標準的電子カルテシステムのアーキテクチャ(フレームワーク)に関する研究

文献情報

文献番号
200301041A
報告書区分
総括
研究課題名
標準的電子カルテシステムのアーキテクチャ(フレームワーク)に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
高田 彰(熊本大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 山本隆一(東京大学大学院情報学環)
  • 長瀬啓介(京都大学医学部附属病院)
  • 安光正則(フューチャーシステムコンサルティング株式会社)
  • 作佐部太也(静岡大学工学部)
  • 永井肇(保健医療福祉情報システム工業会)
  • 手島文彰(保健医療福祉情報システム工業会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
電子カルテシステムの互換性確保、導入容易化、短納期化、低コスト化を通して電子カルテ普及を推進するために、モデルおよびコンポーネントを用いた電子カルテシステム開発の枠組みを策定し、技術的基盤を整備することを研究目的とした。
研究方法
以下の方法で電子カルテシステムのモデル化に関連する研究を行った。(1)国際標準化動向との整合性確保の重要性から、先進諸外国のEHR(Electronic Health Records)モデルの開発動向について調査した。(2)モデリング手法とモデル表記法を、CBOP(ビジネスオブジェクト推進協議会)およびINTAP((財)情報処理相互運用技術協会)の協力を得て具体化した。(3)モデルの利用と改訂のための枠組みとして、EA(Enterprise Architecture)についての調査を行なった。(4)電子カルテシステムの要件整理のため、既存の電子カルテシステムの開発経験や個人情報保護法等の社会的な動向を捕らえて業務機能モデルとしてまとめた。(5)電子カルテシステムの情報モデルをHL7V3のRIM(参照情報モデル)に準拠するため、処方情報に範囲を絞って調査開発を行った。(6)電子カルテシステムの処理モデルの開発手順をMDA(ModelDrivenArchitecture)に沿って具体化し、それをもとに調査開発を行った。(7)上記モデリングの成果物をもとに電子カルテシステムを構成するための実行モデルを開発した。(8)電子カルテシステムを構成する上で情報技術を選択するための基準について整理した。(9)電子カルテシステムを構成するコンポーネントについて、流通可能なコンポーネント粒度としてユニットという概念をあらたに導入し、ユニット間の相互運用性を検証するための仕組みを策定した。
結果と考察
以下のような研究結果が得られたので考察を加えた。(1) EHRモデルの開発動向として、ISOのオープン分散処理参照モデル(Reference Model - Open Distributed Processing、以下RM-ODPと略す)やOMG(Object Management Group)のEDOC(Enterprise Distributed Object Computing)によるモデル駆動によるコンポーネントベースのアプローチの妥当性を評価した。これにより、本研究で採用する手法が世界的標準化動向の中で適切な位置付けにあることを検証できた。(2) モデルおよびコンポーネントを用いた電子カルテシステム開発の枠組みとしては、OMGの複合システム用モデル記述方式(UML Profile for EDOC)の適用ガイドにおける処理モデル作成のための手順の具体化を行った結果、モデルからコンポーネントを導出するまでの開発手順を実用段階まで具体化出来た。また、EAとISOのRM-ODPやOMGのEDOCによるモデル駆動型アプローチとの親和性について検証した結果、モデルおよびコンポーネントを参照・利用するためにEAアプローチが有効であり、これまで本研究で採用した手法との親和性が高いことを検証した。(3)モデルを用いた電子カルテシステムの開発に関しては、開発したモデル(データモデル、処理モデル)はUML(Unified Modeling Language、統一モデル記述言語)で記述されており、第三者でも容易に理解することができるだけでなく、他のモデルとの比較を行う上でも強力な道具になることが確認された。さらに、実行モデルを整備することで、分析・設計フェーズで作成されたモデルとコンポーネントとのシームレスなつながりを実現できることが確認された。これらの結果、電子カルテシステムを開発するための技術的基盤として、モデル
を拡充し参照モデルとして提供することで、モデルを用いた電子カルテシステムの開発が効率化されることが認識された。(4) モデルのコンテンツ評価としては、作成した電子カルテシステムの業務機能モデルを、今後ユーザサイドの評価を得てより質の高いものにすることが望ましい。また、HL7V3のRIM(参照情報モデル)に準拠して電子カルテシステムで使われる情報項目についてのデータモデルを試作した結果、HL7V3のRIM(参照情報モデル)は電子カルテ用参照モデル開発の強力な拠り所となることを確認すると共に、HL7が臨床文書アーキテクチャを参照情報モデルに融合する作業中なので、この作業への参加を強化する必要性を確認した。(5)試作した実装モデルは非常に可視性が高く、また機能の層別が明快に行われているために、システム設計において強力な拠り所となることが認識された。(6)コンポーネント流通の観点から、コンポーネントからユニットを導出するための手順を策定するとともに、多様なユニットの導出を実施しユニットの有効性を検証した。また、電子カルテシステムを構成するコンポーネントを固定コンポーネントと可変コンポーネントに分け、可変コンポーネントのみを開発・変更するだけでユニットを構成する方法について整理した。この結果、ユニット間の相互利用性を保証する仕組みを整備していく必要があることが確認された。(7)本研究の周辺技術やコンテンツに関しては、以下の考察を得た。①電子カルテへの要求事項についてはJAMI、各医学会、ユーザ団体との協力が必要である。②HL7メッセージの標準的な適用は相互運用性の面で重要な決定であり、HL7メッセージの適用を検討あるいは検証・普及しているIHE-JやJAHISの各委員会との協力が不可欠である。③情報項目はHL7参照情報モデル準拠を基本とするが、日本で使われている情報項目の整理は不可欠であり、JAMIやユーザ団体、個別に見識・情報を蓄積している先進ユーザとの連携が重要である。④病名マスタ、医薬品マスタなど安心して使えるマスタの入手が重要であり、厚生労働省、JAMI(日本医療情報学会)、MEDIS-DC等との連携強化が必須である。⑤新しい情報技術に関してはebXMLやOMG、CBOP、INTAPなどのIT技術団体との連携が必要である。
結論
以上の結果からモデルおよびコンポーネントを用いた電子カルテシステムの開発は以下のように、電子カルテ普及の大きな推進力になり得るものと考えられる。(1) 電子カルテシステム導入時のデータ互換性およびシステム間の相互運用性を保証するための仕組みとして、EAアプローチを導入することは有効であり、これにより中長期的な視点から全体最適を考慮した電子カルテシステムの計画的な導入が可能となり、電子カルテシステム導入のための投資を最適化できることが期待される。(2)EAアプローチを導入し、参照モデルや組織として共有するべきルールや標準を技術的基盤として整備していくことにより、今後開発が望まれるモデルおよびコンポーネントをベンダ間およびユーザ間で共用されることが可能となり、これにより電子カルテシステム導入時にその時点におけるベストプラクティスを具現化でき、ユーザ側の情報格差を解消することに大きく貢献することが期待される。(3)電子カルテシステムを構成するユニットを流通単位とし、ユニット間の相互運用性をIHE的なアプローチで保証することにより、高品質確保、導入容易化、短納期化、低コスト化を誘導し、電子カルテシステムの導入促進に大きく貢献することが期待される。(4) 電子カルテ導入のために当研究では直接取扱っていない課題に関して、以下のような各種の活動との連携が重要である。①電子カルテへの要求定義に関するユーザ関係団体との連携、②適用するメッセージに関する、関係研究班や各団体との協力、③情報項目に関するユーザ団体、先進ユーザとの連携、④個人情報保護やセキュリティ技術ほかの先端ITに関する、関係研究班やJAMI、INTAP、OMGとの連携。

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