診療ガイドラインの評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301093A
報告書区分
総括
研究課題名
診療ガイドラインの評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 友紀(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立保健医療科学院)
  • 小泉俊三(佐賀大学)
  • 葛西龍樹(カレス・アライアンス・北海道家庭医療学センター)
  • 武澤 純(名古屋大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療技術の成熟化、消費者意識の高揚、医療財政の逼迫などを背景として医療の質についての関心が世界的に高まってきている。医療の質を高める方法は、既存の医学情報の体系的な分析によりある病態に対する最良の治療方法を明らかにするプロセスアプローチと、治療結果にかかわる臨床インデヶーターを設定し、経時的にデータを収集することにより結果面から医療の質を保証しようとするアウトカムアプローチに大別される。EBM(Evidence Based Medicine)はプロセスアプローチの代表的な手法であり、一定の方法論的な検討結果は診療ガイドラインとして表される。1990年頃から世界的に導入されたが、現在では治療方法の最適化・標準化のみでは必ずしも最良の結果をもたらさないことが認識され、アウトカムアプローチといかに連携を図るべきかに関心が移行しつつある。日本では、1999年以降、学会などが主導してEBMにもとづく診療ガイドラインが74明らかにされ(平成14年度本研究班の先行研究)、現在臨床現場への導入・普及が図られている。本年度の研究では、EBM手法に基づく診療ガイドラインの導入期の日本にあって、診療ガイドラインの評価のフレームを明らかにした上で、①診療ガイドライン作成者、②診療ガイドライン利用者としての医療スタッフ、③診療ガイドライン利用者としての一般人に焦点をあて、これら関係者の間でどのようなダイナミズムの下で診療ガイドラインが受け入れられつつあるかを明らかにするものである。
研究方法
本研究は、いくつかの小研究から構成されるが、①キーインフォーマントとのインタビュー(国内、海外)、②2つのアンケート調査(診療ガイドライン作成者および実地医家)、③東邦大学メディアセンターの利用状況調査、④その他(文献調査など)からなる。
結果と考察
①診療ガイドライン評価のフレームの確立:診療ガイドラインの評価の枠組みとして、(1)対象疾患の選択、(2)作成の適切性、(3)医療内容の変化、(4)他領域(資源の最適配分、教育プログラムとの連携、医療計画など)への応用可能性の4つのレベルから成り立つことを明らかにした。②診療ガイドライン評価手法の比較検討:特に「(2)作成の適切性」の評価手法として、AGREE instrumentを用いて2時間程度のセッションプログラムを開発し、2箇所で試行を行った。内容的には諸外国で実施されているものと同様であるが、日本でも導入可能であることが示された。③診療ガイドライン作成者を対象にしたアンケート調査:厚生労働省科学研究費を得て診療ガイドラインを作成した16研究班より得た回答では、(1)AGREE instrumentが評価にあたって有用であること、(2)日本人に関する情報の少なさ、(3)診療ガイドライン、ライブラリアンなどの専門家の支援が得られ難いなどが、今後改善に向けて検討すべき事項として指摘された。④臨床医を対象にしたアンケート調査:内科医10000人を対象にしたアンケート調査により1413人から回答を得た。診療ガイドラインの認知度は、高血圧、糖尿病、高脂血症で8割以上と高く、喘息は7割、胃潰瘍は5割、前立腺肥大症、腰痛症、アレルギー性鼻炎は2-3割であった。診療ガイドラインの認知媒体は、学術誌、次いで製薬企業パンフレット、専門書籍が多かった。サンプルとして選んだ8疾患ともに、診療ガイドラインの内容は分かりやすく、診療で使いやすく、科学的根拠に基づいていると評価するものが多かった。また、診療ガイドラインは現場の治療に有用とする者が78.3%であり、国が積極的に医療の標準化を推進することに肯定的な回答が多かった。診療ガ
イドラインは臨床現場において相当程度普及し、また評価されていることが示唆された。⑤診療ガイドラインにおける経済分析の取扱い: 診療ガイドラインにおいて経済的側面が考慮されているかを検討したところ、英国を中心に、多数の事例が収集された。また、診療ガイドラインの導入効果を別途検討している研究も収集された。診療ガイドラインの普及を促すためには、(1)診療ガイドライン導入に必要な短期的経費、(2)医療財源に与える長期的影響、(3)医療の質向上による臨床効果と追加費用との関係(費用対効果)について、明らかしておくことが求められる。わが国においても、診療ガイドライン作成時に費用対効果の要素を考慮に入れるとともに、診療ガイドライン導入の経済的影響についても検討すべきと考えられた。⑥診療ガイドライン作成における文献検索についての検討:厚生労働科学研究費を得て作成された16診療ガイドラインについて用いられている文献検索方法について検討した。検索のキーワードに記載は9、検索式が明らかにされていたのは6、検索された文献数が記載されていたのは11診療ガイドラインのみであり、改善の余地が大きいと判断された。⑦診療ガイドラインのインターネットを利用した活用:東邦大学メディアセンターでは診療ガイドラインのクリアリングハウスを運営している。利用者調査(2003年11月-2004年2月)により、利用者としては、薬剤師、医師など医療関係者が多く、一般人は11.0%であった。利用目的は、医療関係者では診療のため、服薬指導のためなど業務に関するものが多かった。
結論
本研究は、EBM手法に基づく診療ガイドラインの導入期の日本にあって、評価のフレームを明らかにした上で、①診療ガイドライン作成者、②診療ガイドライン利用者としての医療スタッフ、③診療ガイドライン利用者としての一般人に焦点をあて、これら関係者の間でどのようなダイナミズムの下で診療ガイドラインが受け入れられつつあるかを明らかにするものである。診療ガイドラインの開発が進むにつれて、評価ツールが開発され、臨床家における診療ガイドラインの認知についても、すでに相当普及していることが認められた。今後は、①専門家の派遣や診療ガイドライン作成マニュアルの作成を含めた、診療ガイドライン作成者に対する支援体制のあり方、②利用者別(医療スタッフと一般人)の、クリアリングハウスなどでの情報提供のあり方、③医療スタッフを対象にした、EBMおよび診療ガイドラインについての短期研修コースのプログラム確立、が必要であると考えられる。

公開日・更新日

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