臭素化ダイオキシン類の毒性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301167A
報告書区分
総括
研究課題名
臭素化ダイオキシン類の毒性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山本 静護(中央労働災害防止協会、日本バイオアッセイ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
39,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臭素化ダイオキシンによる労働者の健康障害を防止する施策を行うための基礎データを得ることを目的として、臭素化ダイオキシン類の(1)労働現場における暴露形態に合わせた経気道投与による毒性(動物への吸入暴露代替法としての経気道投与技術の開発・検討を含む)、及び(2)塩素化ダイオキシン類との毒性比較に必要な経口投与による毒性(臓器毒性や生殖毒性等)を評価するための研究を3年計画で行う。本年度は、「2,3,7,8-四臭化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(TBDD)の次世代への影響に関する基礎的検討」および次年度に予定している労働現場における暴露形態に合わせた経気道投与による毒性研究のための「経気道投与技術の開発・検討」を行った。
研究方法
[TBDDの次世代への影響に関する基礎的検討]
Wistar系ラット(Crj:Wistar,SPF)妊娠雌(妊娠8日の母動物)にTBDDを100、10、1、0(対照)μg/kg体重を単回強制経口投与し、妊娠20日目(帝王切開)および分娩21日目に解剖した母動物と胎児および出生児への影響を調べた。帝王切開母動物は、一般状態観察、体重測定、血液学検査および血液生化学検査、剖検、臓器重量測定、病理組織学検査、組織中のTBDD未変化体濃度の測定(以下TBDD濃度)および血清中の甲状腺ホルモン濃度の測定を行った。分娩母動物は、一般状態観察、体重測定、分娩状態の観察、血液学検査、血液生化学検査、剖検、子宮の着床痕数の計数、臓器重量測定、肝臓の病理組織学検査、組織中のTBDD濃度測定および血清中の甲状腺ホルモン濃度の測定を行った。胎児(帝王切開により摘出)は、生死数、性別確認、体重測定、胎盤重量測定、外表観察、内臓検査、骨格検査および胎児全身と肝臓中のTBDD濃度測定を行った。出生児は、一般状態観察、体重測定、雌雄別産児数、分娩率、生児出産率、生存児性比の算出および生存児外表奇形の観察、胃内ミルク中のTBDD濃度の測定、肛門生殖器間距離(AGD)の測定、行動発達と身体発達の観察、剖検、血液学検査、血液生化学検査、臓器重量測定、病理組織学検査、肝臓中のTBDD濃度の測定、肝臓中の誘導酵素量の測定および血清中の甲状腺ホルモン濃度の測定を行った。また、妊娠動物と未妊娠動物の肝臓と脂肪組織中のTBDD濃度推移の比較も行った。
[経気道投与技術の開発・検討]
15~17週齢のBrlHan:WIST@Jcl(GALAS)ラット雄を使用し、イソフルラン吸入麻酔下で、液体気管内投与器具および液体用スプレー管を使用し、TBDDを溶解するための媒体、その媒体と水とを懸濁するための界面活性剤(Tween80)の混合率、投与量、投与回数(単回、隔日、連続投与)の検討およびアルシアンブルーを添加した投与液を気管内投与し、肺内における拡散状況の確認を行った。
結果と考察
[TBDDの次世代への影響に関する基礎的検討]
<母動物への影響>100μg/kgでは、妊娠中に2匹が死亡し、妊娠中および分娩後の体重増加が顕著に抑制された。また、血小板数の減少、肝臓に細胞質の空砲化や肝細胞の多核化などの組織変化がみられた。胸腺重量の低下は10μg/kg以上の群で認められた。なお100μg/kg群の母動物は、児を出産できたが、それらはすべて死産であった。
<胎児への影響>10μg/kg以上の群では、胚・胎児死亡数の増加がみられた。さらに、100μg/kg群では全身性浮腫、口蓋裂、水腎症および心室中隔欠損といった奇形がみられ、また、内臓や骨格の変異および骨化の遅延がみられた胎児数が増加した。一方、1μg/kg群では胎児への影響は認められなかった。
<出生児への影響>100μg/kg群の母動物から生まれた児はすべて死亡していた。1μg/kg群および10μg/kg群の出生児には、出生数、離乳までの生存数や体重推移に明らかな影響は見られなかったが、上顎切歯の萌出と眼瞼の開裂の早期化がみられた。また、10μg/kg群の雄児では赤血球数、白血球数および血小板数の減少、また、雌児では白血球数の減少、さらに雌雄児の甲状腺ホルモン(T4)濃度の低下と雄児の甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度の増加もみられた。1μg/kg群および10μg/kg群の児の肝臓重量は増加し、さらに肝臓の誘導酵素ECOD、EROD、AHHおよびUDPGTの各活性が上昇し、10μg/kg群では肝細胞の細胞質の空胞化が増加した。また雄10μg/kg群の前立腺重量の低下が認められた。
<TBDDの組織中濃度と児への移行>妊娠の有無によりTBDDの組織中濃度の推移が異なっていた。特に、妊娠動物の肝臓中の濃度は、未妊娠動物と比較して減少の程度が大きかった。また、TBDDは胎盤と乳汁を介して次世代に移行することが確認された。
[経気道投与技術の開発・検討]
媒体の検討では、トルエン濃度を20%溶液(水:トルエン:Tween80 =3:1:1 )から5%溶液(水:トルエン:Tween80=18:1:1)に順次下げて投与したところ、5%溶液でも投与直後に動物が死亡し、トルエンは気管内投与溶液の媒体には使用できないと判断した。一方、エタノールについて同様に検討したところ、動物は1週間以上生存し、一般状態の異常、体重減少、肺の異常所見が認められなかった。この結果より気管内投与溶液の媒体としてエタノールが使用可能と考えた。投与回数の検討では、単回投与、隔日3日(合計3回)投与及び3日間連続(合計3回)投与ともに動物の死亡、体重推移の差、一般状態の異常は認められず、さらに肺の異常所見は認められなかった。このことから、投与溶液の投与回数は単回、隔日3回及び連日3回のいずれも可能と考えた。投与量の検討では、20%溶液(水:エタノール:Tween80=3:1:1)を1日1回、体重1kg当り1mLと0.5mLを投与した結果、1mLでは動物が死亡したのに対し、0.5mLでは死亡はみられず、体重抑制が軽度なことから1日1回、体重1kg当たり0.5mLが適切と考えた。青色色素を添加したエタノール20%溶液を投与した結果、肺の各葉に青色斑が認められ、分布に偏りも少なかったことから、溶液が適切に投与されたと考えた。
結論
2,3,7,8-四臭化ジベンゾ-パラ-ジオキシンの次世代への影響に関する基礎的検討研究結果より次の結論を得た。すなわち、TBDDは経胎盤移行により胚致死や奇形を誘発し、また経胎盤および乳汁移行により児の身体発育や機能、脳の発育や機能、そして造血機能や生殖機能に影響をおよぼす可能性があることが示唆された。また、労働現場における暴露形態に合わせた経気道投与による毒性研究における経気道投与法は、前年度の検討結果と合わせて、次のように確立された。1)動物種としてはラットを使用する。2)気管内挿管操作及び投与を確実に行い、かつ動物への負荷をなるべくするためにイソフルラン吸入麻酔下で実施する。3)投与方法は、液体気管内投与器具を使用した液体気管内噴霧法とする。4)媒体は、エタノールとし、投与溶液のエタノール濃度は20%(水:エタノール:Tween80=3:1:1)とし、その体重1kg当りの投与容量は0.5mL(1日1回)とする。5)投与回数は単回、隔日3回及び連日3回のいずれも選択可能である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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