病名変遷と病名ー診療行為連関を実現する電子カルテ開発モデルに関する研究

文献情報

文献番号
200301043A
報告書区分
総括
研究課題名
病名変遷と病名ー診療行為連関を実現する電子カルテ開発モデルに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
廣瀬 康行(琉球大学)
研究分担者(所属機関)
  • 植田真一郎(琉球大学)
  • 北野景彦(インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の保健医療福祉制度は過渡期をむかえており各種の改革が推し進められているが、そのなかにあって診療行為の論拠性と効率化と品質維持、あるいは行政施策立案のために必要となる一次情報を精確に収集分析するためには、医療情報システム自体の品質の向上が不可欠となっている。
しかし既存のほとんど全ての医療情報システムは、極論すれば単なる伝票処理のための縦割りシステムで「原因や事由に基づいた行為」の「連続」の結果としての「成果」を記録するような構造設計とはなっていないため、一次情報の扱いに不便なだけでなく二次情報処理の際にもノイズや方向性不整合を含んだまま解析しなければならない現況である。これを解決するには、病名やプロブレムが変遷する事実を捉え、病名やプロブレムは診療行為と関連付け、その関連性は論拠や事由として意味付けることが重要である。本研究はこれらの機能を実現可能とするべく、システム開発用のモデルを構築するものである。
研究方法
本研究の骨子は、病名/プロブレムの変遷を捉える情報モデルの構築および病名/プロブレムと診療行為と関連付けを為す情報モデルの構築の二つであり、今年度は主に前者を実施した。ただし本研究の成果を実りあるものにするべく、幾つかの関連する事項も併せて視野に捉えて研究を遂行した。まず採用した基礎となるモデルやポリシーを挙げる:(A)情報モデルと記述モデルには厚生労働科研(H12-医療-050)の分担研究成果であるオントロジモデルを採用した。これはontologyに基づいた定式化による情報モデルであり、また直列化手法にはXML Schemaを用いている(CSX Ontological XML Schema)。(B)思考過程モデルには問題解決空間[医療情報学17,1997]を採用した。というのも診療品質評価や臨床試験あるいは医療経済分析を実施する際の基礎となる精確な記録と正確な解析には、病名変遷と病名診療行為連関のみならず、Goal設定やEndPoint設定の記述も必須であり、その全体枠組みのなかでの本研究の遂行が肝要だからである。(C)変遷モデルにはプロブレム変遷記述言語[医療情報学連合大会論文集17,1997]を採用し、その述語群と修飾節を『変遷関係』と『要素属性』とに置換した。(D)HIのデザインポリシーには[電子カルテシンポジウム論文集,1996]を採用した。(E)HIのデザインモデルについては診療プラットフォーム[医療情報学連合大会論文集16/17,1996/1997]を採用した。開発環境には原則としてC#.NET Framework 2003およびCacheを用いた。なおセキュリティにも留意して役柄配役立場モデル(Character-Cast-Capacity model;3Cモデル)の概念設計も実施した。
結果と考察
(1)現職において臨床家・臨床試験専門家・臨床教育家である分担研究者の観点から思考過程モデル、オントロジモデル、3Cモデルを検証した結果、いずれも重要かつ意義深く有用なことが明らかとなった。特に思考過程モデルは品質評価に資するのみならず日常臨床の品質を高めるとともに一次情報の質を保証し、前向き試験にも後向き試験にも有用なデータを供するゆえに、EBM研究には二つの事柄すなわち考え方と情報モデルとを供与できることが示された。(2)CSX Ontological XML Schemaによる病名/プロブレムの構築、プロブレムリストの構築、病名/プロブレム変遷の情報モデルおよび記述形式の策定は、いずれも比較的容易でありCSX Ontological XML Schemaの構造改変は要さなかった。このような易拡張性は、その抽象性、オントロジ、W3C XML Schemaの特長を活用したxsd群、アトリビュート値へはcode schemaの適応、に拠る。なお現段階では患者、医師、診療科、保険情報との関連付けは含んでいない。(3)病名は四要素すなわち部位、前置修飾語、根幹病名、後置修飾語から構成した。各要素はSubstanceとして定義しておき、次に病名全体を表す「構成体」Substanceを用意してRelationを定義して構成する。プロブレムリストの構築もほぼ同様で、まずプロブレムリストSubstanceを用意して病名SubstanceとのRelationを定義する。必要なアトリビュート値はSimpleType facetを定めるxsdに追加した。(4)病名composerはMEDIS-DC標準病名集対応として試作実装した。(5)変遷関係を表現するために描画編集用の機能モジュールを設計、試作した。これには二つの手法:扱いの容易なTree pane、拡張性のあるGraph pane、を用意した。前者は臨床現場での使用にはほぼ充分だがグラフ構造をサポートせず結合可否は単一的な制御しかできな
のでて同時性(共起性)表現と多重結合における結合選択性の実現に難を生じる。よってGraph paneを用意したが、アプリケーション構造は複雑化するので、論理アーキテクチュアに分割して、各クラスの配置ならびに必要なイベントを設計した。そのデザインパタンはLayersパタンあるいはBCE分割といえる。(6)3Cモデルは権限根拠の生成と獲得の構造に関する情報モデルなので権限根拠管理に基礎を与えるものである。さらにPKIへの適合性が考慮されているのでPMIに資する。具体的には、人は役柄に配役され、場に上がるには場における立場を明確化する必要があり、権限はその立場に対して与えられる、というモデルである。(7)本研究の今後の展開にはオントロジモデルに確たる制約表現力を付与する必要を感じたので、そのための設計方針を立案するべく種々を考察した。さらにxsdおよびUMLクラスの改変を要しない類型についてはインスタンスを試作して実現性を確認した。これにより、archetypeの記述や知識表現への途が拓かれることとなった。
結論
(1)思考過程モデル・オントロジモデル・3Cモデルはいずれも診療現場、臨床研究、臨床教育の点で重要かつ意義深く有用であることが示された。(2)病名/プロブレムの構築と変遷について情報モデルと記述形式を定式化し、試作実装まで完遂した。今日、病名/プロブレム変遷に関する汎用的なモデルや実装は他に無いゆえ本研究成果は貴重である。(3)権限根拠の管理に資する3Cモデルを概念モデルまで終えたがこれは現時点ですでに、各種セキュリティポリシの考案へ大きく貢献しうる。(4)研究成果は診療品質・その記録・プライバシー保護に共通して、証跡性を確保する情報モデルである意義は大きく、また深い。これは「原因や事由に基づいた行為」の連続における場や成果を記録するための情報モデル構築を目標としたことに根ざしている。(5)論拠性あるの行為の経過を記録することは経験と知識とを蓄積することと同値である。熟練者と初心者との比較を機械処理する可能性を拓くものであり、臨床教育に資するところ大である。(6)病名診療行為連関の概念設計は完了済みだが、記法の定式化と試作実装は次年度の課題である。

公開日・更新日

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