保健医療分野のセキュリティ及びカードの国際規格化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301063A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療分野のセキュリティ及びカードの国際規格化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大山 永昭(東京工業大学フロンティア創造共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
98年に設立されたISO TC(Technical Committee)215では、保健医療分野の情報化における、電子カルテの定義、データ交換、セキュリティ、用語コード等の標準化などに関する国際規格化が審議されている。なかでも、WG4においては、保健医療情報の秘諾性、可用性、完全性を保護し、強化するための技術的手法や、利用者への説明責任と保健医療における安全管理のガイドライン等を検討している。また、WG5においては、保健医療カードに関する内部構造の技術仕様や券面表記などについて議論されている。
ISOで審議される規格案の多くは、欧州規格(CEN)をもとに提案されており、欧州以外の国での利用環境を考慮したものとはなっていない。一方、これら規格がISO化された場合は、WTO協定により、我が国を含め、政府調達の多くが拘束を受ける。このような状況下では、現在国内で提供されている保健医療サービス自体に様々な影響を受ける可能性があり、場合によっては、法改正、厚生労働省通知の見直し等が必要となるばかりではなく、我が国でこれまで提供されてきた医療サービスの体制や効率性に大きな支障が生じたり、患者の利便性が損なわれる可能性がある。 したがって、本規格作成の段階から、我が国で提供されている保健医療サービスとの整合性を確保しておくことが必要である。 これらが実現した際には、我が国の良質な保健医療サービスを現状どおりの形態で提供することが可能であり、同時に、国際的な協調が図れるため、国内の患者の利便性とともに、外国の患者の利便性も高まることが期待できる。
研究方法
WG4及びWG5における主な項目ごとに、提出されている原案をもとに、我が国の状況や既存の法制度、適用される技術等を検討し、また欧米以外の国における運用状況等も鑑み、必要な修正事項を整理した上で、修正提案を作成し、原案の作成,修正に反映させた。
各WGにおける主な規格ごとの検討事項はつぎのとおり。
①「保健医療にかかる個人情報を国際間で交換する際に発生する個人情報保護のガイダンス」(WG4)
EU指令をもとに英国より提案された医療情報を国際的に交換する際の個人情報保護のガイドラインについて、我が国の臨床現場での状況や個人情報保護法の状況等を踏まえて検討した。その結果、我が国より、主に患者の死後のデータの取扱い等に関するコメントを提出し、原案修正のための活動を行ってきたところ、これら意見を踏まえて原案を修正することが成功した。修正原案をもとに、平成15年9月DIS(Draft International Standard)投票にかけられ、賛同を得た。現在はFDIS(Final Draft International Standard)にかける準備を行っているところである。
②「保健医療情報の保存とバックアップにかかる安全性確保の要件」(WG4) 保健医療情報の長期デジタル保存とバックアップのために必要なセキュリティの要求事項の技術仕様書原案が提案されたところ、我が国は、オーストリア、ドイツ等と作業グループを編成し、データの完全性、原本認証、データの機密性と可用性等の観点から研究した結果をコメントに取りまとめて提出し、原案の修正を行ってきた。右技術仕様書修正案については、平成16年4月をめどにCD投票が行われる予定である。 また符合・言語体系を含めてデータ構造と構文法について規定する文書についても議論がされているところ、デジタル署名の検証のための公開鍵基盤についての要求事項などについて検討を行った。
③「医療従事者と患者の安全性、連絡、本人確認にかかるディレクトリサービス」(WG4) X.500フレームワークを使用した保健医療ディレクトリサービスの技術要求しようを定義する規格文書の原案が提案がされているところ、我が国より、公衆ネットワーク上での保健医療情報を安全に交換するのに必要な共通のディレクトリ情報とサービス、および、保健医療情報の交換に必要な「信用の連鎖」に関し、利用者が安全なディレクトリ運用を通じて正しい証明書と証明書の執行状態を確認する必要があるという観点からの検討を行い、必要な修正意見等を提出した。
