医療安全推進のための教育・研修システムの開発研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200301117A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全推進のための教育・研修システムの開発研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 廸生(横浜市立大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山美知子(厚生労働省看護研修研究センター)
  • 山本武志(福岡県立大学看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療安全を推進するためには、医療機関における安全文化の確立と個別の対策の強化が必要であるが、長期的には医療従事者に対する安全管理の教育・研修が不可欠である。本研究では、1)医師の教育・研修において、医療安全管理のプログラムの確立を目的とする研究(橋本班)、および、2)看護基礎教育におけるシミュレーション学習による医療事故防止教育の確立を目的とする研究(丸山班)、により構成される。【橋本班】医療事故の防止において、医療従事者に対する医療安全教育の充実が必要である。とりわけ教育・研修の期間における安全管理教育を充実させ実施することは早急に取り組むべき課題である。本研究では、まず、医師の卒前・卒後における安全管理教育の実情を調査する。それに基づき、研修医向けの安全管理教育プログラムを検討し、教育用教材を開発するとともに、開発したプログラムに基づく教育の実施、その効果の検証等を行う。【丸山班】我々のこれまでの研究から、「事故の理解と予防的行為は、事故の体験によって鮮明になる」という内容が取り出された。このことは、看護基礎教育において、看護学生が現実感を伴って学ぶことができるシミュレーションを用いた教育方法の開発を意味し、事故の予防対策が常に事故を起こした後の後追い対策にならないために、早急に取り組まなければならない課題といえる。平成15年は、看護基礎教育において、開発したシミュレーション教材及び教育方法が具体的に展開できるための看護教師の能力開発を目的とする。
研究方法
【橋本班】今年度の研究では、安全管理教育プログラムの作成、ハンドブックの作成安全管理教育の実態調査のまとめを行った。具体的には、(1)医歯学教育カリキュラムにおける医療安全管理教育の実施状況の調査のまとめ、(2)米国における患者安全と看護師の労働環境の文献調査、(3)上記などを参考に、医療安全教育のプログラム作成、研修医向けのハンドブック作成、を実施した。ハンドブックの作成においては、横浜市立大学医学部附属病院における臨床研修の「研修評価記録」を基に評価項目を選定した。診療科としては、内科、外科、小児科、産婦人科、麻酔科、救命救急センターの6診療科を対象とした。【丸山班】看護学校における看護・医療事故予防に関するカリキュラムの定着状況および看護・医療事故予防教育を推進していくために看護教員に求められる能力の実態を明らかにする。具体的には以下に示す通りである。1.調査票の作成:1)教務責任者用調査票:看護学校における看護・医療事故予防に関するカリキュラムの定着状況を明らかにするための調査票。調査内容は看護・医療事故予防に関してのカリキュラム上の位置づけ、教育内容・教育方法の実施状況、看護学生が起こした事故およびインシデントの実態の把握・分析方法・活用状況のカリキュラムへのフィードバック状況、臨地実習施設との協働の状況等とした。2)看護教員用調査票:看護・医療事故予防教育を推進するため看護教員に求められる能力の実態を明らかにするための調査票。調査票作成にあたり、当研究結果に加え、当センター主催の「看護基礎教育における医療安全推進のための教員研修」の受講生75名が研修中に記述、作成したシミュレーション・リフレクション体験記録用紙・授業案の分析および協力が得られた受講生4名に対する面接調査を行い、看護・医療事故予防教育を推進していくために看護教員に求められる能力を明らかにし、調査内容の枠組みとした。2.調査の実施:1)対象者:全国の看護師養成施設全数の①教務責任者746人,②看護教員1084人(無作為
抽出)。2)調査方法:郵送法による自記式無記名質問紙調査。3)調査期間:2004年2月12日~2月25日。
結果と考察
【橋本班】「医歯学教育カリキュラムにおける医療安全管理教育の実施状況調査」について詳細な分析では、平成15年度のカリキュラムで「安全性の確保」に関する教育を実施していると回答した施設は、医学部44/70(62.9%)、歯学部15/28(53.6%)であった。「危機管理」に関する教育は、医学部33/70(47.1%)、歯学部14/28(50%)であった。医療安全管理教育がカリキュラムに取り入れられる傾向が明らかになった。米国における患者安全と看護師の労働環境の文献検討では、Keeping Patients Safe: Transforming the Work Environment of Nurses (2004)の抄訳を通じて、患者安全に影響を与えうる看護労働環境と、その改善可能性等について検討した。ヘルスケアは複数の専門職の協働により提供されるが、ケアの安全性を保障するためには、量的に最も多く、患者と接する時間の長い看護師の役割を無視することはできない。米国では、過去20年間にヘルスケア組織やケアの提供方法等が変化し、看護師の労働環境や仕事内容にも影響を与えており、こうした変化が、将来、患者に危険をもたらす可能性もあるといわれている。最後に、上記の研究成果なども参考に、医療安全教育のプログラム、研修医向けのハンドブックを作成した。本研究では、各研修病院がガイドを作成するためのモデルとなる「臨床研修医のための医療安全管理ハンドブック」の作成を行った。ハンドブックは、1)医療安全管理の基本(組織の安全文化、チーム医療、「fool-proof」「fail-safe」に基づく管理など)2)医師の行動規範(研修医に求められる行動様式、望ましい指導医像についての検討)、3)医療安全管理の実際(診療を行うにあたっての基本的なルール、安全な技術、初診の心得)、の3つを柱とし、主に、既存の文献・資料等の検討・整理によりとりまとめた。【丸山班】看護・医療事故予防に関するカリキュラムの定着状況は、教育理念、教育目的・目標に記述があると回答した学校は10数%であり、看護・医療事故予防に関して独立した科目を設定している看護学校はわずかであることから、まず、早急に看護・医療事故予防について教育理念・教育目的・目標に記述し明確に位置づけることが必要である。70%以上の学校がカリキュラム上の改善の必要性を認識していることからさらにこの認識を推し進めて、看護・事故予防をカリキュラムに定着させていくためには、各学校の努力は当然であるが、指定規則の内容とすることや国家試験の課題とするなど制度として位置づけることも重要であると考える。このことによって安全を第一とする考え方の育成を図ることが可能となり、安全文化を醸成するための基盤が確立されると考える。
結論
【橋本班】海外の医療安全管理・教育の状況や日本の医療安全教育の現状から、医療安全教育のプログラムを検討し、ハンドブックを作成した。各医育・医療機関に配布し広く活用されることによって、研修医等に対するベースラインでの医療安全教育のプログラムの標準化がはかれるであろう。【丸山班】今回の調査結果によって、看護・医療事故予防教育の現時点での実態と課題が明らかになった。これらの課題を各学校がそれぞれの実態と対応させることによって、当研究で開発したシミュレーション教材を用いるなど各学校における看護・医療事故予防教育の取り組みがより具体的になり、看護基礎教育における看護・事故予防教育の充実を図ることが可能となる。また、看護・医療事故予防教育を推進していくために求められる看護教員の能力育成の視点を明らかにしたことにより、看護教員自ら必要な能力を獲得していく方向性を示すことができ、さらに、能力開発に有効な学習会・研修会の開催も期待される。

公開日・更新日

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