電子カルテシステムが医療及び医療機関に与える効果及び影響に関する研究

文献情報

文献番号
200301045A
報告書区分
総括
研究課題名
電子カルテシステムが医療及び医療機関に与える効果及び影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
阿曽沼 元博(国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 梅里良正(日本大学医学部医療管理学)
  • 中村清吾(聖路加国際病院情報システム室)
  • 小出大介(東京大学大学院医学系研究科)
  • 開原成允(国際医療福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
18,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1999年4月22日の厚生省(当時)の3局長通達(「診療録の電子媒体による保存について」の規制緩和措置)により、我国の電子カルテシステム導入が本格スタートした。その後政府のe-JAPAN構想重点項目にもなり、医療機関での導入が本格期を迎えた。しかしながら、医療機関経営は厳しい環境にあり、多くの医療機関が導入時掲げる①医療の質的向上②経営の効率化③患者満足度向上等の目標がどの程度実現できたか実感出来ず、また客観的に示す事が出来ずにいるのが現実である。また、大規模な国公立病院や大学病院が先行した電子カルテシステムの導入が、近年中小規模の民間病院へ波及し拡大しているが、まだ多くの医療機関が直接的・間接的、定量的・定性的、そして経営的にどの様な効果があり、どの様な課題があるか暗中模索の状況にあり、自ら積極的に導入しようとする医療機関はまだ少数である。電子カルテシステムの導入の事例紹介は多くなされているが、導入により医療及び医療機関に与える影響(効果と課題)に関し総合的かつ具体的な調査・分析は行われていない。本研究では、このような認識のもと、導入済みの医療機関を中心とした実態把握とその分析を行い、具体的な効果を明らかにし併せて今後導入を計画中の多数の医療機関の指針となる導入ガイドラインや自己評価の手法を明示していくことを目的としている。
研究方法
2年度計画の第1年度である平成15年度は、電子カルテシステム導入済み医療機関の実態調査を行った。導入稼動済み医療機関の中心メンバをあつめ「電子カルテ導入効果研究会」を結成し、導入病院の状況整理を行うと共に、アンケートによるデータ収集を開始した。アンケート調査は広範囲の設問項目を用意し、350医療機関(学会発表・学会誌・論文発表・専門誌調査により電子カルテシステム導入標榜病院)に対して行った。回収率は17%と低率であったが、非常に中身ある調査となった。そして、収集したデータや研究会参加の医療機関実地調査データを整理しつつ、個別の研究テーマごとに以下の通り分析していった。①電子カルテシステムの定義が社会的に定まっていない状況で、「電子カルテシステムを導入」と標榜している医療機関では、そのIT化の範囲や、厚生労働省が規定した3原則(真性性・見読性・保存性)の遵守状況などまちまちである。実態調査や研究会での議論を踏まえ、本研究班としての電子カルテシステムの定義付けを行った。さらに、本研究班ではJAHISが示した電子カルテシステムの段階的定義に基づくカテゴリー分けをアンケート結果から試みた。②導入の効果分析を行う上で重要な費用対効果を分析していく上で、現状の投入コスト及び運用コストを把握し、指標となるモデル化を試みた。③アンケート調査をベースに導入の影響を整理し、今後の導入ガイドラインの策定の基礎資料としての整理を行った。④導入評価の手法として、主に効率性を評価する手法として用いられるDEA(Data Envelopment Analysis)やBSC(Balanced ScoreCard)等を検討し、電子カルテシステムの導入評価の手法を選定し、その効果的指標を検討検証した。(倫理面への配慮)個別病院名の記載は控えた。
結果と考察
①本研究では電子カルテシステムを医療機関(病院)全体のIT化と位置づけ、医事・管理部門及び外来・病棟の診療支援やデータウエアハウスを基幹システムとし、薬剤部門システム等の供給系システムと検査・放射線部門等のME系システムで構成されるものとした。また、電子カルテシステムには、その
対象範囲や各医療機器の整備状況の総意により、レベルが存在するとの仮説をたて、その基準としてJAHISの5段階レベル(レベル1:部門内における電子化、レベル2:部門間をまたがる電子化、レベル3:一医療機関内のほとんど全ての電子化、レベル4:複数の医療機関をまたがる電子化、レベル5:医療情報のみならず保健福祉情報を含めた電子化)での分類を行った。アンケートの結果はレベル2が43.3%、レベル3が36.7%となった。まだ本格的な電子カルテシスムの比率は少なく、実態としては、まだオーダリングシステムのレベルで留まっているのが現状である。今後さらにこのレベル毎の影響分析を行い、システム化の範囲との関連を詳細に分析予定である。②アンケート調査では60医療機関から多くのデータ収集が出来た。電子カルテシステムのレベル調査をはじめ導入状況に関する項目、利用に関する項目、影響に関する項目など約140項目に及ぶ設問と経営陣、医師・看護師、技術部門等々の各部門の設問も用意し、フリーコメントを含め、広範囲のデータ収集が出来た。またアンケートとは別に、先進医療機関の7病院の協力を得て、初期費用と運用費用の実態を調査した。大学病院を中心とした大規模病院では30~40億円規模の投資を行っており、民間の中規模医療機関の3~7億円との大きな開きがあることが分った。今後導入効果を計る上で、更なる詳細な分析を行っていく必要がある。 ③アンケート調査により導入の影響を図るためのデータが充分に収集できた。電子カルテシステムの点数は?との設問にほとんどの医療機関が高得点を付け、平均でも64点を上回る評価であった。また経営医面でも収入増や平均在院日数の面で好転したと回答した病院も予想以上(変化なしを含めるとどの指標も90%以上の高率となった)となった。今後レベル別、経営主体別の詳細の分析を進める。④導入評価の手法としてはBSCを採用する事とし、基本となる4視点(患者視点、財務視点、病院機能視点、人材育成視点)のそれぞれのKPI(Key Performance Indicater:重要業績評価指標)の検討を行った。電子カルテシステムが病院の運営や経営に深く関わる事から、病院経営の指標と同一のものとなるが、特に電子カルテシステム導入の影響を図る指標としてカルテに接する時間や利用している頻度・職種、安全面の評価や標準化、一連の診療に関わる患者の来院回数等多くの指標選定の仮説を立てた。今後研究会参加の医療機関での実証を行っていく過程で、標準的な指標の選定とその検証を行っていく。
結論
電子カルテシステムの導入は、総じて多くの医療機関での病院の機能を高め、患者さんの信頼を得る上で有効なツール・手段であることが確認できた。しかし、その効果や影響を客観的に評価し示していく良い手段が無いということも再確認できた。多くの事例紹介があるが、自院にとってどうかを投影できず導入事例がガイドラインになり得ていないことも確認できた。今後その面の標準的手法を研究を通じて示していきたい。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-