④「保健医療カードの券面表記と発番体系」(WG5) 欧州CENを原案とした保健医療カードの券面表記及び発行者番号登録制度が極めて自由度の低い規格であり、日本をはじめとするアジア諸国においてはカード保有者の氏名や記号・番号等の配番にも制約があること、また電子処方箋の交換に関する欧州原案について、医療安全の確保や投薬暦と処方箋が混同される可能性等の観点から異論を唱えてきたところ、C/Dドラフトの対案を作成することを議長より要請され、対案を検討してきたところである。券面表記および発行者番号登録制度については、平成15年4月にCD原案第2案を作成し、5月オスロ会議において諸外国と内容協議し、第3案を作成した。8月に第3案をCD投票に付したところ、賛成13、反対1でCD承認された。その後、CD投票において出された種々コメントを反映させ、DIS原案を作成したところである。
⑤「保健医療カードに搭載する電子処方箋」(WG5) 2001年にカード内に電子的に作成する院外処方箋に関する規格案が提出されたところ、我が国より、日本の法制度上の必須項目は薬品名、分量、用量、用法などに限られている等について説明し、データ項目は基本的にすべてオプションにすべきと主張した。この結果、データ項目の多くがオプション扱いとなった。その後、英国及び議長より、本規格のCD投票を行いたい旨表明されたところ、我が国より、本規格に対する本規格の設置趣旨、対象範囲、処方箋の国際間のやりとりにかかる見解等について懸念をとりまとめて表明し、我が国からの主張及びカナダ、ドイツなどの意見をふまえ、修正しCD原案を作成した。 さらにCD投票においても数多くの意見が出され、ドイツ、フランス等と協力して、CD文書の修正を行った。
結果と考察
①「保健医療にかかる個人情報を国際間で交換する際に発生する個人情報保護のガイドライン」 
EU指令等を基盤として、英国より提案された国境を越えて保健医療データを交換する際に要求される患者の個人情報保護等に関するガイドラインである。我が国の実情を研究・調査した結果をコメントとして整理、提出した結果、CD(Community Draft)案に反映され、参加各国の賛同を得て、DIS原案となった。
②「保健医療情報の保存とバックアップにかかる安全性確保の要件」
保健医療データは長期にわたり、または無期限に保存する必要があるが、この場合に必要な要件に関する技術仕様書(Technical Specification)案が提案されたところ、我が国の実情を研究・調査した結果をコメントとして整理、提出し、CD(Community Draft)原案となった。
③医療従事者と患者の安全性、連絡、本人確認にかかるディレクトリサービス」 X.500フレームワークを使用した保健医療ディレクトリサービスの最小の技術的要求しようを定義する技術仕様書案が提案されたところ、我が国が作成したIHE(Integrating Healthcare Enterprise)の仕様を反映させるための研究・調査した結果をコメントとして整理、提出した。その結果、これを反映させる形でCD(Community Draft)原案を修正することとなった。 
⑤「保健医療カードの券面表記と発番体系」  保健医療カードの券面表記と発版体系について、我が国が作成した原案に対し、CD投票において、数多くのコメントが出された。本研究班においては、英文の修正、券面の表記義務項目とオプション項目の再検討等を行い、修正案を作成し、各国に説明したところ、DIS原案とすることで了解された。
⑥「保健医療カードに搭載する電子処方箋」 保健医療カードに搭載する電子処方箋について、本研究班において検討、整理したタイトル(e-Prescription)の修正、本文書の位置付け、医療安全への対策などについて意見だしをしたところ、ドイツ、フランス、韓国等の賛同を得、大幅な修正を求めるタスクフォースの編成および提言に成功した。
結論
我が国の保健医療分野における既存の制度や環境等を考慮し、これらと整合性をもたせた国際規格を作成することにより、我が国の良質な保健医療サービスを現状どおりの形態で提供することが可能であり、同時に、国際的な協調が図れるため、国内の患者の利便性とともに、外国の患者の利便性も高まることが期待できる。

公開日・更新日

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