C型肝炎ウイルスの感染による肝炎・肝硬変及び肝がん発生等の病態の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301134A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスの感染による肝炎・肝硬変及び肝がん発生等の病態の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(大阪大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下遠野邦忠(京都大学)
  • 加藤宣之(岡山大学)
  • 小原道法(東京都臨床医学総合研究所)
  • 岡本宏明(自治医科大学)
  • 坪内博仁(宮崎医科大学)
  • 岡上武(京都府立医科大学)
  • 森脇久隆(岐阜大学)
  • 小池和彦(東京大学)
  • 金子周一(金沢大学)
  • 脇田隆字(東京都神経科学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)は持続感染をきたし、慢性肝炎、肝硬変を経て高率に肝癌を引き起こす。わが国におけるHCV感染者は200万人以上と推定されており、年間約3万人の新規肝発癌が認められている。C型慢性肝炎に対する現在最も有効な治療はIFNとリバビリンの併用療法であるが、C型慢性肝炎の約1/3はこれらの治療法にも抵抗性であり、現行のIFNを中心としたC型肝炎の治療のみでは限界があると言わざるを得ない。かかる現状から、今後本邦にて急増が予想される肝癌の発生を抑止するためには、C型肝疾患に対する新しい治療戦略の開発が急務となっており、このためにはHCV感染がもたらす各種病態の詳細な分子機構を解明することが重要である。本研究は、C型肝疾患の病態を多面的に解明し、このような理解をもとに、C型肝炎ならびに肝発癌に対する新しい治療戦略を開発することを目的としている。
研究方法
1)培養細胞でのHCV増殖システムを用いた解析。HCVレプリコン細胞にHCVの5'あるいは3'非翻訳領域をターゲットにしたsiRNAを導入し、ノーザンブロットにより複製抑制効果を検討した。遺伝子型2aのHCV cDNAを劇症肝炎および慢性肝炎患者よりクローニングし、これをもとにレプリコンRNAを作製しHuh7に導入した。HCVレプリコンシステムに対するサイクロスポリンの抑制効果を解析した。HCVレプリコンシステムに低用量のIFNαを長期間投与し、IFNα抵抗性のクローンを選択し、IFNに対する反応性を解析した。2)HCVによる肝炎および肝発癌の動物モデルの作製とその解析。昨年度の脂質代謝異常に関する研究に引き続き、本年度はHCVコア遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを用いて、糖尿病の発症の有無について解析した。3)C型肝炎における遺伝子発現プロファイルの解析。正常肝組織、HCV感染慢性肝炎、HCV関連肝細胞癌、HBV感染慢性肝炎、HBV関連肝細胞癌についてRNAを調整し、SAGE法を用いて解析した。4)C型肝炎における樹状細胞機能の解析。健常者の末梢血より種々の樹状細胞を調整し、HCV被感染能をシュードウイルスおよびHCV患者血清を用いて解析した。末梢血の単球分画よりGM-CSFおよびIL-4を用いて樹状細胞を誘導した。IFNα刺激後のMICA/Bの発現をFACS解析し、IL-15の関与を中和抗体を用いて検討した。5)C型肝炎治療効果の予測因子の解明。IFN/リバビリン療法を行ったC型慢性肝炎患者について治療開始後経時的にHCV RNA量をリアルタイムPCRにて測定し、HCV RNA陰性化を予測する因子について検討した。6)ヒト肝癌細胞株を用いてレチノイドレセプターの一つであるRXR?の活性化後の細胞死誘導メカニズムについて解析を行った。昨年度に開発した中和活性のあるHCV抗体測定系を用いて、HCV感染チンパンジーの血清中のHCV中和抗体の有無について解析した。昨年度に引き続きT町住民の追跡調査を行い、HCV抗体陽性者の予後解析および各種病態とHLA多様性の関連について解析した。
結果と考察
