食品中の残留農薬、汚染物質の摂取量等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301179A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の残留農薬、汚染物質の摂取量等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 保博(財団法人残留農薬研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤保博(財団法人残留農薬研究所)
  • 堀口兵剛(自治医科大学保健科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
残留農薬基準を設定するに当たり、推定一日摂取量(EDI)方式による暴露量評価を行なう際に、一部の農薬については実際の残留量を考慮した暴露量評価のほかに非可食部の除去や加工調理に伴う残留濃度の消長等の要因までを考慮することが必要となる。また、ポジティブリスト制導入に伴い、基準設定の対象が畜産水産食品にも拡大され、国際基準等を参考に残留基準を設定することが必要となる。そこで、分担研究1-1では、より精密な暴露量評価を可能にすることを目的として、残留農薬基準が未設定または見直しが計画されている農薬のうち、理論的最大一日摂取量(TMDI)による暴露量がADIを特に大きく超えるもの数種を選び、その主要な農産物について加工調理係数、可食部係数等のデータを収集・解析した。分担研究1-2では、畜産水産食品中の残留農薬の暴露評価について、国際的および主要国での基準値設定状況等を調査し、暴露量を評価する上で今後整備等すべき情報等を整理する。食品を経由したカドミウム(Cd)暴露については、第55回及び第61回FAO/WHO合同食品添加物専門家会議でCdの暫定週間耐用摂取量(PTWI)は7μg /kg体重を維持することとなった。分担研究2では、PTWIを超えるCd暴露を受けている被験者が含まれる集団で腎機能障害などの健康影響を調査し、より正確な摂取許容量算定に有用なデータを得ることを目的とした。
研究方法
分担研究1-1:平成15年度はホスファミドンとジスルホトンを調査対象農薬とし、米国および豪州の試験圃場でジスルホトン粒剤と乳剤およびホスファミドン水和剤を小麦、水稲、大豆に土壌施用(ジスルホトン;小麦と大豆)または散布処理(ジスルホトン;大豆、ホスファミドン;水稲、小麦、大豆)した。農薬処理条件はジスルホトンについては、米国における適正農業規範(GAP)内で最大残留濃度となる時期および最短PHIとし、散布濃度はGAP最大使用量の5倍とした。米は、籾米または玄米の精米化と炊飯、小麦は、製粉と製パン・製麺、大豆は豆乳化と豆腐製造までの各工程の産物中の農薬残留量を測定することとし、残留農薬の収支と調理加工係数を決定した。分析法を検討し、ジスルホトンはジスルホトンと5種類の代謝物を酸化処理してジスルホトンスルホンおよびジメチルチオルスルホンに収斂し、それらの合計量としてGC/NPD法で定量した。ホスファミドンはZ体とその脱N-エチル体をGC/NPD法で定量し、その合計量をホスファミドン残留量とした。分担研究1-2: 畜産・水産食品中の残留農薬に関する国際基準、EU、米国、カナダ、ニュージーランドの基準値、当該基準値に含まれる代謝物等の残留物定義の情報、試験ガイドラインを当該国行政機関の刊行物、またはインターネット等から収集した。分担研究2:現在の日本国内でCd濃度の高い米が見出される頻度の最も高いF地域、過去に極めて高濃度のCd環境汚染があり多数のイタイイタイ病患者の発生があった富山県神通川流域(婦中地域)、ならびにその対照地域としての富山県氷見市の3つの地域で、F地域では240名、婦中地域では156名、氷見地域では144名の主として農家女性に対して住民健康診断を行った。Cd曝露量の指標として、尿および血中、および受診者が持参した米中(F地域のみ)のCd濃度を測定した。健康影響に関しては、尿中α1ミクログロブリン(α1MG)とβ2ミクログロブリン(β2MG)を測定して腎尿細管機能を検査した。年齢、居住暦等を解析し、汚染地域でもその居住歴が10年未満の受診者を除き、さらに腎機能に影響を与える生活歴・既往歴のある被験者を除外して解析対象者とし、年齢階級
ごとにCd暴露量、健康影響を比較して解析した。
結果と考察
