびに経済的自立への深刻な障害となっている。3。パツリン試験法の妥当性試験は検査対象品目のリンゴジュースを用いて11機関で行った。その結果、AOAC 995。10法を基礎とした方法が経済的にも時間的にも最も公定法に適切であることが示された。この成果をもとに平成16年6月に施行されるパツリンの告示法を作成した。4。アルカリ分解、フロリジルカラム精製/キャピラリーカラムーガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によるPCB異性体分析法により、長期冷凍保存試料中のPCBsを分析した結果、PCBの汚染は低下傾向にあるが、高塩素化異性体の割合が増加していることが明らかとなった。 水銀については、還元気化原子吸光法による総水銀の添加回収実験(n=5)を行った結果、総水銀の回収率は94。4%であった。キャピラリーカラム(ULBONHR- Thermon-Hg (0。53mm×15m)) がメチル水銀測定に十分適用できることが明らかになった。魚試料についてキャピラリー法は従来法とよく一致した。

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