1)培養細胞でのHCV増殖システムとHCV関連蛋白の機能解析。5'非翻訳領域に設定したsiRNAにより、10 nMで80%の複製阻害が認められた。3'非翻訳領域に対するRNAiでは阻害効果が乏しかった。劇症肝炎患者から作成した2a型レプリコンは高効率に複製した。このレプリコンは従来の1b型レプリコンに比しIFNに抵抗性であった。HCVレプリコン複製細胞にサイクロスポリンAを投与することにより、強いHCV複製阻
害効果が観察された。この効果はサイクロスポリンの免疫抑制効果とは独立した機構により発揮されることが示された。IFNα1000~2000 U/mLに対して抵抗性を示すレプリコンを樹立した。これらのレプリコンにおいてNS4BやNS5Bに変異が認められ、ウイルス側の要因がIFNα抵抗性に寄与していることが示された。2)HCVによる肝炎および肝発癌の動物モデルの作製とその解析。HCVコアトランスジェニックマウスでは血糖値はコントロールと有意差がなかったが、有意なインスリン抵抗性が認められた。また、高脂肪食負荷を与えることにより、糖尿病を発症した。3)C型肝炎における遺伝子発現プロファイルの解析。SAGEを用いて正常肝、HCVおよびHBV感染慢性肝炎および関連肝細胞癌の包括的な発現遺伝子プロファイルを作成した。HCVとHBVは、臨床的には慢性肝炎あるいは肝硬変を引き起こし、肝細胞癌を合併するが、その過程で発現している遺伝子は異なっていたことから、発癌にいたる機序も異なっている可能性が示唆された。本研究により、今後HCV発癌に関連する遺伝子を解析するためのデータベースが整備された。4)C型肝炎における樹状細胞機能の解析。シュードウイルスを用いた検討により、DCはある特定の成熟段階において特異的にHCV感染に対して感受性になることが示された。このHCV感染のメカニズムとしてDCに発現するレクチンが重要な役割を持っていた。ヒトの単球分画より誘導した樹状細胞は1型IFNの刺激によりMICA/Bを発現したが、これはautocrine IL-15に依存した現象であった。C型肝炎患者ではこのIL-15の産生が低下しており、これによりMICA/B発現が起こらないことが示された。5)HCV dynamicsによるIFN/リバビリン治療効果の予測。治療開始1日後のHCVRNA量を測定することにより1ヵ月後のHCVRNAの陰性化と同等の治療効果の予測が可能であった。6)その他。肝癌においては、RXR?の下流のシグナルとして、STAT1がIFNに対する感受性を高めることによりアポトーシスに導き、組織transglutaminaseは核内転写調節因子群を架橋することにより失活化させ細胞死を誘導することを見出した。2頭のチンパンジーにおいて、HCV感染初期にはHCV粒子と結合し得る抗体は陰性であったが、8ヶ月後から8年後の血清では抗体が検出された。HCV RNA陽性者は陰性者に比し、HLA-B*0702、HLA-DRB1*0406の頻度が少なく、HLA-B*1501の頻度が高かった。肝機能正常者からは169名中1例の肝細胞癌の発生を認めたが、肝機能異常者からは342例中26例に肝細胞癌の発生をみた。
結論
HCVレプリコンシステムについては、劇症肝炎患者から樹立した2a型のレプリコンとIFNにより選択を加えたレプリコンが新たに樹立されており、ともにIFNに対して抵抗性を示すことから、IFNに対するウイルス側の抵抗機序を解析する上で有用なツールになることが期待される。また、HCVレプリコンシステムはHCV増殖阻害薬剤のスクリーニングやその抗HCV機序の解明に極めて有用であり、本年度の研究においてもsiRNAがHCV複製阻害に有用であることや、サイクロスポリンAにその免疫抑制活性とは独立した抗HCV活性があることが示された。HCVコア蛋白がHCV感染症の各種病態に与える影響として、本年度は糖代謝異常を取り上げ、HCVコア蛋白の肝臓での発現が個体レベルでインスリン抵抗性を惹起することを明らかにした。HCV感染者では種々の程度の糖代謝異常を合併するが、その発生機構を解明していく上で示唆に富む成果である。免疫学的な検討としては、樹状細胞は特定の分化段階においてHCV感染に対して感受性となることを明らかにした。また、HCV感染者における樹状細胞機能低下に重要な役割を持っていると考えられるMICA/Bの発現低下にIL-15の産生不全があることを示した。IFN/リバビリン治療については、早期の治療効果予測因子の同定が期待されているが、治療24時間後のdynamicsが効果予測に有用であることを示した。

公開日・更新日

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