分担研究1-1:小麦および大豆中のジスルホトン残留濃度は、米国GAPの最大使用条件の5倍濃度で乳剤散布(小麦)または粒剤として播種時に土壌処理(大豆)した場合も玄麦中で0.007 ppm、大豆中で0.003 ppmであった。玄麦中残留量の>80%は製粉工程で除去され、≦16%が小麦粉(60%粉)に残留した。大豆中残留量の豆乳、おから、豆腐への移行率はそれぞれ、<25%、<16%、<17%であり、調理加工係数は小麦粉≦0.29、おから<0.074、豆乳<0.037、豆腐<0.074であった。ジスルホトンのTMDIは、国際残留基準による小麦と大豆からの摂取のみでもADIの489%(幼小児)となるが、小麦と大豆についての実残留量(ただし、GAP最大濃度の5倍濃度散布)の採用によるEDIでADIの14%に、さらに小麦粉と豆腐への加工係数を含めると<14%にそれぞれ低下する。小麦、大豆、籾米中のホスファミドン残留濃度は散布濃度または散布回数に対応していた。籾米中残留量の大部分は脱穀により除去され、玄米には2~5%が残留した。精米化で玄米中の残留量の約60~70%が糠と共に除去され、白米には23~53%が残った。玄米および白米の水洗と炊飯によってもホスファミドンは消失し、炊飯玄米および炊飯白米にまで移行したのは玄米中残留量の14~32%と3.5~17%であった。小麦では、玄麦中残留量の>80%が非食用分画に除去され、1.7~8.9%が小麦粉に残った。全粒食パンには玄麦中残留量の8.5~37%が残留したが、食パン、うどん、中華麺への移行率は<5%であった。大豆から豆乳および豆腐への移行率はそれぞれ、≦11%および≦6%であり(高濃度散布区)、調理加工係数は小麦粉0.03~0.16、食パン、うどん、中華麺<0.05、全粒パン0.05~0.24、豆乳<0.031、豆腐≦0.048であった。ホスファミドンの国際残留基準によるTMDIは 米と小麦のみでADIの228%(幼小児)となるが、これに籾米から玄米および玄麦から小麦粉への加工における移行率を適用することにより、米と小麦のEDIで少なくともADIの16%(幼小児)に低下すると算定される。分担研究1-2:畜産・水産食品中の残留農薬に関する国際基準、EU、米国、カナダ、ニュージーランドの基準値、ならびに当該基準値に含まれる代謝物等の残留物定義を整理して纏めた。また、国際基準設定の際の基礎となるFAOの「食品及び飼料における最大残留量推定のための農薬残留データの提出と評価に関するFAO手引書(1997年版)」が大幅に改定(2002年)されたことからこれを翻訳するとともに、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議による畜産食品による暴露量評価法の改定内容を含め、畜産水産品に関する関連情報を抜粋版にまとめた。分担研究2:血液中Cd濃度は、全体の平均値でも各年齢階級における平均値でもF地域がE地域や婦中地域よりも高く、婦中地域はE地域よりも低値であった。尿中Cd濃度(クレアチニン補正後)もF地域はE地域よりも高く、また高値の人の割合も高かった。しかし、F地域を婦中地域と比較した場合、40歳代の若い世代ではF地域の方が高いものの、50歳代以上の高齢世代では逆転し、婦中地域の方が高値であった。F地域の健診参加者が持参した平成15年産米中のCd濃度の幾何平均は0.139μg/gで、1.0μg/g以上は0%、0.4以上1.0 μg/g未満は9.2%であった。対照地域であるA地域および氷見地域と比較して、F地域では尿中α1MGとβ2MGの濃度の幾何平均値に統計学的に有意な上昇はみられなかった。婦中地域でも全般的に尿中α1MGとβ2MGの濃度が高値を示すことはなかった。しかし、クレアチニン補正β2MG値が10、000μg/g cr.を超える被験者がF地域で1名(70歳台)、婦中地区で3名(60歳台)見つかった。以上のように、現在の日本で最も高度のCd暴露を受けていると考えられるF地域や過去に極めて高度のCd暴露を受けたと考えられる婦中地域においても、その住民を集団として解析すれば、加齢による腎機能低下にCd曝露による増悪傾向は認められなかったが、高齢者の中には過去の高度のCd曝露のため若干の腎機能障害を来している人もいることが示唆された。
結論
残留農薬の暴露量評価と残留基準設定、ならびにCdのリスク評価と管理に資するため、①農
産物の加工調理に伴う残留農薬の量的変化、②各国における畜産物中残留基準の設定状況と設定方法、ならびに③農村女性のCd暴露状況と腎機能障害に関する研究を実施し、次のような有用な研究成果ならびに畜産物中残留基準の国際的な設定状況と設定方法の情報を得た。(1)ジスルホトンとホスファミドンについて、TMDIは主要農産物の一部(米、小麦、大豆)のみでADIを大きく超えるが、それら3農産物からの調理加工を含めたより実態に近い暴露量は、ADIの少なくとも≦16%(幼小児)に下がると算定された。(2)現在最も高いCd暴露を受けていると考えられる地域と現在は曝露は低いが過去に極めて高濃度のCd暴露を受けたと考えられる地域の住民で、腎機能が悪化している傾向は見られなかった。しかし、個別にその臨床データや生活歴などを検討した結果、高齢者の中にはCdの長期暴露による腎尿細管機能障害の可能性が高い被験者がおり、さらに詳細な調査が必要と考えられた。

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